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CULTURE カルチャー

2025.10.02

SHOT ON VISTA VISIONで観る衝撃!
映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』の見どころ解説【前編】



アカデミー賞に向けて、有力な候補作が出揃い始めるこの時期。今年、いくつもの部門で高評価を受けそうなのが『ワン・バトル・アフター・アナザー』だ。監督の名を聞けば、納得することだろう。ポール・トーマス・アンダーソン。映画ファンは愛情を込めて彼をPTA”と呼ぶ(なので、この後はPTAと記載)。これまでも『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と『ファントム・スレッド』、『リコリス・ピザ』の3作が、アカデミー賞作品賞にノミネート。さらに自身も脚本を書くということで、『ブギーナイツ』、『マグノリア』、『インヒアレント・ヴァイス』ではアカデミー賞脚本賞にノミネートされている。これだけのハイアベレージの成績を収めていることで、次のオスカーでも各賞へのノミネートは必然。ついに受賞もありえるかもしれない。

PTAのスゴさはアカデミー賞だけにとどまらない。『パンチドランク・ラブ』でカンヌ、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でベルリン、そして『ザ・マスター』でヴェネチア……と、世界の三大国際映画祭すべてで監督賞を受賞。この快挙をなしとげたのは、長い映画の歴史の中で彼のみだ。ただ、こんな風にPTAの業績を並べると、作家性が強く、敷居が高そうな印象を持たれるかもしれない。しかし作品を観た人なら、そんな心配は不要とわかるはず。PTA映画は意外なほどバラエティ豊か。しかもどの作品にも強烈なインパクトのシーンが用意され、それが過去に例のない演出だったりして(『マグノリア』ではカエルの雨が降り注いだ!)、映画的サプライズ&興奮が確約されている。シンプルにエンタテインメントとして楽しませるサービス精神も旺盛だ。例のないチャレンジエンタメ王道の面白さ。そんなPTA作品の2つの魅力が、最高レベルで達成されたのが『ワン・バトル・アフター・アナザー』。それゆえに絶賛が集まっている。

どんな物語なのか? タイトルが意味するのは戦いに次ぐ戦い。とんでもないバトルが連発される予感が漂う。主人公のボブは武力革命の名の下に集った組織のメンバー。国境近くの収容センターから移民を解放したり、富裕層への反発から銀行を襲撃したりしている。しかしある事件をきっかけに、ボブは幼い娘ウィラを連れて身を隠すことになった。それから16年後、娘が何者かにさらわれ、ボブは彼女を奪還すべく奔走する。
 

  

 
冒頭から革命グループフレンチ75の暴走行為がハイテンポで描かれ、一気に世界に没入する。このあたり、PTAの勢いのある演出は呆気にとられるほど。ものすごい情報量で圧倒した後、今や冴えない中年男になったボブが、いかにウィラを取り戻すかのドラマが、まったく予想不能の流れで展開。ボブとウィラを執拗に追いかけるヤバすぎる軍人ロックジョー、奪還に協力するウィラの空手のセンセイなど、強烈なキャラが入り乱れるあたりは、クエンティン・タランティーノなどの作品を連想させつつ、本作はマニアックになりきらず、映画のパワーで疾走していく。そこにPTAの才能を感じられるはずだ。

公開を前にジャーナリスト向けに行われたバーチャル会見で、PTAは「これは20年前から温めていた作品」と説明した。基本的に自分で脚本も執筆するのがPTAのスタイル。ゆえにオリジナリティに溢れる作品が完成するのだが、今回もどんな方向に進むのか予測不能。そのあたりをPTAは次のように説明する。

「基本設定、ストーリーのポイント、キャラクターと、これらの基盤と感情的流れを守れば、あとはギャンブルでもやるかのようにテーブルで遊ぶ感覚なんです。あるシーンは、(出演した)ベニチオ・デル・トロとディナーを共にした晩に一気に脚本を書き上げたりもしました。撮影自体も、まずレオ(レオナルド・ディカプリオ)とチェイス(娘役のチェイス・インフィニティ)の小さな家の中のシーンからはじめました。物語の核である、2人の関係性を伝えるうえで、映画に魔法を起こすと思ったからです。その後に家の外でのアクション場面に移ると、撮影がどんどん勢いを増していったのを覚えています。私の現場は大作になっても、親密なシーンではクルーの数はせいぜい15人とか20人くらい。私の経験不足な部分も、信頼できる彼らが補ってくれ、そうした信用が満足感につながっていると思います」

輝かしい実績を持ちながら、あくまで謙虚なPTA。そんな彼も本作に関して強く主張する点がある。それは大スクリーンの劇場で体験してほしい、ということ。その理由は、本作がSHOT ON VISTA VISIONで撮影されたからだ。ビスタビジョンとは通常よりも横長のスクリーンサイズのことで、そのビスタ用の特殊カメラを使うことで、IMAXのようなラージフォーマットの上映で、信じがたい臨場感が届けられる。
後編に続く
 

  

 

 
取材・文/斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
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