【仲川輝人】リーグ戦に出れていないときに巡ってきたチャンスからの飛躍!
持ち味の高速ドリブルや縦への突破からのクロスで、横浜F・マリノスの超攻撃的サッカーの原動力を担う仲川輝人。プロ入り後なかなか花開かなかったその才能は、3年めに巡ってきたチャンスをものにしたことで一気に開花した。
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- アスリートの分岐点! vol.19
TERUHITO NAKAGAWA
TURNING POINT
2018年4月18日
YBCルヴァンカップ
GS 第4節
VS FC東京
1本の同点アシスト!
アンジェ・ポステコグルー前監督が作り上げた、超攻撃的サッカーを持ち味とする横浜F・マリノス。その前線で存在感を放つ仲川輝人は、2019年に得点王と年間MVPに輝き、15年ぶりのリーグ制覇の原動力となった。そんな仲川が自身の分岐点として語ってくれたのは、その前年度となる2018年4月のYBCルヴァンカップでのFC東京戦。シーズン初のフルタイム出場を果たした仲川は、前半から果敢に仕掛け、得点こそ決められなかったものの、後半にF・マリノスが奪った2点めをアシスト。試合を引き分けに持ちこみ、高速ドリブラーの右ウイングとして輝きを放った。
「カップ戦ということで、普段出ていない選手にチャンスが巡ってくる試合でした。僕がF・マリノスに加入したのは2015年ですが、1年めはケガにより、そのリハビリで全く活動ができませんでした。そして、2年めに期限つき移籍をしてチームに帰ってきたのがこの2018年。しかし、サブ組にさえ入れないような時期を過ごしていた。そんな状態だった自分にも、試合に出られるチャンスが巡ってきた。試合に勝てず引き分けになってしまったことは悔やまれますが、90分を通してハイパフォーマンスを発揮できた。少しだったかもしれないけれど、アンジェ(ポステコグルー監督)からの信頼を得られた試合だったのだと思います。この試合後、リーグ戦にも出られるようになっていきました。ここから自分の人生がガラッと変わった。まさに分岐点でしたね」
印象に残っているのは、やはりアシストを決めたシーンだという。
「前半は圧倒されて2対0で負けていて後半に2点取り返し、アウェイの地でドローに持ち込むことができた。その同点弾となったのが、僕のクロスを翔君(伊藤 翔)が決めてくれたあの得点でした。あの形は、アンジェがF・マリノスに来てからずっとやりたかったサッカーのひとつ。キーパーとディフェンスの間にクロスを入れて、センターフォーワードが点を取る。練習でずっとやり続けてきた形を試合でも表現できた。そういう意味で、とても印象に残っていますね」
この試合以前は、紅白戦にも短時間しか出られない状態が続き、ポジションの序列では3番手という立ち位置だった。
「そういった立ち位置からスタートして結果を出せて思ったことは、自分を信じてきてよかったんだということ。その試合に出るまでに準備してきたことや、メンタルの整え方だったりというのは、間違っていなかったんだなと。今考えれば、監督がやりたいサッカーと自分がやりたいサッカーがハマった部分もあったのだと思います。大学時代はポゼッションサッカーで4連覇していたので、やっているサッカーが似ている部分があった。これは表現しやすいなというのは、自分の中で感覚としてありましたね」
この試合を経てブレイクした仲川は、2019年にその能力をさらに開花させ、右ウイングで攻撃の中心を担う存在に。27歳と遅咲きながら日本代表初招集もされた。しかし、2020年、2021年は、ケガに泣くシーズンを過ごした。
「特に昨年は、様々なことで悩むことが多かった。序盤はアンジェの信頼という部分で試合に出させてもらっていた。自分は結果を出せなかったけれど、チームとしては大然(前田大然)がいたりして試合に勝つことはできていた。そうした中で5月に肉離れを起こしてしまって。サッカーにケガはつきものですが、そこから試合に絡めなくなり、ほかの選手がいいパフォーマンスを発揮するようになっていきました。実はそんなときに移籍のオファーなどもあり、非常に悩んだ時期でした。でも、自分としてはF・マリノスでもう一度優勝したいという気持ちのほうが強かった。サッカー選手としての分岐点は、いつ訪れるかわかりません。いつどんな試合に出られるかも含め、なにが起こるかわからない。だからこそ、そのときのために努力をして結果を出せる状態でいなくてはいけない。その大切さを痛感しましたね」
そんな気持ちで迎えた今期、2月の川崎フロンターレ戦で2得点を挙げ、“ハマのGTR”は復活の狼煙を上げて見せた。
「大然が抜けて得点力が落ちたとは、絶対いわれたくない。ここ数シーズン、誰かがいなくなっても、必ずチームを勝たせる救世主が自然と出てきた。今期はそれがまた、自分でありたいし、1試合3点、4点奪って当たり前というF・マリノスのサッカーをみなさんに見てもらいたい」
サッカー選手
仲川輝人
TERUHITO NAKAGAWA
1992年、神奈川県生まれ。川崎フロンターレのジュニアユースから専修大学サッカー部を経て、2015年に横浜F・マリノスでプロデビュー。2019年に15得点を記録し得点王と年間MVPに輝き15年ぶりの優勝に貢献。2019年のE-1サッカー選手権で、日本代表初選出。
TAMURA'S NEW WORK[女子バスケットボール 東京2020への旅]
「女子バスケは、ミニバスも含めると実は球技の中でも女子の競技人口が非常に多いスポーツ。僕自身、大学までバスケをやってきて女子バスケの熱さも知っています。今回の作品で、そんな女子バスケの魅力が少しでも多くの人に伝われば嬉しいです」
感動を与えてくれた選手たち
今回紹介する作品のモチーフは、東京五輪で銀メダル獲得という快挙を成し遂げた日本女子バスケットボール代表選手たち。選手や監督のインタビューを通し、歴史を塗り替えたチームの足跡をたどった書籍のための描き下ろしだ。
「決勝トーナメント進出で一気に注目を浴び、日本を魅了した女子バスケの代表選手たちは、プレイもそうですが、1人ひとりが人としても個性的でタレント揃い。それぞれの際立った個性が伝わればと思い、いつものバストアップではなく、全身の躍動感を表現しました」
速くて美しいバスケという、女子代表の持ち味を表現したタッチも見どころだ。
「男子選手のような力強い筋肉の動きではなく、ユニフォームのシワも生かしてしなやかな筋肉の動きを意識している点もいつもと違うところ。男子選手とはまた違う躍動感を感じ、オリンピックで彼女たちが与えてくれた感動を思い出してほしい。そんな思いを込めた作品です」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは10万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram:@dai.tamura
雑誌『Safari』5月号 P222~224掲載
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO