レトロボードに心奪われた若きトップシェイパー
古きよき時代のサーフカルチャーをリスペクトした"レトロムーブメント"をけん引する若手シェイパー、トロイ。新世代シェイパーとして注目を集めているだけでなく、モーターサイクルやスケートにも強いこだわりをのぞかせる。〈サイクルゾンビーズ〉との絆も深く、独特のセンスを併せ持つ彼の素顔に迫ってみよう。
●今月のサーファー
トロイ・エルモア[TROY ELMORE]
トロイがサーフィンをはじめるようになったのは、ハンティントンビーチに引っ越してきた8歳の頃。そのきっかけは、ベビーシッターからのギフトとして貰ったスケートボードやサーフボード、サーフムービーだったという。すぐさま横ノリカルチャーに興味を示した彼が、ビーチ好きの少年へと育つのに時間はかからなかった。クルマにサーフボードを積んでビーチまで連れていってほしいとよく母に頼んでいた、と懐かしそうに目を細めて語るトロイ。のちにニューポートビーチでもサーフィンをするようになり、そこで運命的な出会いを果たす。それは、サーフィンとモーターサイクルをクールに乗りこなす集団、〈サイクルゾンビーズ〉のメンバーたちだった。
「ニューポートのビーチで偶然出会ったスコッティとターキーと話すようになって、ターキーが乗っていたロングボードを借りていいかと聞いてみたんだ。そしたら彼は快く貸してくれた。たしか僕が12歳の頃だったと思う」
それまでショートしか乗ったことがなかった彼にとってロングボードでのライドは衝撃だった。
「あのときは、たった数本乗っただけで乗り心地が想像以上にしっくりきて、もう“ショートボードデュード(野郎)”には戻れない、と直感が降りてきたんだ」
ターキーらによりロングボードと運命的な出合いを果たしてからは、すっかりロングやフィッシュなどクラシックでスタイルのあるボードの虜となったトロイ。その情熱が彼をシェイパーにまで押し上げるのはあっという間だった。はじめてボードやフィンを自分で削ってみたのが20代のはじめ。そしてこれが天職だとすぐに感じた。
「自分で削ったボードに乗ったら、スケートのようななめらかさとふわりとした浮遊感、スピードを実感したよ。それにビッグターンもループアウトも簡単にできるようになったんだ」
でも、その頃のサーフシーンはショートを楽しむのがメジャー。ロングボードやツインフィッシュのよさはまだ浸透しておらず、ロングで楽しげに波に乗る彼の姿は珍しかった。しかし、そんな様子も近年は変化してきたという。
「ジョエル・チューダーやライアン・バーチのおかげで、みんなのボードが徐々に多様化してきた。いつかより柔軟な考え方が広まれば、様々なタイプのボードがシェイプされるはずだよ」
熱い思いを語るトロイ。でも、おそらく一般サーファーのボードが多様化し、クラシックがかつてより支持を集めるようになった背景には、トロイ自身の貢献もあるに違いない。
12歳のときビーチで出会ってから、スコッティやターキーはじめ、〈サイクルゾンビーズ〉たちとは家族のように深い絆で結ばれている。彼らの影響でロングやツインフィッシュの楽しさを知っただけでなく、モーターサイクルのビルドをはじめたのも彼らからの影響だという。
「父と祖父がハーレーを乗っていたのに、10代の頃は母が厳しく、モーターサイクル禁止だったんだ。仕方ないからスクーターを乗りまわしていたけれど、正直なところ、自分ではクールだと思わなかったよ(笑)」
そんな経験を経て、ようやく母親の許しを得、19歳の頃にヴィンテージのトライアンフを手に入れる。これは、トロイ本人が〈サイクルゾンビーズ〉のターキーとともにビルドしたものだそう。今では、自分でビルドした’60年代のハーレーも所有している。彼らからはほかにも、音楽やヴィンテージアイテムなどの分野でも影響を受けたとか。アコースティックやエレクトリックギターが得意なトロイは、たまに友人とバンド活動をしてみたり、スコッティらともセッションするのだという。
そんな兄貴分たちの影響もあり、マルチな才能を得たトロイ。そんな彼のスタイルをリスペクトし、サーフィン&バイクブランドの〈ブリクストン〉がスポンサードを開始。最近注目を集めている。
「はじめて〈ブリクストン〉のスタッフに会ったとき、彼らは僕のことをすぐに受け入れてくれて、フェアに助け合えるんだろうな、と感じたんだ。というのも、それまで僕のスポンサーからは、サーフボードを提供してもらっただけで、相乗効果が見出せなかったんだ。けれど〈ブリクストン〉との出会いは、シェイパーとしてだけでなく、多くの可能性を開くきっかけになったよ」
4年前からニューポートビーチ近くにシェイプルームを借りて本格的にビルドしはじめたトロイ。朝は波があれば波乗りし、昼までにはシェイプルームに入り板をひたすら削る。オルタナティブサーフショップとして評価の高いモラスク、タリア、デイドリームサーフショップなどから次々とオーダーが入る。ネットで直接受注することもあり、忙しい日々を送っている。
そんな彼のシェイプルームには所狭しとシェイプされたボードが並ぶ。天井にはクラシックなロングボードやフィッシュが置かれているがシェイプルームはきっちりとオーガナイズされている。ほとんどのヴィンテージ好きなサーファーというと、至る所に古い物が置かれているイメージだが、彼の場合はそれとは違い、無駄なものがそぎ落とされ、洗練されている。その様子は、彼の余計な飾りのないボードやファッション、アイデンティティと同じだ。
トロイ・エルモアが今最も勢いに乗るトップの若手シェイパーとして活躍しているのは言うまでもない。だが、プライベートではバランスよく息抜きができているようだ。
「2カ月前にフィアンセと住むために新しい家に引っ越したんだ。海近の落ち着いた住宅街の中にあって和むよ。シェイプルームから自転車で通える距離だけど、オンとオフの切り替えができるから生活にメリハリができてメンタル的にもヘルシーな生活を送っているよ」
フィアンセとともにホッとできる空間で充電した後は、いいモチベーションでクリエイティブな時間を費やすことができる。この好循環が次なるステージへと繋がっているのだろう。
ホームポイントはココ!
ブラッキーズ[BLACKIES]
ニューポートビーチのピアの北側に位置するポイント。サイズがあればロングからショートまで楽しめる。サーファーでアーティストのアレックス・ノストはじめ〈サイクルゾンビーズ〉のスコッティら多くの有名サーファーが出没
雑誌『Safari』8月号 P222・223掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahash(i Volition & Hope)