懐かしさと甘酸っぱさがたっぷりつまった傑作! 『リコリス・ピザ』
観る人それぞれ楽しむポイントが変わるのも映画の魅力。その意味で今月の1本は、多方向からアピールしてくれるので、思わず語り合いたくなる作品だ!
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- 思わず誰かに伝えたくなる映画! vol.3
その名前を聞いて、新作が気になってしまう映画監督といえば誰か? ポール・トーマス・アンダーソンは、多くの映画ファンにとって、そんな1人ではないだろうか。『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など独特&強烈なセンスで観客を魅了し、アカデミー賞に絡む確率もめちゃくちゃ高いアンダーソン。この最新作も今年のアカデミー賞で作品賞など3部門にノミネートされて期待に応えてくれたが、この監督の作品、偏愛する人がいる一方で、ちょっと苦手という意見もたまに耳にする。濃厚なキャラの人物が登場して、その言動も過剰だったりするからだ。
『リコリス・ピザ』も、確かに主人公の男子高校生ゲイリーがTVにも出演する俳優で、自分でビジネスもはじめるほどの野心家。しかも10歳も年上の女性と恋に落ちてしまう、やや特殊なシチュエーション。それなのに心の芯を掴まれたように共感してしまう。それは、誰もが人生に迷っていた、ちょっぴり“青い”時代を重ねてしまうからかもしれない。
舞台は1970年代、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレー。ここはハリウッドにも近いので、映画ネタをはじめ’70年代カルチャーへのオマージュがたっぷり登場。ファッションや音楽、クルマなど当時をあざやかに再現した映像を眺めるだけでテンションが上がる。ポイントとなるシーンで“走り”がドラマを盛り上げるのも特徴。それはゲイリーと恋の相手アラナの全力疾走だったり、2人が乗ったクルマの驚きの走行だったりする。
’70年代の自由な空気が漂うカリフォルニアの風景をバックに、その“走り”とともに不思議な引力で観ている者を夢中にさせる。それがこの映画の持ち味だ。夕方の空のオレンジ、アラナの服のパープル、クルマのブルーなど印象的な“色”の記憶とともに余韻に浸りたい!
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『リコリス・ピザ』
脚本・監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー
7月1日(金)より全国公開
配給:ビターズ・エンド、パルコ
Story
1970年代のサンフェルナンド・バレー。子役俳優として活躍する高校生のゲイリーは、10歳上のアラナにひと目惚れ。やがてゲイリーがはじめたウォーターベッドの販売を、アラナも手伝うようになる。ゲイリーが殺人犯に間違えられて捕まり、アラナは有名俳優と出会うなど2人の運命は予想外の方向へ進んでいく。懐かしさと甘酸っぱさがたっぷりつまった傑作。
魅力がつまった新作登場!
『ザ・ロストシティ』
監督:アダム・ニー&アーロン・ニー
出演:サンドラ・ブロック、チャニング・テイタム
6月24日(金)より全国公開中
配給:東和ピクチャーズ
冒険小説の作家が現実でも暴走!?
人気作家と彼女の小説のモデルが、古代都市を巡って南の島で大冒険。サンドラ&チャニングの痛快なやりとりが見もの。
監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
出演:ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス
7月22日(金)より全世界独占配信開始
配信:ネットフリックス
ゴズリングとエヴァンスが対決!
有能な工作員同士が命がけの攻防を繰り広げる。恐るべき機密情報、相手の裏をかく非情な決断が超スリリングに展開。
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text : Hiroaki Saito illustration : Kaoru Sato