【酒井高徳】作戦を忠実に実践し、監督、チームメイトの信頼を獲得! ブンデスでの成功に繋げた1本のロングフィード!
ブンデスリーガでは8年間にわたって活躍。ハンブルガーSVではリーグ初の日本人主将に任命。日本が世界に誇るサイドバック酒井高徳が、覚醒したのは、強豪相手に一歩も引かなかった試合にあった。
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GOTOKU SAKAI
TURNING POINT2012年3月30日
ブンデスリーガ
2011-2012 第28節
VS ボルシア・ドルトムント
酒井高徳がキャリアの転換点と位置づけている試合は、ブンデスリーガ史上最もスリリングな試合として語り継がれている名勝負でもある。それは、2011‐2012シーズン第28節の対ボルシア・ドルトムント戦。この年にアルビレックス新潟から移籍を果たした酒井を擁するシュトゥットガルトが、そのシーズン優勝を果たす強豪チームに果敢に挑んだ試合だ。
試合は立ち上がりからドルトムントの好機が続く展開で、前半33分に香川真司がリーグ戦3戦連続弾となるゴールを叩きこむ。後半も早い時間帯でドルトムントが2点めを決めるが、ここから激しい点の取り合いに。首位の意地を見せるドルトムントと、激しい攻防が続く展開。そんな中、シュトゥットガルトが終盤20分で4点を決める驚異の追い上げを見せ、壮絶なシーソーゲームを4対4の引き分けに持ちこんだのだ。
「当時全盛期だったドルトムントに対して白熱した試合ができたチームも素晴らしかったのですが、僕自身も随所でいいプレイができ、存在感を示すことができた。その年に優勝を果たすような強豪に対し、自分はここまでできるという手応え、そしてドイツでやっていけるという自信を得られた試合でもあります」
そんな酒井のプレイが輝きを放った瞬間のひとつが、シュトゥットガルトが2点めを決めて同点に迫ったシーン。
「僕が蹴ったロングボールが、得点の起点になりました。ハイライトで見たらただ蹴っているように見えるかもしれないけど、戦術的なプレイでした。相手が前がかりでプレッシャーをかけてきて後ろが薄くなったら、それを逆手にとってロングボールを使おうというのは、試合前に監督と話していたこと。それが狙いどおりにハマって、2点めが生まれました。この得点が効いて、相手も前に出てこれないから、攻守で自分たちのリズムを作ることができたんです」
このキックは、自身の戦術的な引き出しを増やすことにも繋がったという。
「試合後の分析でも、監督がこのシーンを取り上げてくれました。俺たちは、これを狙っていたんだ。蹴る側と受ける側が同じ意識を共有していたから、ゴールに漕ぎつけられたと。みんなが同じ方向を向いて戦うことは、強豪との試合を勝ち抜くときは特に重要なんだ、と高く評価してくれました。サッカーは、きれいに繋いでゴールまで持っていくのがある種の理想です。でもドイツではより直線的に考えるというか、少ないプレイで得点を取れるのが、一番効率がいいという考え方も浸透しています。こうした考え方を試合の中で経験できたことは選手として貴重な財産です」
ちなみに、相手チームのエースだった香川とも思い出深いことがあるようだ。
「当時のドルトムントの攻撃を牛耳っているのは、香川くんでした。起点になるのは香川くんだし、結果を出すのも香川くんという状態。この試合で13点めを決めたら日本人最多得点というのは知っていたのですが、僕はディフェンスなので絶対に入れられたくないと思っていました(笑)。そこを決めてくるあたり、やっぱりスターだなと思いましたね。ただ、試合後に香川くんに挨拶に行ったら、勝ちきれなかったことが悔しかったのか普段より冷たい態度をされて。そのときは、ちょっと嬉しかったですね(笑)」
一方で、ドルトムントというチームの凄みも脳裏に焼きついているという。
「ドルトムントはフィジカル面も技術面も優れた選手が集まっていて、試合のインテンシティも高いので、90分間一瞬も気を抜けない状態が続きました。その緊張感は今でも覚えています。僕たちが逆転してから、5分以内に3対3の同点にされたときは衝撃でしたね。そこで相手の本気というか、スイッチを入れたらいつでもお前らから点取れるんだからな、というプライドみたいなものをぶつけられて。その後、すぐにコーナーキックで4点めを決められて、これはもう格が違うなと思った瞬間もありましたね」
ただ、チームとしての収穫もあった。
「シュトゥットガルトはこの年、低迷していた状態から浮上し、ヨーロッパリーグ出場圏内の7位でフィニッシュできたんです。アウェイでドルトムント相手に同点という結果はその勢いを象徴することでもあり、当時ドイツでも話題になりました。僕にとって誇らしい体験でもあるので、モチベーションを上げたいときに今でも動画共有サイトで探して見ちゃいますね(笑)」
サッカー選手
酒井高徳
GOTOKU SAKAI
1991年、ニューヨーク生まれ。2006年からアルビレックス新潟ユースに在籍。'08年にはトップチームに昇格。'11年にシュトゥットガルト、'15年にハンブルガーSVに移籍。'19年にはヴィッセル神戸に完全移籍し、'20年の天皇杯優勝、ACL初出場で4強進出に貢献。
TAMURA'S NEW WORK[福岡ソフトバンクホークス]この作品は〈アンダーアーマー〉と福岡ソフトバンクホークスとのトリプルコラボ企画。松田宣浩選手
柳田悠岐選手
今宮健太選手
松田選手に作品をプレゼントし記念撮影
工藤公康監督を筆頭に、21人の選手を描いた作品は、Tシャツやトートバッグなど優勝記念グッズに採用
「選手全員を主役として描いた」
圧倒的な強さで日本一4連覇を達成した福岡ソフトバンクホークス。今回紹介する田村 大の作品は、同チームの選手を躍動感あふれるタッチで描いた大作だ。
「この作品は、パ・リーグ優勝記念グッズのために描かせていただきました。普段は1人のアスリートにフォーカスして描くことが多いのですが、今回は各選手の特徴的な表情やポーズを捉えながら、まとまったときのバランスを意識しました。誰か1人が目立つのではなく、全員が主役というイメージの作品です」
作品を渡すために、松田宣浩選手と対面するチャンスも得られたようだ。
「実は松田選手は、亜細亜大学の同級生。同い年ですが、野球選手として様々なことを成し遂げてきたベテランです。でも、アーティストでこの年齢はまだまだ若手。もっともっと頑張らなきゃというモチベーションとパワーをもらえました!」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
雑誌『Safari』3月号 P166~168掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO