ArtSticker presents ART INTO LIFE
実際には見えない光と影を、不思議な色調で魅せる。
アートへの関心が世界的に高まっている中、アート初心者の方にもわかりやすく“アートの見方”を解説するこの連載。今回は画家の島田萌さんの作品をクローズアップします。ナビゲーターは、現代美術に造詣の深い塚田萌菜美さん。さっそく島田さんの作品を紐解いていきましょう。
花瓶をモチーフにしたabsolute difference series“ceramicvasesI”(2021)
島田萌さんの絵画は、静物や人物をモチーフとして、ありそうで実際にはない独特の光や影を反映した作品が魅力です。
──作品制作のプロセスは?
島田萌さん(以下島田)まずモチーフを、ストロボをたいて撮影します。その写真の中から雰囲気がいいものを選んで、パソコンに取り込みます。色調を調整し、それをプロジェクターでキャンバスに投影し、絵を描くという手法をとっています。
──デジタルでの画像加工はどんなことを意識されていますか?
島田 撮影した写真を画面上で色調調整しています。こうした画像は実際のモチーフを見ても出てこない色なのですが、最近はユーザーもスマホでデジタルの加工画像を見慣れているので、わりとリアリティを感じてもらえるかと思います。
──写真をデジタル加工して、そのまま作品としてもよさそうですが、あえてキャンバスに描く意図は?
島田 写真をそのままプリントしても印象が弱いと思っています。絵の具で制作することで、筆跡が残っていたり、一見デジタル調に見えて、実は絵画なんだというギャップが感動に繋がるのではと。
──作品にノイズのようなエフェクトを入れるきっかけは?
島田 デジタル加工の出発点はアプリのSNOWでした。友達を撮影して画像を加工している中で、これは絵画的と思ったのがきっかけです。モチーフに入るノイズやグリッチは実際には目では見えないのですが、そこがデジタルの面白さかなと。この効果で絵に動きが出ます。
──人物モチーフから花瓶などの静物モチーフに移行した理由は?
島田 コロナで人物の撮影ができなかったので、静物を加工したらハマり具合がよくて。人物にはノイズやグリッチもいいですが、色調を反転させる加工は、花や花瓶のほうが相性はよかったです。
──作品はニスで表面をツルツルにされていますが、ニスを使用する意図は?
島田 仕上げにニスを塗ることで絵の具の彩度が上がり、艶のあるフィルターをかけるような仕上がりになります。デジタルの色は少し飛んでいる部分がありますが、そうした表現にニスは向いています。
──今後の野望は?
島田 300号など大きな作品を描きたいです。また音楽が好きなので、スピッツなど有名アーティストのジャケットが手掛けられたら嬉しいですね。
制作過程の花をモチーフにした作品。丁寧に塗り重ねられているのが窺える
iPadでノイズを入れて画面の精度を上げていく
プロジェクターから描写された下絵。細密にノイズを入れて線画で設計図を作る。この層に最初の絵の具をのせる作業が、一番手間がかかるという
島田萌
画家。東京藝大絵画科油画専攻卒業。当初は人物画をモチーフとしていたが、最近では花や陶器、ガラス細工の置物など、モチーフとする対象を拡張している。また下絵の段階で施すデジタル画像処理の際、複雑かつ難解なエフェクトを加えたうえで、油彩で描写する行為は、自身の目と技術力によるもの。2022年イタリア、カプリ島での作品展が好評を博す。
ArtSticker
塚田萌菜美
アートスペシャリスト。成城大学大学院文学研究科美学・美術史専攻博士課程前期修了。SBIアートオークション株式会社でオークショニア・広報・営業を担当した後、現在はArtStickerを運営する株式会社The Chain Museumにて、キュレーションやアドバイザリーを担当している。
『Urban Safari』Vol.31 P34掲載
photo:ShungoTanaka(MAETTICO) supervision:MonamiTsukada(ArtSticker) text&composition:HiroyukiHorikawa