西海岸とバリをサーフィンで繋ぐ! ジャレッド・メル
今回はカリフォルニアとインドネシアに拠点を置くサーファー、ジャレッド。多くのコンペティションに参加し好成績を収め注目の的に。その後、生活の拠点をバリに移し、近郊の島々をトリップして多くのプロジェクトを動かしている。同時にシェイパーとしても活躍し、彼のボードは世界中で人気を集める存在だ。インドネシアとカリフォルニアを繋ぐ、ジャレッドのこれまでとは?
今月のサーファー
ジャレッド・メル
[JARED MELL]
多くのサーフレジェンドを輩出しているニューポートビーチ 。本連載でもこの地で育ったサーファーを多く紹介してきた。今回取材したジャレッドも、ほかでもなくこのエリアのローカル。ただ、サーフィンをはじめたのはほかのサーファーと比べ意外に遅かったよう。
「幼い頃はいろんなスポーツに夢中になっていたけど、実はサーフィンだけ興味がなくて(笑)。でも14歳で試しにサーフスクールに参加してみたら、あまりの喜びと興奮で世界が180度変わったよ」
それからジャレッドは学校の勉強よりもサーフィンを優先するように。地元で練習に明け暮れながら、サーフィンを通して人脈も広げていった。数年後、家の事情で親元を離れて暮らすことになった彼は、フリーサーファーでアーティストのアレックス・ノストの厚意で彼の家で暮らすこととなる。
「彼とは地元のサーフチームを介して知り合ったんだ。僕にとってのレジェンドであり、本物のブラザー的存在だよ」
アレックスとの同居生活がはじまると、当然ふたりで毎日海へ通うように。アレックスから借りたロングボードに乗り、彼のフォームをお手本にしながら、オリジナリティを高めていったそう。しばらくしてジャレッドは〈ジャックサーフショップ〉での仕事も開始、彼の生活は名実ともにサーフ三昧となった。
「アレックスの家にはサーファーやミュージシャン、アーティストが日夜集まるから、とても刺激を受けたよ。彼と一緒に過ごすことで次々と新しいチャンスに恵まれたね」
ビーチライフを満喫し、サーファーとしての腕も上げたジャレッドは、“ヴァンズ・ダクトテープ・インヴィテーショナル”をはじめとするロングボードの大きなコンペティションに出場するように。次々と好成績を収めた彼は、アレックスと同様、いつの間にかロングボード界のワールド・トップ10にランクインするようになった。技術の高さはもとより、独特なリズムで織りなす静と動の絶妙な組み合わせは、見る者を惹きつけるアートのようだと称賛されている。やがて多くのスポンサーがつき、モデルとしても活躍するほど成長を遂げていく。
チャングーのシークレットスポットでカットバックをキメるジャレッド
自身のブランド〈サーフ・ア・ビリー〉のロングボード。クラシックタイプのシングルフィンは定番人気
どんどんサーファーとしての知名度を上げていっていたジャレッドは、あるときオーストラリアのブランド〈インサイト〉からのオファーで、バリ島のウルワツを訪れることになる。そこで彼はこの土地に一気に惚れこんだそう。
「ウルワツでのキャンペーンがすごく充実したものだったということもあるけれど、特に現地のサーファーと過ごした濃厚な時間はかけがえのない思い出だよ。ファミリーのような温かさに、心に安らぎを感じたんだ」
実はウルワツはレジェンド、ジェリー・ロペスやローリー・ラッセルもサーフィンを楽しんだ伝説のサーフタウン。カリフォルニアに戻ったあとも、ウルワツの存在は彼の心のなかに残り続けたそう。カリフォルニアに戻りしばらくした彼は、サーフバンでの生活を開始。波を追いかけてカリフォルニア中を移動しながら暮らす、自由気ままなノマドスタイルだった。これにより行動範囲も交友関係も広がったジャレッドは、同時にタイミングを見計らってインドネシアへも頻繁に足を運ぶように。やがてバリで1年のほとんどを過ごすようになっていく。最近では近郊の島々やオーストラリアへトリップしながら、ムービーなどのプロジェクトをこなす毎日だ。3年前にはサーフフィルムメーカーのトーマス・キャンベルやアレックス・ノストらとともに、インドネシアでのボートトリップムービーも制作した。
「現在はチャングーに住んでいて、大自然の中でサーフィンを楽しんでいるよ。最初にここに来たときは、田園が広がり、道は全く舗装されていないかなりワイルドなエリアだったんだ」
チャングーといえば、〈デウスエクス マキナ〉が主催するロングボードの大会が行われている場所としても有名。そんなこともあって、もとはショートボード主流の土地だったが最近は少しずつロングボード人気が高まっているそう。
「ここではロングだけでなくミッドからショートまで、実は様々なボードを楽しめるんだ」
地元のサーファーや子供たちとも交流を深める彼は、まさにこの地の親善大使のようだ。
バリのウルワツで毎年行われる“シングルフィン・クラシック”のコンペティションはジャレッドも常連で、好成績を収めている
スポンサーのひとつ〈バンクス ジャーナル〉とコラボしたエクスクルーシブモデル
バリではサーフィンを楽しむだけでなく、自身が手掛けるボードブランド〈サーフ・ア・ビリー〉のシェイパーとしても忙しい日々を送っているジャレッド。ロングボードのイメージが強い彼だが、実際はミッドレングスやショートボードも乗りこなすため、様々なスタイルをシェイプし、どれも高い評価を受けている。彼のボードは、インドネシアを越え、オーストラリアやカリフォルニア、さらに日本でも大人気。クラシックなモデルをベースに、現代的な機能性をうまくミックスさせているのが特徴だ。
「自分が乗りやすい理想的なボードが欲しくて約6年前にシェイプしはじめたんだ。最近ではローカルのキッズサーファーに僕が削ったボードを使ってもらい、フィードバックをもらっているんだよ(笑)」
そんな彼の日常は、朝の波チェックからスタートする。波があれば午前中に海に入り、それからシェイプルームでボードをビルドする。ひととおり作業を終えると、友人と夕食をとったり、ひとりボードのスケッチをすることも。DJとしても活動している彼は、たまにイベント出演もこなす。また海外から友人が立ち寄るとなれば、彼らと一緒にトリップやアテンドをすることもしばしば。と、忙しい日々を送るジャレッドだが、休日には4歳の娘とビーチで一緒に過ごすのだそう。コロナの期間中は、インドネシアの島々をトリップして過ごすことが増え、ますますワイルドさを増した。この状況が落ち着いたら、自身のボードのPRもかねてカリフォルニアはもちろん、日本ツアーも行いたいと計画を練っているようだ。
実はモデルとしても活躍しているジャレッド。これはバリに立ち寄ったフォトグラファーとセッションしたときのワンショット。自然体な雰囲気が魅力だ
こちらは愛娘のアイラ。休みの日にはビーチで家族と過ごすことを心がけているそう
●ホームポイントはココ!
ブラッキーズ[BLACKIES]
カリフォルニアでのホームポイントは、レジェンドたちからの人気も高いニューポートビーチのブラッキーズ。ジャレッドはここでキーパーソンのアレックス・ノストと出会い、時代の寵児に。今の活躍へと繋がっている。
雑誌『Safari』8月号 P178~179掲載
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photo : Jason Reposar text : Momo Takahashi(Volition & Hope)