【姫野和樹】自身の犯したファールがすべてを見直すきっかけに!
攻守の要となるナンバーエイト(背番号8)として、ラグビーW杯8強入りに貢献した姫野和樹。日本を代表する選手に成長できたのは、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(現:トヨタヴェルブリッツ)の若き主将として、重責を担った試合の敗戦にあったようだ。
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- アスリートの分岐点! vol.20
KAZUKI HIMENO
TURNING POINT
2018年9月1日
ジャパンラグビートップリーグ
VS サントリーサンゴリアス
ラグビーへの熱い思い!
ラグビー王国ニュージーランドのハイランダーズへの期限付き移籍という挑戦。そこから、トヨタヴェルブリッツに1年ぶりの復帰を果たした姫野和樹。入団初年度から主将を務め、日本代表の若きキーマンにまで成長。その姫野が、ラグビー人生の分岐点として語るのは2018-2019年シーズンの開幕戦。入団2年めの姫野率いるチームは、前年度優勝のサントリーサンゴリアスをホームスタジアムに迎えて対戦。試合は、前半をトヨタ自動車ヴェルブリッツの2点リードで折り返した。しかし、後半最後のプレイでサントリーにペナルティトライを決められ逆転負けした。
「主将という大役を任されて2年めの開幕戦ということで、並々ならぬ思いで試合に臨みました。1年めより自分を成長させることにフォーカスしていたのですが2点差で負けてしまい、しかも、終盤の重要な局面で自分が犯したペナルティによって退場を余儀なくされてしまった。その時間帯はまだ勝っている状況だったのですが、僕が退場したことで数的不利が生まれ、最終的に勝ち越しのトライを決められてしまいました。自分の成長を確かめる試合だったにも関わらず、自分のミスによってチームを負ける状況に陥れてしまった。あのときの悔しさは、それまで体験したことがないものでした」
かつてないほど感じた悔しさは、気づきを得るきっかけにもなったという。
「試合後は本当に悔しくて、大号泣してしまいました。人生において泣くということがほとんどなかった自分が、過呼吸になりそうなくらいでしたから(笑)。チームメイトの前でも、泣きながらスピーチをしてしまって。でも、強烈な悔しさを感じたことで、逆に自分の中のラグビーへの情熱がさらに高まりました。試合には負けてしまったけれど、こんなに熱くなれるラグビーというスポーツってやっぱり素晴らしいなって。楽しいと感じる気持ちを再確認できたんです。好きという気持ちは、エネルギーに変わるものでもありますからね」
同時に、主将としての気づきもあった。
「自分たちがやっている練習が、達するべきスタンダードに達していませんでした。練習をやっている自分たちに満足してしまっていたんです。優勝するためのスタンダードを、もう一度明確にするため、各ポジションのリーダー陣と話し合いました。たとえば、今まではミスで落ちてしまったボールに対して飛び込んで守るということをしなかったけれど、そこをやろうといったこと。ミスをミスで終わらせない。非常に細かいところですが、やっていなかったことをやることでプラスに転じる部分があります。実際、練習のレベルが高くなり、試合での結果も出せるようになっていきました。レベルの高い選手が集まっている中で、勝負を分けるのはそういった小さな部分をするかしないかの微差なのだと僕は思います」
22歳という若さでキャプテンを任されれ、重圧を成長のエネルギーに変えてきた姫野。ニュージーランドとオーストラリアによる最高峰リーグ、スーパーラグビーへの挑戦も、自分自身にプレッシャーを課すためのものだったという。
「誰も自分を知らない海外で生活し、レベルの高い試合を毎週末行う環境に身を置きたかった。そういった経験から最も成長を感じるのは、メンタルの部分。実は、現地でメンタルがやられてしまった時期があるんです。自分が結果を出さないと今後、日本人選手はニュージーランドに行けなくなる。そんな強い気持ちで挑み続け、スーパーラグビー終了時には新人賞をいただきました。そのとき、ある程度の結果を残した安堵感からか、日本代表の試合も辞退したくなるほど気持ちが落ちてしまった。でも、その本当に酷い状態から、結果ではなく自分のラグビーを楽しむことにフォーカスしました。マインドを置き換えることで、またラグビーを楽しいと思えるようになったんです。落ちた自分をコントロールできたというこの経験は、強い自信になりました」
ラグビー人生において壁にぶつかることは、全く恐れていないという。
「常に一流であれ。中学時代の先生に教えていただいたこの言葉が大好きで、常に自分の軸にしています。ここでいう一流とは、失敗しても立ち上がり、どうしたら次は成功するかを考えること。何度転んでも起き上がり、これを続けてきたからこそ、今の自分がある。むしろ失敗するくらいじゃなければ、ラグビー選手としての成長はない。そう思っています」
ラグビー選手
姫野和樹
KAZUKI HIMENO
1994年、愛知県生まれ。帝京大学で大学選手権8連覇。2017年トヨタ自動車ヴェルブリッツ加入。2019年、日本代表選出。2021年、スーパーラグビーのハイランダーズに期限付き移籍。2022年、国内新リーグ開幕のため、トヨタヴェルブリッツに復帰。
TAMURA'S NEW WORK[富山グラウジーズ ドワイト・ラモス]
「ラモス選手は、シューティングガードとして試合を作る役割を担う一方、得点力も高い選手。両方の持ち味が伝わるよう、鋭いドリブルで切り込む姿とシュートシーンを重ねて描きました。ドリブルを支える強靭な脚は、こだわりを持って描いた見どころです」
日本と世界を繋ぐ選手を描いた
今にもドリブルをはじめそうな、躍動感にあふれたイラスト。モデルは富山グラウジーズのドワイト・ラモス選手だ。
「ラモス選手は、アメリカ育ちでフィリピン代表としても活躍する若手の有望株。富山グラウジーズの核となる選手です。チームのビジュアルを手掛ける仕事の依頼をいただき、その第1弾として、オフィシャルグッズなども製作することを念頭に、ラモス選手を描かせていただきました」
アーティストとしてのスタンスと、ラモス選手の存在に共通点を感じたという。
「ラモス選手は、フィリピンと日本のバスケを繋ぐ役割を担う選手でもあります。一方で、僕自身もアートを通して国境や文化、ジャンルといった様々なボーダーを超え、ひとつにできる存在になりたいという夢があります。今回ラモス選手を描いた作品を通し、そういった垣根を超える存在としての輝きが少しでも伝わってほしい。そんな思いを込めました」
アーティスト
田村 大
DAI TAMURA
1983年、東京都生まれ。2016年にアリゾナで開催された似顔絵の世界大会、ISCAカリカチュア世界大会で総合優勝。アスリートを描いた作品がSNSで注目を集め、現在のフォロワーは20万人以上。その中にはNBA選手も名を連ねる。海外での圧倒的な知名度を誇る。Instagram : @dai.tamura
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illustration : Dai Tamura text : Takumi Endo photo by AFLO