「自分らしくいられることを追求しているだけなんだ」
フリーサーファーでアーティスト、モデルで俳優、そして寿司職人というマルチな才能を発揮するコリン。常にエネルギッシュでダイナミックな彼は、〈CJネルソンデザイン〉などのサーフブランドをはじめ、多くのスポンサーのアンバサダーやモデルを務めつつ、自身のビジネスにも情熱を注ぐ。我が道を突っ走るサーファーだ。
●今月のサーファー
コリン・ホイットブレッド[COLIN WHITBREAD]
サンディエゴの北部に位置するレイドバックしたサーフタウン、オーシャンサイド。ここで育ったコリンは、幼い頃から地元の友人と毎日のように海に通い、波を楽しんでいた。
「たしか8歳の頃、父親から手ほどきを受けてサーフィンをはじめた。最初に乗ったのがロングボードだったせいか、それ以降、クラシックスタイルに惹かれていったんだ」
当時から憧れるサーフヒーローは、オーシャンサイドのサーファーで世界チャンプでもあるL・J・リチャーズはじめ、レイモンド・ターニングシールド、ドナルド・タカヤマなど、ロングボードのレジェンドたちだ。影響を受けたのは、彼ら独自のライディングだけでなく、その生き方もだという。
「彼らのライディングはいつ見ても新鮮で格好いい。オールドスクールなのにタイムレスなところが最大の魅力なんだと思う」
ロングボードの魅力に取り憑かれたコリンはオーシャンサイドだけでなく、ロガーが集まるカーディフやドヘニービーチでもサーフィンをするように。しかしコンペティションには興味はないよう。
「僕にとってサーフィンはフリーダム。波の上でダンスやステップしたり、心のフローにまかせてなににも囚われず、いろんなものを解放できる素晴らしいものだと思う。だから競うことよりも感じることに重きを置いている」
競争の世界に身を置かず、自分が楽しめるスタイルを追い求めるコリン。そんな自由で気ままなスタイルが支持されてか、彼は、〈CJネルソンデザイン〉や〈レインオプティクス〉、日本のウェットスーツブランドである〈ブレーカーアウト〉ほか、多くのブランドのライダーやモデルとしても活躍している。また、ライダーを務めるテキーラブランド〈ホセ・クエルボ〉では、女子プロサーファーのカシア・ミーダーと一緒にメキシコにサーフトリップへ。それ以降、彼女との交友関係が深まり、現在はカシア所有のアパートを借りて、コリンとコリンのガールフレンド、そして彼女のキッズとともに住んでいるのだという。こんなふうに企業や人々から愛されるのも、常にポジティブで自分の好きなスタイルからブレないコリンの人柄ゆえなのではないだろうか。
ロングビーチの大学でファインアートを学んだコリンはペインターとしても活躍し、地元のビルにミューラル(壁画)を手掛けたり、エキシビションなどに出展したりしていた時期もあった。現在は、ペインターでもあるガールフレンドの影響もあって水彩画でランドスケープを描くのに夢中だという。取材当日は、ダイニングテーブルの上に自身の描いた作品の数々をディスプレイして取材班に披露してくれた。ところで、サーファーの彼の作品に、美しい森の風景が多いのはなんだか意外……?
「彼女の作品に魅せられて水彩画をはじめたんだ。最近はその彼女とキッズたちとよくキャンプするので、そこで見た自然を描いているよ」
そういえば彼のアパートも、エントランスには小庭があって、とてもピースフルでオーガニックな雰囲気。ガレージはボードラックが設置され、きちんとオーガナイズされている。ちなみにボードはドナルド・タカヤマなどのロングが多いが、そのうちの1つに友人のサーファーでありフォトグラファーでもあるデーン・ピーターソンがシェイプした板も大切に保管されている。その隣にはキャンピングギアが並び、なるほど森林を描いたアートが多いのも納得だ。
そんなアーティスト気質のコリンは、異色なサーフムービー『フォービドゥン・トリム』(2016年公開)の主役を演じ注目を集めた。
「この作品では、主演俳優としてだけでなく脚本、プロデュースも手掛けたんだ。これはちょっと変わったサーフムービーで、『G.I.ジョー』とサーフィンをミックスしたような世界。監督を務めたジョージ・トリムとは、とてもいいタッグを組めたよ。近い将来、また映画を製作したいと考えているんだ」
ところでコリンのインスピレーション源とはなんだろう。もちろんアウトドアや波乗りもそうだろうが、ちょっと意外なのが趣味だというミリタリーもの集め。部屋には軍モノ関連の書籍がちらほら。彼のユニークな発想は、こんなところからも生まれているのかもしれない。
マルチな才能を持つイケメンサーファーのコリンだが、現在彼が最も集中しているのが自身の寿司ビジネスだそう。地元の寿司屋で経験を積んだのち、13年前にケイタリングの寿司シェフとして独立。以降、徐々にビジネスを拡大して、今では大勢の顧客を抱えるまでに。
「寿司を作る1つ1つのテクニックが面白くて、いつの間にかシェフになっていたんだ。普段はトラディショナルなものとカリフォルニアスタイルを融合させたオリジナルのフュージョンを提供しているよ。お客様とのやりとりもライブ感があって楽しいし、毎回美しいアートを作っている感覚でもあるんだ」
ここ数年さらなる人気を集めているコリンの寿司ケイタリングビジネス。去年の年末には〈テスラ〉の社長から予約の問い合わせもあったとか。とはいえこんな筋金入りのサーファーが寿司シェフとはかなりのギャップ? でも、かつてあるお客様に
「サーフィンと寿司。まさにカリフォルニアの代表的なものを仕事にしているんですね」
と言われ、妙に納得したそう。多方面で才能を見せるコリンだが、普段のライフスタイルはいたってシンプル。朝と夕は基本的にキッズたちの学校の送り迎えを行い、時間があれば午前中に海に入る。午後は、寿司ケイタリングの仕込みをしたり、それ以外の仕事の打ち合わせや撮影をしたりなど。年に1、2回はサーフブランドのクライアントとともに海外トリップも行う。近い将来、彼がライダーを務める〈ブレーカーアウト〉のツアーで来日するかもしれないのだとか。その際はツアーで自身の寿司も披露する予定だそう。
ホームポイントはココ!
オーシャンサイド[OCEANSIDE]
サンディエゴ北端。観光客も多いオーシャンサイドピアの両脇(特に南側)に波が立ち、基本的にビーチブレイクで南スウェルが入るとベストコンディションに。波が上がれば、ショート~ロング、フィッシュなど幅広く楽しめる
雑誌『Safari』5月号 P308・309掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahash(i Volition & Hope)