波愛と知性あふれるサーフショップオーナー
ニューポートビーチに新しいムーブメントを呼んでいるサーフ&ライフスタイルショップ〈デイドリーム・サーフショップ〉。 マニアも唸るこだわりのボードセレクションとヴィンテージボードがレンタルできるというユニークなシステムが 注目を集め、海外サーファーも立ち寄る名所に。そのファウンダーであるカイル・ケネリーを紹介しよう。
●今月のサーファー
カイル・ケネリー[KYLE KENNELLY]
ニューポートビーチの南に位置する美しいビーチ、コロナ・デル・マー。まわりを閑静な住宅地に囲まれ、まるでプライベートビーチのような穏やかな空気が流れている。そんな土地でカイルがサーフィンをはじめたのは10歳のとき。友人とともに、毎日のように夢中になって海に通っていたという。
「コロナ・デル・マーで育ったのは人生に大きな影響を与えていると思う。最初に乗った波の衝撃が忘れられなかったんだ。明日はもっと多くの波に乗ろうという気持ちで、いつもワクワク海に繰り出していたのを思い出すよ」
波乗りのスキルを磨けば磨くほどサーフィンの世界にのめりこんでいったカイル。彼の育ったコロナ・デル・マーを擁するニューポートビーチはカリフォルニアのサーフヒストリーを語るうえでハズせない場所。サーフィンの伝道師でオリンピックチャンピオンでもあったデューク・カハナモクがここに立ち寄り、ハワイからサーフィンをカリフォルニア中に広げたといわれる、歴史的なビーチだ。そんな環境で育ったせいか幼い頃からサーフヒストリーにも興味を抱くようになったという。
「後にニューポートビーチのブラッキーズという有名なポイントで入るようになってからは、毎朝5時30分に母がクルマで連れて行ってくれたんだ。海までの道中の景色が好きで思い出すたびにノスタルジックな気分になるよ」
家族の協力も得ながら、感受性豊かで探究心の強い少年カイルは、波乗りに関する知識や情報を日々吸収していたようだ。やがて、家族とともにハンティントンビーチに移るも、カレッジに入るとまたニューポートビーチに戻りサーフィンに明け暮れていた。その一方で、彼の勉強熱心な性格は波乗り以外の分野にも通じていたよう。大学は米国有数の名門・UCバークレーに進学した。サンフランシスコ近辺のいわゆるベイエリアで学生生活を過ごすことになったわけだが、それまでカイルが暮らしてきたのはすぐそばに海がある、典型的な南カリフォルニアのビーチタウン。そんな場所で育った彼にとって、これは大きな環境の変化。でも、そこでも彼の波乗り熱が冷めることはなかった。
UCバークレーで経済学を専攻していたカイルは、毎日ハードな授業をこなしつつも、海にもちゃんと通っていた。とはいえ、当時の彼の生活は今のカイルの姿からは想像もつかないもの。もともと経済学で博士号取得を目指していたが、基準点を獲得できず断念。その代わりに銀行への就職を考えニューヨークで数カ月トレーニングを受けていたが、「この道に進むべきなのか」と踏みとどまったそう。その後、サンフランシスコに“出戻り”となったカイル。その頃から、ガールフレンドのベッカとサーフショップを開く構想を練りはじめていたという。ベッカはサンフランシスコ大学でデザインとアートを学んでいて、サンフランシスコの北にあるウェストメインという街で一緒に暮らしていた。ともにサーフィンを楽しんでいた2人はいつしか理想的なサーフショップを開きたいという夢を抱くように。その未来図を完成させるための勉強も兼ねて、カイルは〈モラスク〉で働きはじめた。「大好きな〈モラスク〉はまさに僕たちの目指すべき姿だった。ベッカが先に働きはじめて、入れ替わるようにして僕が後から入ったんだ。ここではレジェンド的なシェイパー、サーフボード、アート、サーフィンの歴史、それに経営に関することまで学ばせてもらったよ。路頭に迷い目的地を見失ってしまった状態から最高の仕事を見つけたって感じだった」
約1年間、〈モラスク〉で働いた後にニューポートビーチに戻ったカイルとベッカ。そこからサーフショップのオープンに向けて着実に計画を進めていった。それぞれの専門知識や経験を発揮し、カイルは予算管理などの経営をメインに、ベッカは店の内装やバイヤーを担当。たくさんの試行錯誤を経て、彼らが理想とするショップ〈デイドリーム・サーフショップ〉を約3年前にオープンさせた。オープン前後は1日18時間ほど働いていたそうだが、その甲斐あって納得いく空間が完成。おそらく、労働時間だけでいえばニューヨーク時代と変わらぬ働きぶり。それでも苦ではなかったのは、やはりカイルのサーフ愛と、理想のショップ作りに向けた情熱があってこそに違いない。
“自らのホーム”と語るニューポートビーチ・コスタメサに店をオープンして約3年が経つ現在、スタッフは5人になりさらにパワーアップ。定期的にイベントやワークショップなども行っているせいか、今ではここが新しいサーフムーブメントを生む場所となっている。店内にはカフェも併設しており、サーファーだけでなくローカルの住人たちの新しい溜まり場としてもにぎわいを見せている。また〈デイドリーム・サーフショップ〉といえば、〈ゴードン&スミス〉、〈ジェイコブス〉などマニアも唸るレアなヴィンテージボードがおよそ50本ほど揃っており、それらをレンタルし放題(毎月50ドルの会員制)という珍しいシステムを導入。ハードコアなサーファーだけでなく、広く業界からも注目されているこのショップの魅力のひとつとなっている。まさに、ニューポートビーチでサーフヒストリーを伝える存在にもなっているのだ。
「それからゲストを飽きさせないために、店のインテリアを少しずつ変えたり、新商品を取り入れたり、と常に少しずつ変化し続けているというのも秘訣なんだと思う」
ほかにも人気の秘密を挙げたらキリがないが、そういう仕掛けをいつも考えたりしているせいか、つい働きすぎてしまう、と笑うカイル。とはいえ、最近は積極的に海に通ったり、仲間とサーフトリップを企画したり、とオンとオフの好バランスを保っているよう。そんな彼の次なる目標は、ほかのエリアにも2号店、3号店を展開すること。また、パートナーのベッカといつかサンフランシスコの北はずれにサスティナブルな家を建てることも夢なのだそう。
ホームポイントはココ!
サン・オノフレ[SAN ONOFRE]
ニューポートビーチと同じくらい通っているというのが、サンディエゴのやや北に位置するサン・オノフレ。ロングボードにこだわるオールドスクールなサーファーが集うピースなポイント。リーフブレイクでロングライドが楽しめる。
レンタルできるヴィンテージボードがズラリ。マニアや旅サーファーだけでなく、初心者もウェルカム
ヴィンテージ好きな2人は店に’60~’70 sのレコードをストック。カイルが手にしているのは友人からギフ
トされたウィリアム・オニーバーのアルバム『グッドネーム』
併設のカフェで提供しているのはローカルのコーヒーブランド
入り口すぐにカフェ、中央にはお洒落な雑貨やホームウエアが並ぶ店内
彼の愛車ももちろんヴィンテージ。1963年のフォードにサーフラックを付けてクラシックスタイルをキープ
ボンザーを乗りこなすクールなカイルのライディングショット。場所は、フェイバリットスポットのサン・オノフレ
雑誌『Safari』11月号P316・317掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahash(i Volition & Hope)