Safari Online

SEARCH

LIFESTYLE ライフスタイル

2017.09.16


【Vol.33】『パルプ』×LA

暇さえあれば、いや、暇がなくても、バーと競馬場に入り浸り、ろくに仕事もしない私立探偵のニック。彼のもとに死んだはずの作家を捜索する依頼が届く。それを皮切りに、奇妙な事件に次々と巻きこまれていく。死に神や浮気妻、宇宙人などが入り乱れ、物語は佳境へと向かう。LAを代表する作家ブコウ…

暇さえあれば、いや、暇がなくても、バーと競馬場に入り浸り、ろくに仕事もしない私立探偵のニック。彼のもとに死んだはずの作家を捜索する依頼が届く。それを皮切りに、奇妙な事件に次々と巻きこまれていく。死に神や浮気妻、宇宙人などが入り乱れ、物語は佳境へと向かう。LAを代表する作家ブコウスキー最後の長編小説。過去の作品を思わせる記載やキャラも登場。オールドファンは思わずほくそ笑んでしまうはず!

ブコウスキー最後の長編。自堕落ぶりを重ね合わせた主人公の姿を堪能すべし!


LAはフィリップ・マーロウものをはじめ、数々のハードボイルド探偵小説を生み出してきた。夢を求めてLAに来た雑多な人々が起こす、あるいは巻きこまれる犯罪を、タフな探偵たちがカラダを張って解決する。彼らが女や酒にちょっとだらしないのも、欲望の町LAに似合っていて、そこがまた魅力である。

それにしても……、酔いどれ詩人として名高いチャールズ・ブコウスキーがハードボイルド探偵小説を書くと、ここまでだらしない探偵が出来上がるのか! なにしろ主人公のニック・ビレーンは、「俺はLAとハリウッド両方で一番の私立探偵」とうそぶきながら、酔っ払ってばかり。ろくに仕事がないのでオフィスの賃貸料が払えず、家主から追い立てを食らっている。冒頭、セクシーな声の女性から電話があるが、二、三言交わしたところで、「ジッパーを閉めなさい」と叱られる始末。実のところ、自ら認めるように「何ひとつ解決できない探偵」なのだ。

電話の女は死レ イディ・デスの貴婦人と名乗り、セリーヌを探してくれと言う。セリーヌとは30年以上前に死んだフランスの作家のこと。わけのわからない依頼だが、物語はこんな調子で、かなり行き当たりばったりに進む。といっても、“ハードボイルドのパロディを書こう”といった意気ごみはブコウスキーにはない。自画像的なキャラクターを使い、とんでもなく猥褻な言葉を口にさせて、思いつくままに書いている感じなのだ。ニックが次に受ける依頼は“赤レッド・スパローい雀”を探してくれというもの。手がかりもなく、ただ「どこかにいることは間違いない」というだけだ。さらに次の依頼は、宇宙人につきまとわれているからなんとかしてくれ、というもの。ハチャメチャぶりが半端ない。

ニックはこうした事件を解決しようと勇んで町に出る。「典型的なロサンゼルスの昼――スモッグ、半分出た太陽、もう何か月も雨はなし」(P94)。しかし、結局酒場で飲んだくれたり、ハリウッド・パークの競馬場に行ってしまう(作者同様、ニックは異常な競馬好きで、金をスッてばかりいる)。人妻のクルマを追っているときは、警官にクルマをとめられ、運転免許更新の筆記試験に落ちたことがばれ、思い切り笑われる。計画性のなさから危ない目にあうことも多く、そういうときは暴力行為で切り抜ける。失敗すると落ちこみ、自殺を考えたりもするが、やっぱり飲んだくれる。それでいて、なんとなく事件が解決していくいい加減さ。最後まで行き当たりばったりなのだ。

これはブコウスキーの長編としては最後のもの。病気で中断しながら書き上げ、死の直前に出版された。となると、ニックがたびたび人生を振り返り、「ここで俺が死んでも、世界じゅう誰ひとり、一滴の涙も流さないだろう」(P252)なんて感慨にふけるのも、けっこう本音の吐露ではないかと思えてくる。それでいて、最後まで自堕落ぶりを通すところがブコウスキー。これこそ彼の生き様だ。

 
Information

●『パルプ』
チャールズ・ブコウスキー 著 柴田元幸 訳 筑摩書房 840円

雑誌Safari10月号 P223掲載

文=上岡伸雄 text : Nobuo Kamioka photo by AFLO, amanaimages
〈オメガ〉の“プロフェッショナルライン”に注目。復活した“レイルマスター”と 新色の“シーマスター”、心躍るふたつの名作。
SPONSORED
2025.06.27

〈オメガ〉の“プロフェッショナルライン”に注目。
復活した“レイルマスター”と 新色の“シーマスター”、心躍るふたつの名作。

〈オメガ〉を象徴するコレクションとして、1957年に創設された“プロフェッショナルライン”3部作。その中でも“レイルマスター”は、鉄道職員や電気技師といった強い電磁場が発生する場所で作業する人々を耐磁性の高さで支えた名作。そして、“シーマ…

TAGS:   Urban Safari Watches
〈ブランパン〉の名シリーズから新作登場。大人の休日にはシックなダイバーズを。
SPONSORED
2025.06.27

〈ブランパン〉の名シリーズから新作登場。
大人の休日にはシックなダイバーズを。

時計の人気トレンドにヴィンテージスタイルがある。1953年に誕生し、基本デザインを継承する“フィフティ ファゾムス”もそのひとつかもしれない。だがそこに懐古趣味はなく、常に新鮮な魅力を感じさせる。機能美という不変の価値があるからだろう。新…

TAGS:   Urban Safari Watches
リーダーにふさわしい〈グラスヒュッテ・オリジナル〉の一本。端正な機械式時計で仕事にも優雅さを。
SPONSORED
2025.06.27

リーダーにふさわしい〈グラスヒュッテ・オリジナル〉の一本。
端正な機械式時計で仕事にも優雅さを。

クルマやカメラなどドイツの工業製品の高い機能と品質は世界的に知られる。時計も例外ではない。〈グラスヒュッテ・オリジナル〉はその代表格だ。クラシカルなスタイルに決して派手さはない。だが漂う気品は、伝統に培われた揺らがぬ時計作りの哲学と美学を…

TAGS:   Urban Safari Watches
〈パネライ〉の傑作がさらなる進化。タフさと品格を併せ持つエレガントダイバーズ。
SPONSORED
2025.06.27

〈パネライ〉の傑作がさらなる進化。
タフさと品格を併せ持つエレガントダイバーズ。

歴史に裏打ちされた信頼性と機能。そして、存在感を放ちながら、品を保つデザイン性。そのすべてを兼ね備えた〈パネライ〉の“ルミノール マリーナ”は、知性と余裕をまとう大人にふさわしい腕時計だ。その傑作コレクションが今年、大胆な進化を遂げたとい…

TAGS:   Urban Safari Watches
〈エドックス〉の人気ダイバーズ時計が日本限定で登場!“とろやわ”ストラップで夏のビーチを満喫!
SPONSORED
2025.06.25

〈エドックス〉の人気ダイバーズ時計が日本限定で登場!
“とろやわ”ストラップで夏のビーチを満喫!

煌めく太陽に、白い砂浜、青い海。夏のビーチ遊びの季節がやってくる! ラフなビーチコーデの手元だって、やっぱり快適さを求めておきたい。そんな海遊びにはラバーストラップのダイバーズ時計が最適だ。そこでプッシュしておきたいのが〈エドックス〉の日…

TAGS:   Fashion Watches
〈ザ・ブセナテラス〉で過ごす憩いの時間!沖縄バカンスは贅沢でリラクシングなステイを!
SPONSORED
2025.06.25

〈ザ・ブセナテラス〉で過ごす憩いの時間!
沖縄バカンスは贅沢でリラクシングなステイを!

〈ザ・ブセナテラス〉は、日々の疲れを癒し、日常では味わえない贅沢な時間を過ごせる。充実したホテルの設備・サービス、海に面した立地を生かしたマリンアクティビティプログラム。ここは1泊2日くらいでは気づけない、魅力を秘めている。パートナーとと…

TAGS:   Stay&Travel
これでライフスタイルが見違える!新鮮アイテムでいつもの夏をアップデイト!
SPONSORED
2025.06.25

これでライフスタイルが見違える!
新鮮アイテムでいつもの夏をアップデイト!

いよいよ待ちに待った夏。バカンスを楽しみにしている人も多いだろう。たとえ予定がなくても、気温の上昇とともに気分をぐっと上げていきたい。そんなときに必要なのが、ライフスタイルをアップデイトするためのアイテムだ。これさえあれば、いつもとはひと…

サンダルは履き心地と見た目のよさで選ぶ!夏に大活躍するサンダルは、〈ロンハーマン〉別注が優秀!
SPONSORED
2025.06.23

サンダルは履き心地と見た目のよさで選ぶ!
夏に大活躍するサンダルは、〈ロンハーマン〉別注が優秀!

夏がやってくると気分も開放的になり、休日はお出かけモードに。街にショッピングに行くのもいいし、たまにはアウトドアで自然の中に身を置くのも気持ちよさそうだ。もちろん、ご近所を散歩する程度で、家でゆっくり過ごすというのも幸せ。で、そのどんなシ…

TAGS:   Fashion
〈ジラール・ペルゴ〉夏の限定モデルが登場!サマーバカンスの相棒は“懐色”の復刻ダイバーズで!
SPONSORED
2025.06.20

〈ジラール・ペルゴ〉夏の限定モデルが登場!
サマーバカンスの相棒は“懐色”の復刻ダイバーズで!

マニュファクチュール=自社一貫生産体制を2世紀以上も貫き続けるスイス、ラ・ショー・ド・フォンの名門時計ブランド〈ジラール・ペルゴ〉。そのコレクションはどれもクラシカルかつドレッシーで気品に満ちたもの。そんなイメージを、文字どおりあざやかに…

TAGS:   Fashion Watches

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ