ロングビーチの多彩すぎるサーフアーティスト
自身が育ったロングビーチでストリートカルチャーの影響を受け、ノース・オレンジカウンティでサーフィンを学んだアーティストのスティーブ・ファーレイ。海でチャージしたエネルギーをスケートボード、サーフィン、アートなど自身の趣味をベースにしたプロジェクトに注いでいる。趣味をビジネスにしてしまった、情熱あふれるフリーサーファーだ。
●今月のサーファー
スティーブ・ファーレイ[STEVE FAWLEY]
南カリフォルニアの中でもストリートとビーチのカルチャーが混ざり合った独特な雰囲気を持つ大規模なビーチタウン、ロングビーチ。多くのサーファーが住み、サーフカルチャーも強く根づいている。でも、実は埋め立てにより、長らくこのエリアのビーチには波が立たない。この土地で育ったスティーブも、5歳のときに最初にはじめたのは陸でできるスケートボードとブギーボード。けれど、“横ノリ”スポーツの面白さにのめりこみ、いつしか海でサーフィンしてみたいという憧れが大きくなっていったという。
「念願のサーフィンをはじめたのは10歳の頃。サーフボードの上に立ってスライドしていく感動は今でも忘れないよ。近所の幼馴染みや兄の友人たちと一緒に海に入っていくたびにどんどんハマっていったんだ」
その頃からサーフィン雑誌を片っ端から買いあさり、当時のアイコンだった(今ではレジェンドの)サーファーたちや’80 sの派手なショートボード、さらにもっとそれ以前のクラシックボードなどにも魅了されていった。
「当時のサーフヒーローはジェリー・ロペス。それからトム・カレンやデーン・レイノルズも僕の中では最高のサーファーだね」
前述したとおり、スティーブが育ったロングビーチは波が立たないため、当時は隣町のシールビーチやハンティントンビーチの北側のサーフサイドでサーフィンのスキルを磨いたという。後に彼の兄がクルマの免許を取得してからは、トラッセルズ、マリブ、ニューポートビーチまで通い、日が暮れるまで海に入っていたそうだ。気がつけば、波の状況やスポットによってショートからロングまで乗りこなせるようになっていたスティーブ。もちろん、その一方で地元のロングビーチではスケボーに乗る生活を続けていた。そんなわけだから、高校を卒業する頃にはサーフィンやスケートボードカルチャーは自然と彼のライフスタイルの中に定着していた。それに、ティーンエイジャーだった彼は、これらのエクストリームスポーツに関わる広告デザインやアートにも夢中だった。いつか自分もこの業界で活躍したい、と真剣に考えはじめるのにそう時間はかからなかった。
アートの世界へ進むと決め、カレッジでグラフィックデザインを学びはじめたスティーブ。同時にハンティントンビーチにあった大型サーフショップでアルバイトも開始。徐々にサーフ業界とのコネクションを作っていた。
「友人の多くは影響力のあるサーフブランドで働いていたせいかサンプルをもらったり、業界へのアクセスも簡単にできるようになったんだ。当時のハンティントンはパーティも多く、いろんな人たちに出会うチャンスがあったよ」
カレッジ卒業後はハンティントンにあったスケートクロージングブランド〈スプリット〉のアパレルデザイナーとして経験を積む。それと同時期に、彼は兄とロングスケートボードブランド〈フリーライド・スケートボーズ〉を設立。ブランドは順調に拡大していき、やがて自身のブランドのみにフルタイムで集中。約5年間ブランドを育てた後に会社ごと売却した。
しばらく休暇を取るために、彼はハワイのノースショアに拠点を移す。そして、この地で彼はアーティスト活動を開始することに。「実はそれまでの間に猛烈に働きすぎたせいか燃え尽きてしまって、今までいた業界から少し距離をおきたかったんだ。ノースショアでは主にペインティングとサーフィンに集中できて、とても有意義な時間を過ごせたよ」
しばらくのオフでリフレッシュした彼は、カリフォルニアに戻り、〈クイックシルバー〉のアートディレクターとして働くことに。店舗のウィンドウ、ポップやイベントのディスプレイデザインをまかされる。同時に自身のアーティスト活動にも注力。南カリフォルニアだけでなく、サンフランシスコや ニューヨーク、さらにはパリ、そして、日本やバリなどアジアまで幅広く活動の場を拡大していった。最近ではキャリアの集大成としてサーフィンにまつわる子供用の絵本を制作。現在は各地の小学校でその本の読み聞かせを行っている。もともとエネルギッシュなスティーブだが、ノースショアでの休暇は彼により多くの情熱とインスピレーションを与えたのかもしれない。
とにかくエネルギーにあふれるスティーブの朝は早く、とてもヘルシー。起床後にネットで波チェックをした後、愛犬を散歩。そしてメディテーションを行うところから1日がスタートする。現在は地元・ロングビーチに暮らし、フリーランスのデザイナー、アーティストとして活動しているためスケジュールはとてもフレキシブルだという。波があるときは海に入り、なければ自身のプロジェクトに打ちこむ。最近は、巨大なミューラル(壁画)をペイント中なので、毎日のように現場に向かっている。夜はよさそうなパーティがあればフィアンセのクリステンや友人たちと出向き、一緒にダンスを楽しむ……というなんともリラックスしたライフスタイルだ。そんな彼の家を見渡すと、モノが少なくオーガナイズされている。実は、数カ月前に一緒に暮らすクリステンと家の中の断捨離を行ったのだとか。とても“禅”な暮らしを徹底しているので、その理由を尋ねてみると、
「無駄なものを捨てたら頭の中がとてもスッキリして、サーフィンやアートへより集中できるようになったよ。新しいアイデアも次々生まれて、よりクリエイティブになったんだ」
気合十分に語るスティーブだが、実は数年前からなんとアスリート向けの整体師として新たなキャリアをスタートさせている。とはいえこれも自身のサーフィン経験がベースとなっているという。意外な方向へ進化していく彼のキャリアだが、どの段階でもアイデンティティであるサーフィンが軸なのは変わらない。いろんな夢を抱きつつ、“明日いい波に乗りたい”という思いが彼を前進させているのは、ティーンエイジャーの頃から変わらないようだ。
ホームポイントはココ!
サーフサイド[SURFSIDE]
ハンティントンビーチの老舗トランクスブランド〈ケイティン〉前に位置するスポット。ビーチブレイクで春以外は波が立ち、ショート~ロングまで楽しめる。中級、上級者向けだが波が小さければ混雑しないので初級者も入れる
数えきれないほどあったサーフボードコレクションだが、断捨離により20本ほどを厳選。なかでもドナルド・タカヤマのボードは宝物
去年マリブ周辺で起きた山火事の癒しを願って大判のキャンバスにペインティング中
アトリエのひとつ。ここは事務的作業をするオフィスとして主に使用
趣味のレコードはパンクやオールドスクールのヒップホップがメイン。イベントでたまにDJも行うとか
お気に入りの“タカヤマ”ボードを手に海へ。愛犬のバディも常に一緒。先日はサンオノフレでメロウな波を楽しんだそう
約3年前から一緒に暮らしているフィアンセのクリステンとは、サステイナブルな暮らしを満喫中
雑誌『Safari』12月号 P292・293掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahashi(Volition & Hope) photo by amanaimages