ぶるぶるとスリルに震えるGWはいかが!?
ネットフリックス『ザ・サーペント』が超怖い!
英BBCとNetflixの共同制作ドラマといえば、『コラテラル 真実の行方』『Giri/Haji』『ドラキュラ伯爵』など秀作率高し。そんな見応えたっぷりの作品群に、またひとつ注目すべき1作が加わった。
今年1月にBBC Oneでオンエアされ、4月からネットフリックスでの世界配信が始まった『ザ・サーペント』は、1970年代半ばに東南アジアやインドを震撼させた実在の連続殺人犯シャルル・ソブラジの物語。親切な宝石商を装って若い欧米人旅行者たちに近づき、詐欺と殺人を繰り返したソブラジの凶行と、事件の解決に人生を捧げた男の攻防が全8話の中で展開していく。
ソブラジは宝石商を名乗り、様々な人間を巧妙に騙していく。ターゲットにしたのは、東南アジアのヒッピー・トレイルを訪れた白人の若い旅行者たちだ
実話に着想を得た物語であることを冷淡に示すかのように、第1話の冒頭に登場するのは、何件もの殺人を犯してなお自由を得ているらしき事件後のソブラジ。「えっ。凶悪な殺人犯に制裁が下ってめでたし…ではないの?」という不安を容赦なく投下するストーリー構成が、かなり意地悪だ。やはりこちらも実在の殺人鬼“切り裂きジャック”を話の入り口にし、ミステリードラマとして高い評価を得た『リッパー・ストリート』の脚本家リチャード・ワーロウが、リアリティとドラマ性を交錯させながら手腕を振るう。
オランダの外交官クニッペンバーグは、自らの仕事の範疇を超えながらも、果敢に事件を追いかけていく
さらに、交錯するのはリアリティとドラマ性だけでなく、物語の時間軸も。ソブラジとその恋人らが犯罪に手を染める過程をシビアに描きながら、彼らを追うことになる外交官ヘルマン・クニッペンバーグの奮闘にも目が向けられていく。バンコクのオランダ大使館で働く中、ソブラジが殺したオランダ人カップルの事件を知り、現地警察に頼れない状況に翻弄されながら独断で動くヘルマンのストーリーは犯罪捜査ドラマらしいスリルと苦みが伴うもの。ソブラジらによる“事件時”とヘルマンらによる“捜査時”の間隔が、話が進むにつれ、ヘルマンがソブラジに近づくにつれ、徐々に狭まっていく感覚にもドキドキさせられる。
観光地に連れて行き、そこで毒物入りのお茶を飲ませるのがソブラジの手口
また、未知の体験に胸を躍らせる旅行者たちを魅了するほどチャーミングでありながら、残忍な素顔を隠そうともしないソブラジは、主人公ではあるものの完全な悪役。製作陣は現在も存命の事件関係者にかなり配慮しているようで、ソブラジを絶対的なカリスマにすることはせず、若者たちを残忍に殺めた、角度によっては魅力が見える男として創造している。
上司に疎まれながらも調査を止めないヘルマン。その執念にひかれるように、協力者が次々と現れる
そんなソブラジの“分からなさ”を、ジャック・オディアール監督の『預言者』でセザール賞主演男優賞を受賞し、黒沢清監督の『ダゲレオタイプの女』などにも出演する国際派俳優タハール・ラヒムが巧演。一方、決して器用ではなく、没頭し過ぎるきらいもあるが、正義を全うしようと渾身の調査を進めるヘルマンを『追想』や『マザー・ファーザー・サン』などの英国人俳優ビリー・ハウルが演じ、視聴者の道標となってくれる。
ソブラジは被害者からパスポートを奪い、その人物になりきることで捜査の手から逃れている。常に冷静で冷酷な知能犯だ
加えて目を奪われるのは、70年代を丹念に再現した作品世界。コロナ禍に前後して行われた撮影の拠点は、事件の舞台ともなったバンコク。現地での撮影がかなわなかったパートは、イギリスのハートフォードシャーで撮られた。登場人物たちのファッションも含め、香りまで漂ってくるような当時の雰囲気が見事。と同時に、実話の恐ろしさを加速させるのにも一役買っている。
『ザ・サーペント』
監督/トム・シャンクランド、ハンス・ヘルボッツ 脚本/リチャード・ワーロウ、トビー・フィンリー 出演/タハール・ラヒム、ジェナ・コールマン、ビリー・ハウル、エリー・バンバー、アメシュ・エディレウィーラ、ティム・マキナニー 配信/ネットフリックス/1シーズン全8話(1話56〜59分)
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『ノーカントリー』
製作年/2007年 製作・監督・脚本/ジョエル&イーサン・コーエン 出演/ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン
危機また危機の状況に引き込まれる!
舞台はアメリカ、テキサス州の国境近くの町。狩りの最中に、麻薬取引現場での惨殺事件に遭遇した男が、そこに残されていた大金を持ち逃げした。その頃、麻薬組織に雇われた不気味な殺し屋が、大金持ち逃げ犯を追跡。
男は妻を匿おうとする一方で、国境を越えてメキシコへ逃亡する。その頃、彼の妻から通報を受けた老保安官が事件を追っていた。果たして、彼らにどんな運命が待っているのか!?
米アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を制した名匠ジョエル&イーサン・コーエンの力作。普通に生きてきた男が欲を出したばかりに、巻き込まれていく危機また危機の状況は、さまざまな人々の思惑に揺さぶられ、どんどん緊張感を増していく。
とりわけ、ハヴィエル・バルデム扮する暗殺者のサイコパスというべき存在感は圧倒的で、ヘンな髪型で、ニコリともしない冷たい無表情が鮮烈な印象をあたえる。同じコーエン兄弟の監督作『ブラッドシンプル』『ファーゴ』と見比べるのも一興。
『激突!』
製作年/1971年 原作・脚本/リチャード・マシスン 監督/スティーヴン・スピルバーグ 出演/デニス・ウィーバー、キャリー・ロフティン
究極のあおり運転に恐怖する!
妻との約束がありハイウェイを、急いでクルマを走らせていた男。目の前のタンクローリーを追い抜いたことが、彼の悪夢のはじまりだった。追い抜き返してきたタンクローリーの運転手は執拗に嫌がらせを仕かけ、追突のみならず、踏切に彼のクルマを押し込めようとしてくる。このままでは命が危ないーーそう悟ったとき、男は捨て身の行動に出る……。
ハリウッドを代表するヒットメーカーにして2度のアカデミー賞に輝くスティーヴン・スピルバーグの、記念すべきデビュー作。本作のヴィランは、何よりも真っ黒なタンクローリーだ。巨体もさることながら、運転手の顔をあえて映さず、その不気味さを強調。
まるで生命を持った個体のごとく襲いかかり、追突してくるのだから、あおり運転レベルを超えてゾッとさせられる。ハイウェイやガソリンスタンドで追いつ追われつする、それだけの話を一級のスリラーに仕立て上げたスピルバーグの手腕に注目!
『ドント・ブリーズ』
製作年/2016年 製作/サム・ライミ 監督・脚本/フェデ・アルバレス 出演/ジェーン・レヴィ、スティーヴン・ラング
襲った相手が最凶の元軍人だった!
貧しさの中で、盗品売買で金を稼いでいる若者3人組。苦しい生活から抜け出すため、彼らは、保険金を受け取ったばかりの退役軍人から大金を盗もうと画策する。老いたこの軍人は目が不自由で、泥棒計画は簡単に遂行できると思われた。
だが、彼は目が不自由な分、聴覚は異様に敏感で、しかも戦闘の達人だった! 屋内に閉じ込められた3人は呼吸音さえも聞き取られかねない危険の中、過酷なサバイバルを強いられる……。
『死霊のはらわた』のサム・ライミ監督が製作を手がけ、スマッシュヒットを飛ばした緊迫のスリラー。暗闇でじっと息を潜めて生存に懸ける、3人組が置かれたシチュエーションはタイトルが表わすとおり息苦しさ満点。
とにかく、襲った相手が悪かった。ヴィランの退役軍人は戦闘能力だけでなく狂気をも内に秘めており、後半になると、とんでもない行動を起こす。どんな行動かは見てのお楽しみ。衝撃のクライマックスに震えてほしい。
『グレタ GRETA』
製作年/2018年 製作総指揮・監督/ニール・ジョーダン 原案・脚本/レイ・ライト 出演/イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー
バッグを拾っただけなのに……
NYのレストランで働く若い女性フランシスは母との死別の悲しみを引きずっていた。そんなある日、地下鉄で忘れ物のバッグを届けようとした彼女は、持ち主の初老女性グレタと知り合う。彼女に母の面影を重ね、親しみを覚えるフランシス。
ところが、グレタは次第に支配欲をむき出しにして、彼女を付け回すようになる。恐怖を感じたフランシスは拒絶して逃げようとするが、すでにグレタの罠は張り巡らされていた……。
『クライング・ゲーム』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のニール・ジョーダン監督が仕かけるサイコスリラー。疑似親子愛を利用する悪女グレタは、はっきり言ってストーカーなのだが、タチが悪いのは若い女性を自分の理想の“娘”にするために監禁・調教していること。
隠し部屋に閉じ込められたら最後、絶望が待つのみ……なのだ。恐怖に直面するフランシスを演じたクロエ・グレース・モレッツの熱演はもちろん、グレタにふんする大女優イザベル・ユペールの怪演も怖い!
『サクラメント 死の楽園』
製作年/2013年 製作/イーライ・ロス 製作総指揮・監督・脚本/タイ・ウェスト 出演/AJ・ボーウェン、ジョー・スワンバーグ
集団催眠が引き起こす戦慄!
新興宗教にはまった妹を救うため、ひとりの男が撮影クルーを連れて、異国のコミュニティに飛ぶ。そこでは“お父様”と呼ばれる教祖の下、信者たちが幸福に暮らしている……ように見えた。
だが、信者のひとりから“助けて”と書かれたメモを受け取ったことで、コミュニティの邪悪な側面が見えて切る。脅迫、性的虐待、そして自殺の教唆。クルーは一刻も早く、この偽りの楽園から逃げようとするが、武装兵団を抱える教団は、それを許そうとはしなかった……。
『ホステル』のイーライ・ロス監督が脚本とプロデュースを手がけた、疑似ドキュメンタリー風の怪作。1978年にガイアナで起こったカルト教団の集団自殺事件をモチーフにして、背筋も凍る物語を展開させる。
完全に洗脳された信者たちの信じ切った笑顔も、教団の欺瞞に気づいてしまったものの逃げ出せない信者の苦境も、ひたすら恐ろしい。それはクライマックスの集団自殺&虐殺でピークへ。集団催眠が引き起こす戦慄を、是非体感してほしい。
photo by AFLO