ハリウッドを代表する2大重鎮といえば、ロバート・デ・ニーロとこの人、アル・パチーノ。1972年『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネ役に抜擢されて、大ブレイク。そのギラついた、エネルギッシュな演技は圧巻。81歳となった今でも精力的に活動していて、2022年1月に公開される『ハウス・オブ・グッチ』でも印象に残る役を演じている。そんなアル・パチーノの出演作から5本を厳選セレクト!
『セルピコ』
製作年/1973年 原作/ピーター・マーズ 監督/シドニー・ルメット 脚本/ウォルド・ソルト、ノーマン・ウェクスラー 共演/ジョン・ランドルフ、ジャック・キーホー、ビフ・マクガイア
孤高の警官を熱演!
主人公セルピコは、犯罪を取り締まり、市民を守る夢を抱いてNYの警官になったイタリア系移民の息子。配属された警察署は汚職が横行していた。賄賂を受け取ることを拒否し、同僚たちから堅物と疎まれ、セルピコは転属を願い出るが、新たな勤務地も収賄に染まり切っており、次の転属先も状況は変わらない。いらだつ彼は、警視総監や市長にまで訴えようとするが、上からの動きは鈍かった。そんな彼に、やがて危険が迫る……。
『ゴッドファーザー』のスターとなったパチーノが、再び自身のルーツであるイタリア系の米国市民にふんした社会派劇。ここで演じるのは善良な警察官で、彼は法を遵守しようと奮闘するも、腐ったシステムの犠牲となっていく。顔つきがどんどんギラギラしてくるパチーノの姿は、不条理への怒りを如実に伝える。監督のシドニー・ルメットとは後に『狼たちの午後』でも組み、パチーノはここでもギラついた存在感を発揮。
『スカーフェイス』
製作年/1983年 監督/ブライアン・デ・パルマ 脚本/オリバーストーン 共演/ミシェル・ファイファー、F・マーレイ・エイブラハム、スティーブン・バウアー
狂犬のような姿に衝撃!
1980年、政治犯としてキューバを追われ、アメリカへやってきた青年トニー。米国市民として認められず、難民として生きることになった彼は、マイアミの裏社会に身を置き、持ち前の度胸のよさでのし上がっていく。ボリビアの麻薬王との取引をまとめ、マイアミに戻ってボスを抹殺。トニーはマイアミの暗黒街の頂点を極める。しかし、コカインに溺れていく彼に、破滅はヒタヒタと迫っていた……。
1980年代のパチーノの代表作を挙げるならば、文句なしにコレ。1932年の犯罪映画の古典『暗黒街の顔役』をベースにして、異国アメリカで成り上がったギャングの成功と破滅を描く。パチーノが演じた主人公トニーは、とにかくエネルギッシュで、よく喋るし、よく暴れる。敵とみなした相手への攻撃にためらいがない、やりたいことをやりまくる狂犬のような姿は強烈。監督のブライアン・デ・パルマとは、この後、ギャング映画『カリートの道』でも組んでいる。
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』
製作年/1992年 製作・監督/マーティン・ブレスト 脚本/ボー・ゴールドマン 共演/クリス・オドネル、ジェームズ・レブホーン、ガブリエル・アンフォー、フィリップ・シーモア・ホフマン
盲目の役で、ついにオスカーを獲得!
全寮制の名門ハイスクールに入学した苦学生チャーリーは、帰省の旅費を稼ぐために、盲目の退役軍人の世話を引き受ける。ところが、この軍人フランクは、とんでもないヒネクレ者で、無遠慮に悪態を突き、周囲から疎まれていた。金のために辛抱強く彼につきあうチャーリーは、しだいにフランクの孤独を知り、理解を深めて信頼関係を築いていく。やがてチャーリーが放校の瀬戸際に追い込まれたとき、フランクが行動を起こし……。
7度めのアカデミー賞ノミネートにして、ついに受賞を果たしたパチーノの代表作のひとつ。彼が演じるフランクは身体的なハンデを負った頑固者で、周囲の誰にも心を開こうとしないが、赤の他人である欲のない高校生のひたむきさにふれ、一度は諦めた人生を再び歩もうとする。パチーノは盲目を表現するうえで、瞳をまったく動かさない難行に挑戦。それとともに華麗なダンスを披露しているが、これは本作を象徴するロマンチックなシーンとなった。
『エニイ・ギブン・サンデー』
製作年/1999年 原案/ジョン・ローガン、ダニエル・パイン 監督・脚本/オリバーストーン 共演/キャメロン・ディアス、デニス・クエイド、ジェームズ・ウッズ、ジェイミー・フォックス
激アツな説教シーンに感動!
マイアミを本拠にするプロ・アメフトチーム、シャークス。シーズンの不振が続き、ヘッドコーチのトニーも悩みが尽きない。そんなチームの救世主となったのが、怪我で欠場したベテラン選手に代わりクォーターバックを務めた無名の若手選手ウィリー。その活躍により、チームは息を吹き返したかに見えたが、ウィリーが天狗になってしまったことで、チームの輪が乱れだす。プレーオフ進出を懸けた大事な試合の前に、トニーは何を訴えるのか!?
パチーノの出演作は多くに大演説シーンがあるが、本作のクライマックス前のシーンほどアツい説教があるだろうか? とにかく、このスポ根ドラマではヒロイン、キャメロン・ディアスを含めて誰もが声を張り上げ、自分の主張をアピールする。そのさまは肉食獣の咆哮のよう。パチーノふんするトニーは、年下の彼らを説き伏せるだけの人生経験を積んできた。彼の3分の長いセリフだけで、見る価値あり。監督のオリバー・ストーンは、『スカーフェイス』の脚本家でもある。
『アイリッシュマン』
製作年/2019年 原作/チャールズ・ブラント 製作・監督/マーティン・スコセッシ 脚本/スティーブン・ザイリアン 共演/ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、レイ・ロマノ
オトコの悲哀を見事に演じた!
1950年代、しがないトラック運転手フランクはマフィアの仕事を引き受けたことで手柄を立て、全米トラック運転手協会の委員長ジミー・ホッファを紹介される。ホッファはマフィアと通じてはいたが、信じた相手を家族のように扱い、同業者の間で熱烈な支持を受けていた。フランクもそんな彼のカリスマ性に心を動かされるが、ホッファが逮捕されたことで状況が変わっていく。出所したホッファと、マフィアの狭間に立たされ、フランクがとった行動は!?
鬼才マーティン・スコセッシによる実録ドラマ。パチーノは実在したホッファを演じ、『ゴッドファーザーPART2』『ヒート』に続いて、盟友ロバート・デ・ニーロと共演。彼扮するフランクとの葛藤は、本作の大きな見どころ。実在したホッファの死の真相は明らかになっていないが、本作で描かれるパチーノの熱演を見ると、これが正しいのでは……と思えてくる。この後、パチーノは同じく実録モノの新作『ハウス・オブ・グッチ』にも出演するが、ここでもファミリーをまとめきれなかった男の悲哀を体現。
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