ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』。すでに公開されたアメリカなどでヒットを記録しているが、これはレオナルド・ディカプリオの2年ぶりの出演作という点でも注目を集めている。ディカプリオにとってもポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)との仕事は長年の夢であった。
多くの俳優に“いつか仕事をしたい監督は?”と聞くと、必ずと言っていいほど出てくるのが、PTAの名である。PTAの監督作は、作品そのものはもちろん、出演した俳優たちにもアカデミー賞の受賞やノミネートをもたらすことが多い。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ではダニエル・デイ=ルイスが2度目のオスカーを獲得。強烈な印象を残したのは『マグノリア』でのトム・クルーズ。自己啓発セミナーのカリスマ講師役で、ブリーフ1枚にもなる怪演を披露。これまでのスター俳優のイメージを激変させ、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。
実はディカプリオも過去にPTA作品に出るチャンスがあった。28年前の『ブギーナイツ』だ。主人公をオファーされるもポルノ男優役ということで、ディカプリオは断る。その役を任されたマーク・ウォールバーグは俳優として大ブレイク。『ブギーナイツ』もPTAの実力を世界に知らしめる作品になった。この時の選択をディカプリオは後悔しており、今回、念願のタッグになる。
ディカプリオが演じた主人公のボブは、元革命家。最愛の娘ウィラがさらわれるが、革命家時代の能力を忘れかけるなど、半ば混乱しながら娘の奪還に挑む。公開前に行われた会見で、ディカプリオはボブ役へのアプローチを次のように語った。
「『ビッグ・リボウスキ』のジェフ・ブリッジスや、『狼たちの午後』のアル・パチーノに影響を受けました。特に後者の役どころは、愛する人を絶対に取り戻すという情熱が半端じゃない。この情熱が、ボブ役への扉を開いてくれたんです。ボブは本当にダメな父親(笑)。そんな男の過酷な奮闘には、しっかりした脚本が必要で、そこにポール(PTA)の才能を実感しました。撮影に入る前にウィラ役のチェイス(・インフィニティ)とポールでワークショップをしながら、父娘の関係性を築いていったんです」
そしてディカプリオに並ぶほど、いやそれ以上に強烈なインパクトを残すのが、こちらも実力派スターのショーン・ペン。演じたのはボブとウィラを執拗に追いかける軍人のロックジョーなのだが、登場シーンからいきなり性欲を暴走させるなど異常レベルの“怪人”。ボブらへの執着の理由、さらにある団体との関与など、下手な俳優がやったら作品のノイズになりかねない役を、ペンならではの力技で熱演する。『リコリス・ピザ』に続いて2度目のPTA作品について、またロックジョーの独特の存在感についてペンは持論を展開する。
「脚本を初めて読んだ時、3ページ目あたりから顔がニヤニヤし、そこからはずっと笑ってました。ポールとの仕事は、(ザ・ビーチ・ボーイズの)ブライアン・ウィルソンと一緒に曲を作るようなもの。つまり大胆すぎるチャレンジってことです。よくこういう場で“あの演技の動きの理由は?”なんて聞かれますが、何カ月も前に撮った演技なので“よくわからない。パーティで音楽に合わせて踊ったようなものなので”と答えるしかない。今回は脚本を読んだ時に頭の中で音楽がイメージされ、その曲に合わせて踊ったら、ポールがうまく調節した……という感じですよ」
ディカプリオ、ペンに加え、もう一人、本作ではオスカー俳優が活躍する。ベニチオ・デル・トロだ。空手道場でのウィラの師匠(劇中で“センセイ”と呼ばれる)で、ボブの娘救出を手助けする役どころについて、デル・トロは解説する。
「センセイは、船の“錨(いかり)”のような存在です。まわりが右往左往し、荒れ狂う海みたいになっても、そこでどっしりと構えている。私が過去に演じた役ではチェ・ゲバラ(『チェ』2部作)との繋がりを見つけられるかも。過去のアクションでの経験が役立った面もあるでしょう。今回は車の窓から外にぶら下がるレオを、私は運転しながら落とさないようにするのに必死でしたね(笑)。まぁ以前に演じた役や作品なんて、すべて忘れて臨んでますけどね」
その他にも、武力革命グループでのボブの同志で、ウィラの母であるペルフィディア・ビバリーヒルズを、ミュージシャンとしても有名なテヤナ・テイラーが演じているが、冒頭からの武力革命グループの暗躍シーンで、彼女は超過激なアクションに挑戦。ペルフィディアは、ボブとウィラ、ロックジョーの運命を交わらせる作品全体のキーパーソンでもある。このように各キャストにアクションの見せ場が用意される本作だが、最もスペクタクル感満点のシーンを託されたのが、ウィラ役のチェイス・インフィニティ。空手を習っている設定なので、十分な準備を積んで撮影に挑んだことを、本格的な映画出演はこれが初めての彼女は会見で明かした。
「4カ月ほど総合格闘技のトレーニングを受けました。見せ場のシーンは、ウィラがどんな気持ちで関わり、どう終わらせるかを感情的に追いかけ、楽しんで演じられた気がします。ポールのおかげで、ウィラの“感情のボーダー”を理解し、それを一度掴んだら、あとはうまくいったのではないでしょうか」
このアクションシーンは映画を観ての楽しみにしてほしいが、撮影されたロケ地にも驚くはず。ふさわしい場所を見つけるのは至難の業(わざ)だったことを監督のPTAは告白する。
「あのロケ地は何年もかけて探し回り、いよいよクランクインが迫っていた時期に、カリフォルニアとアリゾナの州境あたりをクルマで走っていて見つけました。車内では最高のロケ地になると、みんなで興奮したのを覚えています。まるで映画の神様が私たちに微笑んでくれたようで……。結果的にイメージしたアクションをパーフェクトに実行に移すことが可能になりました」
最大の見せ場となるそのアクションも含め、映像も、ドラマも、キャラクターも、そして俳優たちの演技も、あらゆる面から最高の“映画体験”を提供する『ワン・バトル・アフター・アナザー』。アカデミー賞に向けたレースにも期待しながら、ぜひ大スクリーンで堪能してほしい。
『ワン・バトル・アフター・アナザー』10月3日公開
製作・監督・脚本・撮影/ポール・トーマス・アンダーソン 出演/レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、レジーナ・ホール、ベニチオ・デル・トロ、テヤナ・テイラー 配給/ワーナー・ブラザース映画
2025年/アメリカ/上映時間162分
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