普段は鉛筆、特別なときにとっておきの万年筆を! 決して時代遅れではなく手で書くことは本質的!
創業は1822年。スイス・フルリエの地で精巧な機械式時計を生み出す〈ボヴェ〉においてセールスディレクターを務めるクルト・ヘフティ。万年筆は精緻でクラシックな機械式時計の世界に通じるものがあるという。愛用歴は約40年。メインの筆記具は鉛筆派だというカートは、どんなシーンで、どんなふうに万年筆と向き合っているのだろうか!?
- SERIES:
- ビジネスエリートの愛する万年筆! 第43回
PROFILE
スイス出身。生後まもなくカナダに移住し、16歳でスイスに戻る。スイスで経営学およびマーケティングの学位を取得し、大手グローバル企業に勤務。その後、時計業界に身を転じ、香港、台湾、日本などにも駐在経験がある。2011年、〈ボヴェ〉のセールスディレクターに就任し、現在に至る。本人はスイス在住、奥さまは香港、3人の子供はスイス、カナダ、イギリスに住むグローバルファミリー。英語、フランス語、ドイツ語に堪能なマルチリンガル。
最愛の人への手紙
愛するケンドラへ
ハッピー、
ハッピーバースデー!
君の夢が全部叶うことを
願っているよ。
愛をこめて
̶父より
時を経ても色褪せない魅力がある!
「はじめて万年筆を使ったのは、カナダからスイスの学校に転入したとき。スイスでは授業の一環としてごく当たり前に万年筆を使用していましたね。最初の一本は〈カランダッシュ〉のモノだったかな。ブルーのボディだったことを覚えています。それ以来かれこれ30〜40年近く万年筆を使い続けています」
そう話すのは〈ボヴェ〉でセールスディレクターを務めるクルト・ヘフティ。かつて〈ファーバーカステル〉の工房を訪れ、その職人技や細やかな手作業に触れて以来、同ブランドの万年筆を愛用している。上品で無駄のないデザインやクラシカルな佇まいもお気に入りの理由だという。とはいえ、メインの筆記具として使っているのは、同ブランドの鉛筆だ。
「普段は鉛筆。万年筆を使うのは特別なときと決めています。大切な人に手紙を書いたり、重要な書類にサインしたり。そうそう、結婚式のときも妻と一緒に万年筆で署名しました。私にとっては万年筆自体が特別なものなので、ほかの人に貸すこともいっさいありません(笑)」
鉛筆に万年筆とはかなりのアナログ派だが、ほかにも機械式時計やクラシックカーなど、決して色褪せないトラディショナルな機能やデザインに惹かれるという。ちなみにサングラスに関しては〈レイバン〉の“ウェイファーラー”をそれこそ50年近く愛用しているんだとか。
「別に新しいものを否定しているわけではありません。私だって最新のデジタル機器を使っていますよ。でもレストランでスマホばかりいじっているのはどうかと思います。目の前の相手の顔を見てきちんと話さないと…。メッセージも同じです。メールやSNSもいいのですが、ときには時間をかけて、相手のことを思いながら丁寧に手書きすることも必要なのではないでしょうか。万年筆はあまり効率的とはいえませんが(笑)、そのぶん現代人が忘れかけている大切ななにかを宿しているように感じます」
愛用の万年筆
クラシックコレクション
ペルナンブコ プラチナコーティング 万年筆
/ファーバーカステル伯爵コレクション
カートが普段持ち歩いているヘビロテの万年筆がコチラ。ボディ素材のペルナンブコはバイオリンの弓などに使用される希少木材。長年使うことにより色がほどよく変化したり、手に馴染むようになるのも魅力なんだとか。インクは珍しいコニャック ブラウンを愛用している
スネークウッド
/ファーバーカステル伯爵コレクション
ハンドクラフトの狩猟用ライフルからインスピレーションを受けて生まれた限定モデル。焼き入れ法という特殊な技法と緻密な彫刻、そしてなにより、ウォルナットの神秘的な木目が印象的な1本。カートもその美しさに目を奪われ、思わず衝動買いしてしまったそう!
基本的に腕時計以外のアクセサリーを好まないと語るカートだが、薬指には結婚指輪とともにファミリーリングが光る。紋章が刻まれたコチラは、父から譲り受けたものだという。万年筆選びとともに小物使いのセンスにも、クラシックなものを愛するカートの美学が感じられる
万年筆同様、メカニカルでタイムレスなものが好きだと語るカートの時計は、〈ボヴェ〉の〝アマデオ フルリエ 43 ヴィルトゥオーソV〞。両面ダイヤルのリバーシブルウォッチ、デスククロック、チェーン付きのポケットウォッチと、4パターンの使い方ができる名作だ
COMPANY DATA
BOVET[ボヴェ]
創業196年を誇る老舗時計ブランド!
1822年、スイス・フルリエで創業。高級時計の代名詞として200年近い歴史を誇り、現在も多くのタイムピースが大英博物館などに展示されている。写真の古城はボヴェ一族が所有し、
スイス政府認定の歴史建造物。現在も最終工程や彫刻・塗装工程の一部が行われている。
雑誌『Safari』9月号 P220・221掲載
photo : Mamoru Kawakami text : Takehisa Mashimo