「人生の様々な感情、経験は まるで波のようなものさ」
有名アニメ『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』『ティーン・タイタンズ』などの声優として活躍するグレッグ・サイプス。実はかつてジュニアプロとしてコンペティションで功績を築き、将来を期待されていたサーファーだった。そんな彼の異色なキャリアと、ファッショナブルでラブ&ピースな現在の生活を覗いた。
●今月のサーファー
グレッグ・サイプス[GREG CIPES]
西海岸サーファーの多くは生まれも育ちも西海岸というケースが多いが、今回取材したグレッグの故郷は東海岸フロリダ。マイアミからクルマで1時間ほどのコーラルスプリングスという街出身だ。ビーチも近く緑あふれるこのエリアで育ったグレッグは、小さな頃から自然の中で遊ぶのが好きな、活動的な子供だった。
「はじめて波乗りしたのは11歳。旅先のニュージャージーで、母にもらったロングボードに乗ったんだ。波の上を滑っていく感覚が最高に気持ちよくて、すぐに病みつきになると感じたよ」
以来、学校が終わると時間の許す限り地元の海に通うように。はじめはインサイドでテイクオフの練習をしていたが、パドル力の必要性に気づき、沖まで漕いでは腕や肩を鍛えた。波もない海に1人で入ってひたすらパドルの練習をした時期もあったそう。そんな努力が実ってか、あっという間にジュニアプロへ。15歳にして〈タウン&カントリー〉や〈リップカール〉など13ものブランドからスポンサードされるほどになった。
「自分でマーケティングをしてスポンサーになってくれそうなブランドを探して直接交渉したんだ。すごく楽しい経験だったし、なにより自信に繋がったね」
17歳の頃には、南カリフォルニアのオーシャンサイドで行われた大会で見事に3位にランクイン。それを契機にサーフ雑誌『イースタンサーフマガジン』の表紙に抜擢されたり、スポンサーの広告モデルとして登場するようになった。好きな波乗りをするだけで賞金や報酬がもらえることは夢のような話だったし、またスポンサーからギアや洋服がタダでもらえるのもありがたかった。ツアーで旅することも、若いグレッグにとっては非常に刺激的。なかでも忘れ難かったのがやはり西海岸での経験だったという。「ビーチカルチャーとエンタメが根づいているカリフォルニア。ここに住むのはずっと夢だったんだ。サーフバンを友人と交代で運転しながら気ままに行くサーフトリップやサーフキャンプをはじめ、カリフォルニアサーファーならではの遊び方にも憧れてたんだよね。で、20歳を迎えたときにLA移住を決意したんだ」
LAに拠点を移した直後に潔くプロを退き、フリーサーファーへと転向したグレッグ。そのかわり生業となったのが、エンターテイメントの仕事だった。実はかねてからサーフィンと同時に演技や歌といった芸能のキャリアにも心惹かれていた。というのも、テレビプロデューサーとして活躍していた父の影響で、子役としてコマーシャルやドラマなどの経験を積んでいたのだ。そのため、ほかのジュニアサーファーよりも海に入る時間は少なかったが、逆に限られた時間で波乗りをするため、集中力が養えたとグレッグは言う。そんな彼の舞台デビューは、実はまさに波乗りにのめりこんでいた13歳なのだそう。さらに16歳のときには自身が手掛けたレコードをリリースし、ローカルヒットを飛ばしている。
「作詞、作曲、それにプロデュースも全部自分でやってみたら、予想外に評判がよくて、フロリダ内でヒットを記録したんだ」
そんな背景もあり、LAへと拠点を移したグレッグ。大会に出ることに疲れを感じはじめた頃、プロサーファーとしての重荷を下ろし、演技と音楽活動に専念しようと思ったのだった。引っ越しに携えたのは愛犬とギター、それにサーフボードのみ。新天地で心機一転を図った。
新たなキャリアは幸先のいいスタートを切る。たまたま受けたアニメ『ティーン・タイタンズ』の声優オーディションに合格したのだ。また一方で30以上もの人気ドラマや映画に出演し、俳優としてもキャリアを積んだ。
しかしオフの日は必ずマリブやヴェニスなどでサーフィンを満喫。長時間収録が続いた後は、張り詰めていた気持ちを海で流していたそう。オンとオフの境界線をはっきり引けるようになったのはサーフィンのおかげだと語る。
現在は声優としての活躍がめざましくアニメ系のイベントで世界中を巡り、大勢のファンと交流を深めている。一方で音楽活動も積極的。ハリウッドやヴェニスビーチで音楽イベントをオーガナイズしたり、恵まれない子供たちのためのチャリティ活動なども行っているという。
8歳からベジタリアン、11年前からヴィーガンライフを続けているグレッグ。日頃から食生活にはかなりこだわりがあり、食材はオーガニックストアやファーマーズマーケットで調達し、ハーブや葉物などは自宅のガーデンで栽培している。また、グレッグはかなりの洒落者としても有名で、〈ロエベ〉や〈アラヌイ〉などのラグジュアリーなアイテムを上手にサーフスタイルにミックスしている。ヘルシーでファッショナブルなライフスタイルはまさにLAセレブのお手本のような彼だが、その1日のスタートはとても早い。まず、サンライズとともに起床し、瞑想。その後愛犬ウィングメンとヴェニスビーチの海沿いを散歩がてら波チェック。波があれば朝食前にサーフィンし、なければ自宅でケールサラダやハンドメイドの抹茶ラテなどを楽しむ。その後は仕事タイム。ミーティングや声の収録などは、ハリウッドのスタジオかヴェニスの自宅で行うことが多いそう。
「でも、どんなに忙しくても夕方は自宅のバルコニーから海に沈む太陽を眺めつつ、瞑想をするように心掛けているんだ。それが1日を締めくくる自分なりの儀式だね」
交友関係が広いグレッグは、オフの日には多くの友人を招き、オーガニックフードをふるまったり、ギター片手にジャムセッションが繰り広げられるなんてこともしばしば。
「最近は新プロジェクトをいくつも立ち上げていたからパーティはしばらくお預けだったんだけどね。数カ月前にスタートしたアニメが順調に走りだしてホッとしているところだよ」
ノース・オブ・ブレイクウォーター[NORTH OF BREAKWATER]
ヴェニスビーチの有名なポイント“ブレイクウォーター”の北側に位置する、シークレットスポット。ビーチブレイクでスウェルが入ると波が立ち、ロングからショートまで幅広く楽しめる。ハイシーズンでも人が少ないのが嬉しい
数年前に故郷のフロリダに戻った際、大好きなポイントのひとつ、ディーフィールドビーチでパーフェクトな波を満喫したそう
スケートボードに乗って波チェックに出かけるのは朝のルーティンのひとつ
彼のアトリエ(通称〝ビーチハウス〞)の一角では簡単な声の収録も行えるような設備が整う
ミュージシャンとしても活躍しているグレッグ。壁にはギターやウクレレなどもディスプレイ
サスティナブルなライフスタイルを送っているグレッグ。彼が作るケールサラダは絶品と近所でも評判!
ラブ&ピースな空気を纏う彼はどこでも大人気。隣に住むお洒落なアーティスト夫妻とは家族同様の付き合いだ
雑誌『Safari』7月号 P162・163掲載
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