400mの星【佐藤拳太郎】はアジアを制して自分の走りを確立!
男子400m日本記録保持者として、パリ五輪、そして東京2025世界陸上での活躍が期待される佐藤拳太郎。明晰な頭脳を武器とする日本のロングスプリント界のエースが、自分の走りに確信を得たレースについて語る。
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KENTARO SATO
TURNING POINT
2023年7月13日
アジア選手権
男子400m決勝
昨夏のブダペスト世界陸上で、32年間破られていなかった男子400m日本記録を、44秒77で塗り替えた佐藤拳太郎。ケガに悩まされながらも理想の走りを探究し、達成した歴史的快挙だった。そんな佐藤がランナーの分岐点として語ってくれたレースは、昨年開催されたアジア選手権。同大会の決勝で佐藤は、45秒00という日本歴代1位に次ぐ2位の記録で優勝を果たした。
「昨年は、400mはこうやって走るべきだという自分なりの完成形を作り上げている過程でシーズンに入る予定だったのですが、合宿中に肉離れによるケガをして予定より遅れる形でシーズンインしました。そうした中で、全開で走れない状態ながらも、ぼんやりしていた走りの形をどれだけ鮮明にできるのかという意識で試合を重ねている時期がありました。もちろん、失敗してしまうこともありましたが、そんな中でも様々な気づきを得て、ブラッシュアップしながら挑んだのがアジア選手権だったんです。その結果として45秒00という自己記録の更新というところまで繋ぐことができ、この方向性で行こうという確信を得られた。それがこのレースだったんです」
佐藤は、スプリント種目において“走りの核”となるものを持つことが重要であるという持論がある。
「走り方の方向性というものが、まさしくその核の部分になるのですが、そうした核を持たないまま400mに挑んでも自分の走りを理解できていないことになります。そうした状態では、たまに記録を出せるかもしれませんが、再現性が低く、安定して記録を出すことはできません。そういった核を持たない状態の自分は、いわゆる強い選手ではないんだと思っていました。逆にいえば、自分の走りの核となるものがあって、それをレースに当てはめていけば自ずと記録を出すことができる。その核をしっかり自分で構築し、再現力を持つことが陸上競技をやるうえでの自分の根幹だと考えています」
アジア選手権決勝で獲得した“自分の核”とは、どういったものなのだろうか。
「私は400mをパーツに分けて捉えているのですが、かつては前半の200mでトップスピードを出すことを重視して後は見て見ぬふりをしていた部分があったと思います。そうした中で、自分がすべき動きをしっかり表現できたアジア選手権決勝のレースでは、200mでトップスピードを出し、200mから300mの区間ではその速度を落とさず、高い速度のまま最後の100mに入っていくことができた。100mから200mの間はトップスピードを出せているので、その動きを最後の100mで再現できれば、速度の落ち幅が少なくなって記録に繋がっていく。こういった考え方が走りの核であり、現在もそれを表現するためのトレーニングをしています」
ロジカルに走りと向き合うスタイルは、どうやって確立させたものなのだろうか。
「大学を卒業して社会人になる過程で、競技に対する考え方というものは徐々に変化してきました。私は、自己ベストを更新するまでに実は8年かかっています。かつては順調に記録が伸びていたので考えるという作業を怠っていたところがありました。経験値に頼っていたので、自分の走りを説明できませんでした。そうした中、記録が出なくなったことで考えはじめたのが最初のきっかけで、そこからは科学的なデータと経験のハイブリッドのような感覚で走りと向き合ってきました。人体構造をはじめとする理論を大学院の先生から学び、ひとつひとつのレースでのトライアンドエラーをしながら科学的なデータを積み重ね、その結果が昨年の記録に繋がったのだと思っています」
昨年は日本記録を塗り替えたが、自分の走りが完成したわけではないという。
「自分の中では、まだ75%か80%くらいの完成度。それを100%に近づけることが現在の課題。パリ五輪までには、近づけていきたいと思っています。今、目指しているのは、パリ五輪、そして2025年に東京で開催される世界陸上で、個人種目の決勝に出ること。そして、その決勝の舞台で43秒台を出すことを目標にしています。近年の大会の傾向を見ると、43秒台を出せば、メダル獲得の期待がかかることになるのでそこを目指したい。東京五輪では銀メダル以上、ブダペストの世界陸上では金メダルのタイムになっています。43秒台はアジアでもまだ1人しか出していない記録。ですが、この冬、取り組んできたことによって、そこに近づけている手応えを得ています」
陸上競技選手
佐藤拳太郎
KENTARO SATO
1994年、埼玉県生まれ。埼玉県立豊岡高校で陸上をはじめ、城西大学を経て富士通に入社。世界陸上は、20歳で初出場した北京2015大会から4大会出場。2023年8月の世界陸上で、44秒77の日本記録をマークした。オリンピックは、リオデジャネイロと東京の2大会に出場。
TAMURA’S NEW WORK
武尊 VS スーパーレック
「僕が描いたK-1の作品を見てくださったのか、ONE(ワン)の運営の方から直接声をかけていただきました。格闘技は、ひとつのリングの上でファイターたちがそれぞれ背負ったものをかけてぶつかり合う競技。リングの緊迫感や選手たちの背景にあるものを想像させるような作品にしたい。そんな思いも込めました」
王者たちの気持ちが伝わる作品に
王者の称号であるベルトを担ぐスーパーレック。そして、そこに挑戦者として挑む武尊という、2人の勇姿あふれるキックボクサー。これは1月に世界の注目を集めた“ONE(ワン)フライ級キックボクシング世界タイトルマッチ”のメインビジュアルとして描いた作品だ。
「スーパーレック選手の防衛戦ですが、武尊選手もK-1時代は王者。王者たちがプライドをかけて戦う緊張感を、ヒビ割れや飛沫を生かして表現しました」
表情は、あえて激しさを抑えたという。
「武尊選手は負けてしまったとはいえ、身を削るような壮絶なファイトで見る人の心を動かしました。同時にスーパーレック選手も、チャンピオンとしてのすべてをぶつけているような戦いぶりでした。事前にいただいた資料写真からも、そんな2人の強い気持ちが感じられたんです。あえて表情に冷静さを保つことで、そんな2人が背負っているものの強さが逆に際立ち、見る人にも伝わってほしい。そんな気持ちを込めて描いた作品です」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会であるISCAカリカチュア世界大会で、総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。Instagram:@dai.tamura
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO