カラーとは違う未体験の美しさで迫ってくる『カモン カモン』
全編モノクロの映画なのにこのイラストのようにあざやかな青空が見えたような気がする。そんな稀有な体験をさせてくれる名作に出合った!
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例年以上に今年のアカデミー賞は世の中を騒然とさせたが、2年前、見事に主演男優賞を手にしたのが、ホアキン・フェニックスだった。受賞作『ジョーカー』での演技は強烈だったが、彼の真の実力は悪のカリスマ役だけではない。そんな事実を教えてくれるのが、この『カモン カモン』だ。
ホアキンが演じるジョニーは、子供たちの“声”を拾い集めるラジオジャーナリスト。子供たちの目線に立ち、本音の言葉を引き出す、仕事に誠実で実直な男。自分の子供がいないジョニーは、甥のジェシー(ウディ・ノーマンが演じる)を預かることで、親子関係を初体験する。ジョニーにゆっくりと目覚める父性、9歳の甥を相手にした戸惑いや苛立ちまで、ホアキンの演技はことごとく真摯で優しい。だから観ているこちらも、いつしかジョニーの感情を共有してしまう。
そして『カモン カモン』のもうひとつの魅力は、全編モノクロで展開するところ。ジョニーの仕事はアトランタではじまり、その後、ジェシーと一緒にLA、NY、ニューオーリンズを回るが、モノクロで描かれるアメリカ各地の都市は、カラーとは違う未体験の美しさで迫ってくる。それぞれの都市の光や空気の違いは、むしろモノクロのほうが伝わってくるから不思議! ジョニーに感情移入しながら観ていると、モノクロの街の本来の色を自分なりに想像してしまうので、これも映画のマジックかも。特にジョニーとジェシーがLAからNYへ飛び立つ際の空は、2人のこれからの旅への希望が感じられ、青空に見えた気がする。
ジェシーは、街の音をマイクで拾うなどジョニーの仕事を手伝い、やがて2人の絆は深まっていく。彼らは「今この瞬間を永遠に覚えておきたいね」と語り合う。その思い出は、きっとモノクロ写真のように美しく記憶されるのだろう。そんなことを考えながら、胸の奥が温かくなる珠玉作だ。
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『カモン カモン』
監督・脚本:マイク・ミルズ
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン
4月22日より全国公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ
Story
アメリカ各地で子供たちをインタビューするラジオジャーナリストのジョニーは、9歳の甥ジェシーを一時的に預かることに。LAからNY、ニューオーリンズと、ジェシーを仕事に同行させるジョニー。最初はジェシーがホームシックになるなどトラブルも続いたが、やがて2人は離れがたい関係になっていく。
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text : Hiroaki Saito illustration : Kaoru Sato