最新作『ブレット・トレイン』の公開で注目を集めているブラピ。渋みが増した50代の今もいいけど、タフで粗野なイメージと匂い立つ色気を兼ね備えていた30代の頃も実に印象的。そこで90年代に出演した作品から5本セレクト。「え?あの作品が無いじゃないか!」と思った人は、既出記事『【まとめ】ブラッド・ピット映画14本!』をチェックしてみて!
『トゥルー・ロマンス』
製作年/1993年 監督/トニー・スコット 脚本/クエンティン・タランティーノ 共演/クリスチャン・スレーター、パトリシア・アークエット
飄々としたアドリブ演技で魅了!
クエンティン・タランティーノの脚本を、名匠トニー・スコットが緩急鋭く味付けした異色のラヴストーリー。主人公クラレンス(クリスチャン・スレーター)はサニー千葉作品3本立ての映画館で、やや天然なコールガールのアラバマ(パトリシア・アークエット)と意気投合し結婚を誓う仲に。その後、彼女のヒモ男をぶち殺し、コカイン入りのカバンを持ち帰ったことで事態は急展開を迎えるのだが……。
我らがブラッド・ピットは、主人公の親友のルームメイトという、いわゆる物語の中心からはやや外れた脇役として登場。でもソファの上で常に意識が朦朧としていて、一つ間違えると何をしでかすかわからない危なっかしさも併せ持つ。一説では、ブラピはこの飄々と掴みどころのないキャラをほぼアドリブで演じたというから、タランティーノ世界とのシンクロ率はなかなかのものだ。のちに『イングロリアス・バスターズ』(2009年)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)へと続く二人のコラボの出発地として見逃せない。
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』
製作年/1994年 監督/ニール・ジョーダン 出演/トム・クルーズ、キルスティン・ダンスト、クリスチャン・スレーター、スティーブン・レイ
悲しみに湛えた瞳が、胸締め付ける!
物語のはじまりは、現代のサンフランシスコ。ジャーナリストの前に現れたルイと名乗る怪しげな男(ブラッド・ピット)は、自らが200年前、カリスマ性あふれるレスタト(トム・クルーズ)によって吸血鬼の仲間入りをさせられた半生を語りはじめるが……。
当初、トムのキャスティングに原作者アン・ライスが「イメージと違う!」と不満を表明するなど、撮影前から何かと物々しい立ち上がり方をした本作。しかしいざ完成すると、豪華キャスト、耽美的な美術、名匠ジョーダンの流麗な演出が冴え渡り世界的で大ヒットし、本編を観たライスも一転してトムの演技の激賞に回ったとか。対するブラピは、本作の”語り手”役を美しく、かつ悲しげに演じ切った。ただし、夜間の撮影が続いたこと、長時間に及ぶメーキャップ、撮影の雰囲気などに極度なストレスを感じていたそうでーーー。その辺りを考慮に入れて観ると、運命に翻弄される役柄と相まって、よりブラピへの思い入れが深まる作品だ。
『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』
製作年/1994年 監督/エドワード・ズウィック 出演/アンソニー・ホプキンス、エイダン・クイン、ジュリア・オーモンド、ヘンリー・トーマス
ブラピの野性味と美しさを凝縮!
『ラスト・サムライ』で知られるズウィック監督が、モンタナ州で牧畜を営む一家が辿る波乱のクロニクルを時に非情なくらい激しく、時にため息こぼれるほどの美しさで描いた一作である。時は20世紀初頭、固く結ばれていたはずの三兄弟の絆は、三男が婚約者を連れ帰ったことで微妙に揺らぎ出す。さらに第一次大戦の勃発が追い討ちをかけ、一家の運命は大きく翻弄されていき……。
エイダン・クイン、ブラッド・ピット、ヘンリー・トーマスがそれぞれ性格と外見の際立った三兄弟を演じ、濃密なアンサンブルを奏でた本作。なかでもブラッド・ピット演じる次男は、自然にどっぷり浸かり、熊と死闘を繰り広げ、長髪を風になびかせて馬を走らせるなど、野性味たっぷりの演技で魅了する。その一方で、悲しみの淵で慟哭したり、愛する人のことをずっと思い続ける繊細な表現でも観客の涙を誘った。これらのドラマを叙情性豊かに活写した撮影監督のジョン・トールにオスカーをもたらした作品でもある。
『12モンキーズ』
製作年/1995年 監督:テリー・ギリアム 出演:ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、クリストファー・プラマー、デヴィッド・キース
エキセントリック&ハイテンションぶりに驚愕!
ウィルス・テロによって人類の大半が死滅した未来。囚人のコール(ブルース・ウィリス)は科学者たちの命令によって過去へタイムスリップし、事件の鍵を握る謎の組織“12モンキーズ”の実態を明らかにしようとするが……。『未来世紀ブラジル』で知られる奇才テリー・ギリアムが奇想天外な創造性を十二分に発揮したSFサスペンス。
本作をめぐってはウィリスとブラピがそれぞれ「自分のイメージからの脱却」を求めてギリアムに出演を直談判したことでも有名。特にブラピの役柄は謎の組織のリーダー格であり、精神科病棟で見せるケツ丸出し(ブラピのアイデアだとか)のエキセントリック&ハイテンションぶりは今や伝説として語り継がれるほど。役の習得のためボイスコーチに付いて舌と唇の動かし方を徹底的に鍛え上げたというから、その覚悟も相当なものだったようだ。本作の演技で彼は人生初のオスカー(助演男優賞)候補入りと、ゴールデン・グローブ賞受賞を果たしている。
『セブン・イヤーズ・イン・チベット』
製作年/1997年 監督/ジャン=ジャック・アノー 出演/デヴィッド・シューリス、B・D・ウォン、マコ岩松、ダニー・デンゾンパ
スケールを増した存在感に圧倒される!
第二次世界大戦の勃発期。ヒマラヤ登頂に挑む登山家ハインリヒ・ハラーは連合軍によって身柄を拘束されながらも収容所から脱走し、過酷な自然を生き抜いてチベットへ到着する。そこで西洋文化に関心を寄せる若きダライ・ラマ14世の目に留まり、家庭教師となって親交を温めていくのだが……。フランスのジャン=ジャック・アノー監督がアンデス山脈の麓にセット建造して撮影したことでも話題を集めた壮大なヒューマンドラマ。
序盤のハラーは功名心に焦るあまり、仲間との協調性に欠け、妻と生まれてくる子供を省みることもない。だが、髪と髭がボーボーに伸びきった状態で命からがらチベットにたどり着き、さらにはダライ・ラマとの最初の出会いで金色の髪を無邪気にくしゃっと鷲掴みにされてからは、身も心もどんどん変わっていく。厳しくも美しい自然とチベット文化の精神性を背景に、すっかり一皮剥けたブラッド・ピットの人間的なスケール感を心ゆくまで堪能したい。
photo by AFLO