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CULTURE カルチャー

2023.04.08

ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.16
『スタンド・バイ・ミー』が映画界に残したものとは?

 

 
スタンド・バイ・ミー

この春から小学五年生になったウチの息子に「『スタンド・バイ・ミー』って映画、絶対感動するから春休みの間に観てよ」とレコメンドしてみたら、「えっ、ドラえもん?」と返された。そう、日本製3DCGアニメーション映画『STAND BY ME ドラえもん』(2014年/監督:八木竜一、山崎貴)&『STAND BY ME ドラえもん 2』(2020年/監督:八木竜一、山崎貴)にまで露骨なツメアトを残すくらい、1986年のアメリカ映画『スタンド・バイ・ミー』(監督:ロブ・ライナー)は、思春期に差し掛かった男の子模様を繊細に描いた永遠不滅の名作である。
 

 
原作はスティーヴン・キング。基本的には『キャリー』や『シャイニング』、あるいは『呪われた町』『デッド・ゾーン』『IT』などホラージャンルの巨匠として知られる作家だが、『スタンド・バイ・ミー』の原作となった中編は、キングいわく“ふつうの小説”である。ただし原題は『The Body』で、田舎町に住む4人の少年たちが“死体”を探す旅に出るお話なのだが。
 

 
スタンド・バイ・ミー

もともとは1982年に発表された作品集『恐怖の四季』(The Different Season)の中の“秋”に当たる一編。本書の前書きで、キングは自らにべったり貼られたホラー作家というレッテルをネタにしつつ、この作品集に収録した四編は全部が“ふつうの小説”だと記しているのだ。ちなみに他三編のうち、『刑務所のリタ・ヘイワース』は、あの有名な『ショーシャンクの空に』(1994年/監督:フランク・ダラボン)として映画化されたもの。『ゴールデンボーイ』も1998年にブライアン・シンガー監督によって映画化されている。

さて、映画『スタンド・バイ・ミー』は、ひとりの中年男性ゴーディ(リチャード・ドレイファス)が1959年の夏を回想するところからはじまる。舞台となる“キャッスル・ロック”は、スティーヴン・キングが自らの一連の作品で共通して設定している架空の田舎町。本来はキングが生まれ育ったメイン州なのだが、映画ではオレゴン州に変更。冒頭近くのシーンで、同州の都市ポートランドからラジオDJがボビー・デイの1958年のヒット曲『ロッキン・ロビン』を流す。
 

 
スタンド・バイ・ミー

まもなくハックルベリー・フィンが組み立てたような木の上の小屋で、タバコを吸いながらカードゲームに興じている悪ガキたちの姿が映る。ガキ大将のクリス(リヴァー・フェニックス)、メガネのテディ(コリー・フェルドマン)、そして語り部となるゴーディ(ウィル・ウィートン)と、遅れてやってくる太っちょのバーン(ジェリー・オコンネル)。この12歳の少年4人組が、行方不明になっている少年の死体を探しに行くため、森の奥まで冒険の旅に出かけることになる。

この映画版が素晴らしい仕上がりになったのは、監督のロブ・ライナー(スティーヴン・キングと同じ1947年生まれ)が、まるで自分事のようにリアルな気持ちを込めて物語を語り直したからに他ならない。現在は作家となり、少年時代を回想するゴーディは、要するにスティーヴン・キング自身のことなのだが、このキーパーソンとなる役(大人の時の彼)に、ライナー監督は旧友のリチャード・ドレイファスを起用。やはり1947年生まれの同級生をメインキャストに持ってくることで、“我ら47年組”の世代的な実感をがっちり固めていった。
 

 
スタンド・バイ・ミー

そして劇中では1950年代のオールディーズが多数使われる。例えば『トップガン』(1986年/監督:トニー・スコット)でグース(アンソニー・エドワーズ)が、『トップガン マーヴェリック』(2022年/監督:ジョセフ・コシンスキー)でその息子ルースター(マイルズ・テラー)がピアノを弾きながら歌ったジェリー・リー・ルイスの『火の玉ロック』(Great Balls of Fire)や、ザ・ボベッツの『ミスター・リー』、ザ・コーデッツの『ロリポップ』、バディ・ホリーの『エブリデイ』など……。言わばジョージ・ルーカス監督が自伝的な青春映画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)で、舞台となる1962年当時に自分が愛聴していたポップチューンをがんがん流したのと同じ方法論だ。

エンディングではまさに必殺の一曲、ベン・E・キングの1961年の大ヒット曲『スタンド・バイ・ミー』が流れる。劇中で使用しなかったのは時代設定と微妙に合わないからだろうが、“記憶の中の1959年”を締めくくるには最高の選曲だ。同曲は映画の主題歌として1986年に再リリースされ、全米チャート第9位、全英チャート第1位のリバイバルヒットに。日本でもオリコン洋楽シングルチャートで1987年に4週連続第1位を獲得した。
 

 
スタンド・バイ・ミー
クリス・チェンバーズ役を演じたリヴァー・フェニックス

さらに『スタンド・バイ・ミー』伝説において大きいのは、クリス役を演じたリヴァー・フェニックス(当時15歳)の存在である。まだデビュー仕立ての新人俳優だった彼は本作で一躍大ブレイクし、『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年/監督:ガス・ヴァン・サント)などの代表作を残したあと、1993年10月31日、23歳の若さで早世してしまった。

精悍な表情と繊細な影を併せ持つ本作のリヴァー・フェニックスは、当時“ジェームズ・ディーンの再来”と呼ばれたほど魅力的。とりわけゴーディがクリスに寄せる思慕や情愛、憧れは、未分化なボーイズラヴとでもいった色合いを帯びている。クールで聡明ながら、荒れた家庭環境のもとで葛藤や苦しみを抱えるクリス。本作のドラマにはザラザラした社会階層も反映されているのだが、そんな面倒臭い現実の事情にまだ侵食されていない少年たちは、大人の思惑などお構いなしにピュアな友情を結んでいる。しかしそれは期間限定の輝きかもしれない。彼らのひと夏の冒険は通過儀礼的な成長を促すものだが、それは同時にイノセンスの終焉という主題を孕むものでもあった。
 

 
スタンド・バイ・ミー

こういった『スタンド・バイ・ミー』の少年群像は“完璧”なものとして後続への多大な影響力を誇っており、特に1980年代を舞台にしたネットフリックスのSFドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016年~)は熱烈なオマージュ作としてよく知られている。さらに先日(2023年3月24日)公開されたばかりの日本映画、池川侑希弥(Boys be/関西ジャニーズJr.)主演、足立紳監督の『雑魚どもよ、大志を抱け!』など、現在に至るまでフォロワー作品は枚挙に暇がない。もはやジュブナイルものにおいて、『スタンド・バイ・ミー』的という不動の基本形――黄金のテンプレートを発明したくらいの功績があると言えるだろう。
 

 
スタンド・バイ・ミー

ほかにも不良グループの無軌道なリーダー、エース役を演じたのが、のちに『24 -TWENTY FOUR-』シリーズのジャック・バウアー役でおなじみになるキーファー・サザーランドだとか、映画『スタンド・バイ・ミー』のトピックは数多い。

原作小説との大きな違いは少年4人の“その後”が詳しく語られること。不良の道に進むしかないと思われていたクリスは、やがて勉学に励んで弁護士になったが、ある事件で刺殺されてしまうことは映画の冒頭で示される。だが、実はテディとバーンも……。いや、映画版と原作小説は別物として考えたほうがいいかもしれない。

映画『スタンド・バイ・ミー』は89分というコンパクトな尺で、“あの頃”のかけがえのない輝きをパーフェクトに描き切った。作家になったゴーディは「あの12歳の時のような友だちはもうできない」(I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve.)と最後にタイプで打ち込む。

やはりウチの息子も含め、いまの思春期を生きるキッズにもぜひ観てもらいたい一本である。ただしこの映画を鑑賞したあとは、間違いなく友だちと一緒に列車の線路を歩きたくなるので、そこは厳重に「危ないからやめてね」とご注意を!
 

 
『スタンド・バイ・ミー』
製作年/1986年 原作/スティーヴン・キング 監督/ロブ・ライナー 脚本/レイノルド・ギデオン、ブルース・A・エバンス 出演/ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン、リチャード・ドレイファス、ジェリー・オコンエル
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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