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CULTURE カルチャー

2025.04.14


コールシートの頂点へ:ハリウッド、アフリカ系アメリカ人スターたちの軌跡

 

  

 


近年、何かと話題に上る、ハリウッドにおける“多様性”というキーワード。その多様性重視に対し、現トランプ政権は後ろ向きの姿勢を示したりもして、賛否の意見の対立がさらに激しくなっている。この多様性のトピックで長年、問題になってきたのが人種。特に黒人(アフリカ系アメリカ人)俳優の立場や、過酷だった歴史は多くの人が知っていることだろう。その事実を改めて、錚々たるトップスターたちへのインタビューで届けるドキュメンタリーが、予想を超えて魂に響く仕上がりになっている。

Number One on the Call Sheet:ハリウッドの黒人主演男優』、『Number One on the Call Sheet:ハリウッドの黒人主演女優』と、男女に分けて2本で作られた本作。Call Sheet(コールシート)とは、映画やドラマの撮影スケジュールなどを記した書類。日本では“香盤表”と呼ばれる。撮影現場などで渡されるそのコールシートの最上段が、その作品の中心人物=主役の名前であり、そこに自分が載ることが多くの俳優の夢なのである。その“ナンバーワン”を達成した人たちの真摯な思い、今だから語れる秘話は、彼らの活躍を見守ってきた人には貴重な時間となるはずだ。

“男優”サイドは、デンゼル・ワシントン、エディ・マーフィー、ジェイミー・フォックス、ウィル・スミス、ドウェイン・ジョンソン、モーガン・フリーマン。“女優”サイドはウーピー・ゴールドバーグ、アンジェラ・バセット、ハル・ベリー、ヴァイオラ・デイヴィス。その他にも多数のスターが登場する。通常、このような形式のドキュメンタリーでは、それぞれの証言が独立している印象も強いが、本作は“仲間”のスターたちなので、別々に撮影しつつ、同じ場所で語り合っている親密さが溢れている。たとえばウィル・スミスがエディ・マーフィーへの憧れを熱く語ると、その直後にマーフィーの懐かしい映像が出て、彼自身のコメントに移るなど、バトンを渡して映像が繋がっていく感じが観ていて心地よい。


エディ・マーフィ
 

  

 
もちろん白人が仕切っていたハリウッド社会で、コールシートのトップに名前が載る困難も語られつつ、1970年代に生まれた“ブラックスプロイテーション”という黒人観客向けに作られたジャンルからは強烈なパワーを感じられるし、アメリカ国内ではなく世界目線のヒット作を目指したウィル・スミスの活躍などから、常識を打ち破ろうとする彼らの不屈のチャレンジ精神がまっすぐに伝わってきて爽快だ。

どちらかといえば女優サイドの方が、さまざまな差別や固定観念の影響を受けた実態がひしひしと感じられる。1940年、黒人女性で初めてアカデミー賞(助演女優賞)を受賞したハッティ・マクダニエルが、『風と共に去りぬ』のメイド役だったように、黒人女優はメイドばかり演じさせられる歴史が最近まで続く現実。そのマクダニエルから、次の黒人女優のオスカーまで52年もかかったこと(『ゴースト/ニューヨークの幻』のウーピー・ゴールドバーグ)。2002年にハル・ベリーが黒人女優初の主演女優賞に輝くも、その後、主演女優賞を獲得した黒人がゼロという事実。さらに相変わらず“白人の主人公の親友役”、“ホラー映画で殺される役”、“生意気なキャラ”が多いこと……。まだまだ彼女たちにはガラスの天井が存在する。


ウーピー・ゴールドバーグ

黒人女優たちの撮影現場でのヘア&メークの悩みなど、“なるほど”と頷いてしまう知られざる裏ネタも出てくるし、男優・女優とも黒人映画の歴史を大きく変えた作品として、1991年の『ボーイズ’ン・ザ・フッド』が挙げられるのは、映画ファンにとって興味深いはず。

そして本来なら、このドキュメンタリーの男優サイドで、絶対に中心の一人として登場したであろう“彼”の姿が、ここにはない。映画好きなら、それが誰なのか察しがつくだろうが、彼の主演作がいかにハリウッドの歴史で重要だったか。また彼の才能について縁のある俳優が熱く語るシークエンスは、本作で最も心揺さぶられる時間になっている。

近年、ハリウッドではアジア系の俳優が躍進し、映画やドラマでアジア系がメインの作品も急増している。アカデミー賞受賞の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や、エミー賞など受賞の『SH0GUN 将軍』がその代表格だが、ではアジア系の俳優でNumber One on the Call Sheet=コールシートのトップに名前が載る作品は、まだまだ希少。もちろんハリウッドでは黒人に比べてアジア系の俳優の人口が少ないとはいえ、近い将来、アジア系でもドキュメンタリーが作られないか。そんなことを夢想しながら本作を観るのもいいかもしれない。

Apple TV+「Number One on the Call Sheet:ハリウッドの黒人主演男優たち」
Apple TV+「Number One on the Call Sheet:ハリウッドの黒人主演女優たち」
製作総指揮/ウーピー・ゴールドバーグ、ハル・ベリー 製作/ジェイミー・フォックス、ケヴィン・ハート
Apple TV+にて配信中!

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文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
画像提供 Apple TV+

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