【エルヴィス・プレスリー】アメリカの光と影を映し出すロックの王様!
世界で最も多くのレコードを売り上げ、キング・オブ・ロックンロールと称される男、エルヴィス・プレスリー。7月に映画の公開も控え、今再び脚光を浴びているアメリカン・レジェンドを、モーリー・ロバートソン流の新鮮なアングルで読み解く!
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- アメリカ偉人伝! vol.1
[エルヴィス・プレスリー]
Elvis Presley
エルヴィスは、好きな人と嫌いな人で評価が全く異なる人物です。好きな人にとっては、天使のように素晴らしい。嫌いな人にとっては、人種差別の象徴。その間の微妙なところの考察は、あまり見かけません。だから彼の音楽だけを取り出して話すのは、少しもったいない。なぜヒットしたのか、どういう社会背景で、どんな気持ちで人々が熱狂したのか、それを追体験したいですね。
エルヴィスを売り出した人たちは、いわゆる黒人音楽であるブルースやR&Bに商業的な可能性を感じて、この熱狂は白人の若者にも届くと考えた。映画『アメリカン・グラフィティ』に出てくるように、母親が「黒人音楽は聴くな」というのを、若者は親に借りたクルマでドライブインに行き、こっそり聴いていた。黒人音楽が隔離されていた時代に、その扉を開けたのがエルヴィスです。彼がいたからビートルズのサウンドがあったし、クラプトンやストーンズもあった。公民権運動は’70年代までもつれますが、音楽では先に強力な市民権を得ました。
ただ、それはエルヴィスの影響におけるソフトな面。ハードにいくなら、やはり黒人と白人の文化が隔離されていた背景を見なきゃなりません。当時のアメリカは戦後の好況に沸く一方、黒人は低所得の仕事に固定されていた。マーケット規模で考えると、黒人の音楽を白人に拡大するのは、ひとつの大きなヤマでした。そのための何人かいる候補の中で、エルヴィスがドンピシャだったわけです。
さらにこの時代は、プロテスタントの白人の、禁欲的に勤勉に働き、財を成して子孫繁栄みたいな、非常に実直なフォーミュラがありました。これに対して黒人は、“ジュークジョイント”と呼ばれるバーで泥酔したり、喧嘩したり、非常に享楽的だと。もちろん白人の偏見もありますが、当時のメディアではそう捉えられていた。だから白人プロテスタント的な勤勉さからすると、非常に恐怖感と嫌悪感があったわけです。でも、当時の若者が熱狂してしまうのは、まさにそのリズムやグルーブ、あるいはいかがわしさ。そのギリギリを攻めると儲かるぞ、と。健全な娯楽との紙一重、そこを巧みに突いていったのだと思います。音楽による快楽と熱狂があり、その一方では黒人街の近くに住みたくないというような差別意識がある。だから社会に不公平がある限り、エルヴィスはどうしても二面性をもって語られてしまうのです。
それからもうひとつ。エルヴィスは従軍体験を通して“オール・アメリカン・ボーイ”、つまり模範的なアメリカ人の代表になる夢をもったんじゃないかな。大人に眉をひそめられていた男が、正当な権威として市民権を得る。まさに白人プロテスタントの価値観に沿った、清い人物像です。スターに押し上げてくれたアメリカに報いたい気持ちと、そこにしがみつきたい気持ちと。もしかすると彼の中に、その筋道が見えていたのかもしれません。そういう意味でもエルヴィスは、アメリカの古きよき黄金期、でも期間としては短く、後に混迷や黄昏もある白人男性のアイデンティティが強烈に輝いた時代を象徴する人物なのです。
エルヴィスに関する個人的な思い出としては、メリーランド州のボルチモアでパンクバンドをやっていた頃のことが印象的です。当時、仲間で誰かの広い家に集まっては酔っ払っていたのですが、そこでずっとエルヴィスの最後のコンサートのビデオを流していた。もう完全にむくんじゃって、かろうじて歌っているエルヴィス。それを見て「これが人間の理想だ」と話していた3つ上のドラマーがいました。彼は本当にエルヴィスに憧れて、その生き方を実践した結果、昨年アルコール依存の合併症で亡くなりました。彼にとっては、晩年のダメになってしまったエルヴィスのほうがリアル。ある種のアンチヒーローだったんですね。
エルヴィスは1958年にアメリカ陸軍への徴兵通知を受け、いっさいの特例措置を受けることなく2年間の兵役についた。西ドイツの駐留部隊に配属され、ファンに迎えられる中’60年に帰国。後ろに写っているのは、“パーカー大佐”の通称で知られるマネージャーのトム・パーカー。映画『エルヴィス』ではトム・ハンクスが演じる
1959年に当時14歳だったプリシラ・アン・ボーリューと出会い、8年後の’67年に結婚。翌年には娘のリサ・マリーが生まれたが、’73年に離婚。ただ、離婚後も友人関係にあった
全世界のレコード・カセット・CDなどの総売り上げは5億枚以上とされ、公式リリース音源は800曲以上。また、32本の映画出演作すべてに主演している。没後も、楽曲がカバーされたり、映画の題材になったりと、その影響力は計り知れない。
『エルヴィス』
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世界を一変させたエルヴィスの誰も知らなかった真実の物語。バズ・ラーマン監督に「エルヴィスそのもの」といわしめた、新星オースティン・バトラーの圧倒的な演技と歌唱に注目!
監督:バズ・ラーマン 出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス 7月1日(金)より全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画
教えてくれたのは
[モーリー・ロバートソン]
Morley Robertson
1963年、NY生まれ。日米双方の教育を受け、東京大学とハーバード大学に現役合格。東大を1学期で中退し、ハーバード大に入学。東大在学中にプロミュージシャンとしてデビュー。現在はタレント、国際ジャーナリスト、音楽家として幅広く活動している。
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もがき苦しんだ晩年を追体験するのは……
「トップでありたい、主流に認められたいと、懸命にもがき苦しんだ彼の思いを感じてしまいます。それを追体験するのは、ちょっとパスですね。ただ、作品は素晴らしいです」
雑誌『Safari』7月号 P184~185掲載
text : Kunihiko Nonaka(OUTSIDERS Inc.) photo by AFLO