新作が公開される際に、「この映画は、是非劇場で」とアピールされることが多い。たしかに後から配信やDVDなど個人的に視聴するより、真っ暗な映画館の大きなスクリーンで観る方が、その魅力を存分に味わえるのは事実だからだ。とはいえ、自宅の小さめのモニターで観ても、そんなに印象が変わらない作品もいっぱいある。ただ、この『関心領域』は確実に映画館で“体験”することがマストだと言える。
何より、映画館で感じてほしいのは“音”である。『関心領域』は今年のアカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞。音響賞に関しては当初、本命といわれた『オッペンハイマー』を押し退けての快挙だった。つまり、それだけ音響が重要な役割を果たし、評価されたということ。メインの舞台になるのは、ある邸宅。明るい光に包まれた広い庭には花が咲き、夏になればプールで子供たちが楽しそうに遊ぶ。思春期の若者は、家の裏手で恋愛感情を高めたりもする。しかしその場所は、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所の隣。時代は1945年。邸宅の主人は収容所の所長だ。平和で穏やかな日常風景が映し出されるなか、つねに違和感のある奇妙な“音”が鼓膜を刺激する。この音をどう感じるかが本作の重要ポイントで、だから生活音などから遮断された映画館で観るべきなのである。
音はもちろん収容所の内側からのもの。その音がどう発せられているのか、映画を観るわれわれは想像する。邸宅の人たちもおそらく音の源をわかっていながら、日常を淡々と過ごしている。本作には収容所内で何が行われているか、一切描かれない。そこが逆に怖い。そして時折、謎めいたモノクロ映像が挟まれるが、そのシーンでの音の使われ方もかなりショッキングだ。収容所所長の自宅内での仕事や、ナチス幹部とのやりとりから、当時の彼らの“常識”もじわじわと浮き彫りになり、後半からクライマックスにかけて、またも予想を超えた戦慄がもたらされる本作。たしかにヘビーな余韻は残るのだが、人によっては年間のベスト映画になる可能性もあるのでは? それくらいセンセーショナルで、忘れがたい体験をもたらす一本!
『関心領域』5月24日公開
原作/マーティン・エイミス 監督・脚本/ジョナサン・グレイザー 出演/クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー 配給/ハピネットファントム・スタジオ
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