WAREHOUSE HOTEL
なぜだか懐かしい。古きよき日本の情緒に心休まる。
醸造所として、あるいは材料を貯蔵する倉庫として、役割を果たしてきた堅牢な蔵。今は、Wi-Fi や床暖房など快適な設備を調えたお宿として、再利用されるケースも。時を吸いこんだ分厚い扉の向こうに、日本ならではの非日常の体験が待っている。
NIPPONIA 田原本 マルト醤油
代々、当主の家族が暮らしていた、母屋の2Fにある“木藤”。ベッドルームからは南棟の瓦屋根を望み、奈良らしい風景が楽しめる
奈良盆地の中央、ぐるりと水田や大和青垣に囲まれた、日本の原風景が残る田原本。この地に1689年、創業したのが奈良最古の醤油蔵〈マルト醤油蔵元〉。大和川周辺で育てられた大豆と小麦を使い、天然醸造にこだわった醤油は、皇室御用達だったことも。戦後の混乱期に蔵を閉じたものの、試験醸造を経て70年ぶりに本格的な醸造が復活。そして宿として、新たに門戸を開いた。大和棟と呼ばれる伝統建築の醸造棟や住居棟、古文書や道具が残る書庫などを改築した客室は7室。築130年の建物に手を加え、床暖房やWi-Fiなど、今どき必須な設備にも抜かりなし。料理には、復活したマルト天然醸造醤油を使用。醤油しぼり体験など醤油文化にも触れられる。
右:母屋の1Fにあるレストラン。土壁がいい風合い 左:70年ぶりに復活させたマルト天然醸造醤油を使った、あんかけの朝食。大和の稲作発祥の地である田原本。手塩にかけて育てられた地元の野菜や、邪気を払うとされる古代桃など、自然の恵みを田園風景の中で
ほかにもこんな部屋が!
右:当時、蔵人たちの作業風景を見守ったシンボル的な建物の部屋“蔵人” 左:古文書や財物が収められていた蔵の部屋“府庫”。18代め当主が古文書を読み解き、昔ながらの醤油を復活させるきっかけに。室内には歴史を記した書物も
[マスイチキャクデン]
桝一客殿
“書斎型ツインルーム50平米”。部屋番号はなく、桝一客殿の旦那文化を象徴する北斎作品のルームキーと客室入り口の絵を合わせる
日本のおもてなし文化を間近に体感!
遠方からのお客をもてなす文化が息づいている小布施。〈桝一客殿〉の祖・高井鴻山も、葛飾北斎を招き、この地に文化遺産をもたらした。その流れは今も継続。江戸時代からの文庫蔵や砂糖問屋の土蔵3棟など12室を、〈パークハイアット〉で知られる建築家ジョン・モーフォードが基本設計を手掛けた。小布施の暮らしで得た彼のインスピレーションと、蔵が融合したその様は見事だ。たとえば、ガラスをメインにステンレスやタイルを組み合わせたバスタブ。肩まで湯に浸かれるよう、座面もある。ほかにも、家具にいたるまで、モーフォードの美意識が貫かれている。
右:見上げるほど高い天井に、立派な梁がわたされたロビー。モダンなソファと蔵建築とのコントラストも絶妙。ロビーの先には昔ながらの瓦が積まれている 左:江戸時代の文庫蔵を生かした図書館。建築や江戸美術、小布施にまつわる書物がずらり並ぶ
[エッチュウ ヤツオベース オヤツ]
越中八尾ベース OYATSU
客室は本丸(定員7名)と二の丸(定員5名)。格子窓の向こうは、なりひら通り。風物詩“おわら風の盆”の町流しを部屋から見物できる
江戸から明治にかけて栄えた坂の町・富山県八尾。かつて生糸や越中和紙を扱う問屋で、蚕業も営んでいた商家を一棟貸しに。明治5年に建造された、原材料や商品の集荷場として使われていた蔵を改築。コンセプトは“八尾の四季を感じる暮らしを体験する”。滞在中はコンシェルジュが町を案内。この地に根づく町人文化に触れ、地元の人との交流も取り持ってくれる。八尾で活躍するシェフの山の幸を使ったイタリアンのケータリングや、行事“おわら風の盆”の三味線名人からの手ほどきなど、体験も町の暮らしに踏みこんだもの。普通の旅では満足できない人におすすめ。
右:どっしりとした扉の蔵の中では、日によって、音楽イベントなどを開催。興味のあるイベントは、スケジュールを確認してみて 左:蔵の隣のカフェ&バースペースでは、地酒や季節のドリンク、和菓子など、八尾ならではのメニューをラインナップ
●NIPPONIA 田原本 マルト醤油
住所:奈良県磯城郡田原本町伊与戸170
TEL:0744-32-2064
URL:https://maruto-shoyu.co.jp/
●桝一客殿
住所:長野県上高井郡小布施町大字小布施815
TEL:026-247-1111
URL:https://www.kyakuden.jp/
●越中八尾ベース OYATSU
住所:富山県富山市八尾町上新町2701-1
TEL:076-482-6955
URL:http://8-base.chu.jp/
『Urban Safari』Vol.19 P26掲載