『アリー/スター誕生』
製作年/2018年 製作・監督・脚本・出演/ブラッドリー・クーパー 出演/レディー・ガガ、アンドリュー・ダイス・クレイ、サム・エリオット
『スタア誕生』(1937年)をリメイク!
時代を超えて物語が人々にアピールするのが、リメイク作品の条件。もうひとつ大切な要因があり、その物語を映画業界が“何度でも再生したくなる”こと。ハリウッドでこれを満たしたのが『スタア誕生』だ。タイトルが示すとおり、ショービジネスの世界で、新たなスターが生まれるドラマにラヴストーリーが劇的に絡むとあって、繰り返し映画になってきた。一番新しいバージョンが、レディー・ガガがアカデミー賞主演女優賞候補になった2018年の『アリー/スター誕生』。歌手を夢みるウェイトレスのアリーが、世界的人気ミュージシャンのジャクソンに才能を見出され、スターへの階段を駆け上がっていく。アリーとは反対に、ジャクソンには悲しい運命が待つ。スターの光と影を鮮やかに描いた感動作だ。
最初の映画が1937年の『スタア誕生』で、そのリメイクが1954年の同名作。これら2本は主人公の職業が俳優なので、ハリウッドの舞台裏もよくわかる作り。そして1976年の3度目の作品『スター誕生』で主人公が歌手に変更された。同作の主演はバーブラ・ストライサンド。最新作のレディー・ガガといい、演技力と歌唱力の両方が問われる、まさに“スター”のための作品である。
『ラストマン・スタンディング』
製作年/1996年 原作/黒澤明、菊島隆三 製作・監督/ウォルター・ヒル 出演/ブルース・ウィリス、クリストファー・ウォーケン、ウィリアム・アンダーソン
『用心棒』(1961年)をリメイク!
世界中の映画作家にとって、最もリメイクへの食指が動く監督といえば、黒澤明かもしれない。日本国内でリメイクされるケースもあるが、『生きる』がイギリス映画『生きる LIVING』として再生されたのは記憶に新しい。現在はスパイク・リー監督で『天国と地獄』のリメイクが進んでいる。黒澤の代表作『七人の侍』がハリウッドの西部劇『荒野の七人』としてリメイクされたのは有名で、同じようにイタリアの巨匠、セルジオ・レオーネ監督が、黒澤の『用心棒』をマカロニ・ウエスタンの『荒野の用心棒』としてリメイク。同作は正式な許可をもらわずに作られたことも話題に。悪党が対立する町に、ふらりと現れた男が用心棒をやりたいと自らを売り込む物語は、たしかに国や時代を超えてリメイクしたくなる題材だ。
日本の時代劇をアメリカのギャング映画に変えた、本家公認のリメイクが『ラストマン・スタンディング』。監督は『ストリート・オブ・ファイヤー』などのウォルター・ヒル。1930年代を舞台に、アイルランド系とイタリア系のギャングが勢力争いをする町に、ジョン・スミスと名乗る男がやって来る。酒場で始まった抗争で、二丁拳銃の腕を見せつけた彼は、イタリア系の一味に力を貸すことに。ブルース・ウィリスが演じた孤高の用心棒=スミスの佇まいを、オリジナルの三船敏郎と比べながら楽しむのもオススメ!
『キング・コング』
製作年/2005年 原案/メリアン・C・クーパー、エドガー・ウォレス 製作・監督・脚本/ピーター・ジャクソン 出演/ナオミ・ワッツ、エイドリアン・ブロディ、ジャック・ブラック、トーマス・クレッチマン、アンディ・サーキス
『キングコング』(1933年)をリメイク!
近年は、日本が生んだモンスターキャラ、ゴジラとの共闘で注目されるキング・コング。そのルーツは、1933年に公開された『キングコング』だ。NYのエンパイア・ステートビルの天辺で飛行機を掴むなど、ストップモーションを駆使した特撮映像が“伝説”となった。その後、人気キャラとなったコングは、日本映画を含め何度も登場したが、本格的リメイクが1976年の『キングコング』。NYの新たなランドマークとなった世界貿易センターのツインタワーにコングが登った。そして2005年、『ロード・オブ・ザ・リング』などのピーター・ジャクソンが最先端の映像技術で再生させたのが『キング・コング』である(前2作と違って邦題の“・”で区別できる)。
最も革新的だったのは、コングを俳優が“演じた”こと。着ぐるみのスーツアクターではなく、俳優の動きや表情を取り込んだモーションキャプチャーで、コングがCG化され、超リアルな映像が完成した。任されたのは『ロード・オブ・ザ・リング』でもキャプチャーでゴラムを演じたアンディ・サーキス。髑髏島で崇められていたキング・コングが、映画撮影のために島を訪れた女性アンに一目惚れする。NYへ連れて行かれ、見せ物になったコングがアンを探して大暴れする展開は基本に忠実。クライマックスの舞台もエンパイア・ステートビルに戻された。サーキスの表情演技が反映されたおかげで、コングにもたっぷり感情移入でき、切ない感動をもたらす秀逸なリメイクになったと言っていい。
『スカーフェイス』
製作年/1983年 監督/ブライアン・デ・パルマ 脚本/オリバー・ストーン 出演/アル・パチーノ、ミシェル・ファイファー、F・マーレイ・エイブラハム
『暗黒街の顔役』(1932年)をリメイク!
1932年、ハワード・ホークス監督の『暗黒街の顔役』は、禁酒法時代のシカゴを背景に、あのアル・カポネにまつわる実話を基にしたマフィア映画の金字塔。それを半世紀後の1983年、鬼才ブライアン・デ・パルマ監がリメイクした『スカーフェイス』では、舞台が80年代のマイアミに移された。何千人もの亡命志願者とともにキューバからアメリカへ渡ったトニー・モンタナが、麻薬取引で一攫千金を狙い、のし上がっていく。
基本的な流れはオリジナルどおりだが、スラングが多用されるセリフの応酬、電動ノコギリを使った拷問をはじめとした衝撃のバイオレンス描写で、現在もカルト的な人気を誇る一作となった。クライマックスの銃撃は、映画史に残る名シーンと言っていいレベルで、アル・パチーノの超迫真演技でトニー・モンタナは時代のアイコンとなった。2020年には、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督で、『ノーカントリー』のコーエン兄弟が脚本、舞台をロサンゼルスに移した再度のリメイク企画も進んでいたが中断。それだけ作り手のモチベーションかき立てる題材ということだ。
『モールス』
製作年/2010年 原作/ヨン・アイビデ・リンドクビスト 監督・脚本/マット・リーヴス 出演/クロエ・グレース・モレッツ、コディ・スミット=マクフィー、イライアス・コティーズ
『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年)をリメイク!
リメイク作品と聞くと、オリジナルがメジャーな知名度を誇るケースを思い浮かべやすいが、カルト的に愛された作品がすぐに新たな映画になることもある。アメリカ以外の人気作→アメリカ映画、という流れが多い。『モールス』は、その代表例。2008年のスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は世界中で絶賛され、2010年の日本での公開時にも映画ファンから熱い支持を受けた。孤独な少年がヴァンパイアの少女と友人になるが、彼女は200年も生き続けていた……という物語。残酷な描写と繊細な感情のブレンドで、えもいわれぬ世界観を創り出した作品が、2010年に早くもアメリカでリメイクされた。『モールス』という邦題で翌2011年に日本で公開。
ヴァンパイアのヒロイン、アビーを演じたのが当時、『キック・アス』などで人気が最高潮に達していたクロエ・グレース・モレッツ。キュートさと恐ろしさの両面を表現し、ハマリ役であった。オリジナル版の日本公開では重要な描写でボカシが入ったことで物議を呼んだが、リメイク版はまた違った恐怖と悲しさも伝わってくる。キャストの魅力も含め、ほぼ同時期に作られた2つの映画ということで、ここまで観比べる面白さに溢れた作品も珍しい。
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