今年のゴールデングローブ賞を制する作品とは!?
例年、年明けの時期のハリウッドは、賞レースの話題でもちきりになる。さまざまな賞が立て続けに発表され、アカデミー賞への予想につながるからだ。しかし今年、2021年は新型コロナウイルスの影響で、アカデミー賞授賞式も4月25日(現地時間)に延期。昨年は2月9日だったことを考えると(だいたい2月末〜3月頭が多かったので昨年も異例)、ずいぶん時期がズレたことを実感する。その昨年は、『パラサイト 半地下の家族』の作品賞受賞という快挙で大きな話題になった。
アカデミー賞の行方を占う前哨戦
アカデミー賞の結果に大きな影響を与える、いわゆる“前哨戦”の中で最も注目されるのが、ゴールデングローブ賞。こちらも例年なら、1月頭に授賞式が行われるのだが、アカデミー賞の延期に伴って、2月28日に変更された。そのノミネートが、2月3日に発表される。賞レース関連のニュースがまだ少ない2021年だが、ゴールデングローブ賞のノミネート発表をきっかけに、盛り上がりを見せはじめるだろう。
そもそもゴールデングローブ賞とは何か? アカデミー賞が映画業界人のアカデミー会員の投票で決まるのに対し、こちらを決めるのは、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)。つまり、投票者がまったくかぶらない。HFPAの会員数は現在87人といわれ、ロサンゼルス地区に住む“外国人”の“映画記者”と、かなり限定的(日本人会員は3人)。
昨年のゴールデングローブ賞授賞式の様子
それにもかかわらず、アカデミー賞に向けた最大の前哨戦に位置づけられるのは、今年で78回という長い歴史があるうえ、多くのトップスターが授賞式に出席。彼らがテーブルで食事をしながら発表を待つゴージャスな映像が全米に生中継される。しかもその授賞式がちょうどアカデミー賞のノミネート投票期間に行われることが多く、大きな影響を与えるのである。
ちなみに昨年の『パラサイト〜』は、ゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞。ただ、ゴールデングローブ賞の場合、映画の作品賞を『ドラマ部門』『ミュージカル/コメディ部門』『外国語映画部門』と3つに分けている。『パラサイト〜』も便宜上は作品賞扱いではあった。
『パラサイト 半地下の家族』はゴールデングローブ賞の受賞で勢いがつき、アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を獲得。旋風を巻き起こした
主演男・女優賞も『ドラマ部門』『ミュージカル/コメディ部門』で、それぞれ受賞者がいて、昨年のドラマ部門の受賞者であるホアキン・フェニックスとレネー・ゼルウィガーが、そのままアカデミー賞でも受賞。助演賞(こちらは部門なし)もブラッド・ピット、ローラ・ダーンがアカデミー賞と同じ結果となり、やはりゴールデングローブ賞は超重要な賞なのである。
ブラッド・ピットが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で助演男優賞を獲得し、話題となった
では今年、ゴールデングローブ賞で最も注目される作品は何か? 賞の対象となる2020年〜2021年初旬は、新型コロナウイルスの影響で劇場公開作、とくにメジャースタジオの大作が激減。その分を埋めたのが配信作品で、とくにネットフリックスは賞レースに加わりそうな傑作を次々と送り出した。一昨年は『ROMA/ローマ』、昨年は『アイリッシュマン』『マリッジ・ストーリー』『2人のローマ教皇』『ルディ・レイ・ムーア』が、作品賞など主要賞にノミネートされたネットフリックス。今年も『Mank/マンク』『シカゴ7裁判』『ザ・ファイブ・ブラッズ』『マ・レイニーのブラックボトム』『ザ・プロム』など大挙して賞に絡みそうな気配だ。
ライアン・マーフィーがメガホンを取り、メリル・ストリープ、ニコール・キッドマンらが出演した『ザ・プロム』。圧巻のミュージカルシーンと、多様性をテーマにした内容でヒットを飛ばしている
しかしそんなネットフリックス作品を返り討ちしそうな勢いの作品が『ノマドランド』。アメリカの地方で車上生活を送る人々を描き、テーマ的にも賞レースにぴったりのこの映画は、ヴェネチアやトロントの有力映画祭で最高賞を獲得し、全米各地の批評家協会賞でも受賞を重ねる、文字どおりのトップランナー。監督のクロエ・ジャオが、中国系の女性をいう点も“多様性”意識のハリウッドに歓迎され、フランシス・マクドーマンドも主演女優賞の最有力候補だ。
3月26日に劇場公開予定の『ノマドランド』(配給/ディズニー)。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』が原作。写真左が、クロエ・ジャオ監督
その多様性という意味で、韓国系アメリカ人の一家を描いた『ミナリ』も有力候補作。監督も韓国系。ただこの作品、アメリカ映画ながら、セリフのほとんどが韓国語のために、ゴールデングローブ賞では外国語映画部門にカテゴライズされてしまった。この対応が“時代遅れ”と批判されたりもして、逆に『ミナリ』への注目度が上がっている。
『ミナリ』は、祖母役を演じた韓国人女優のユン・ヨジョンが助演女優賞受賞の可能性もありそうで、主演のスティーヴン・ユァン(「ウォーキング・デッド」)が主演男優賞ノミネート有力。その主演男優賞は今年の注目部門で、昨年急死した『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンが、遺作の『マ・レイニーのブラックボトム』でノミネート確実。
『ミナリ』(配給/ギャガ)は、農業の成功を夢見て韓国からアメリカのアーカンソー州にやってきた一家の物語。3月19日より劇場公開予定
認知症の主人公をキャリア最高の演技でみせた『ファーザー』のアンソニー・ホプキンス、『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』のリズ・アーメッドらとハイレベルな争いになりそう。チャドウィックは『ザ・ファイブ・ブラッズ』で助演男優賞ノミネートもささやかれている。故人としては異例なケースだ。
アンソニー・ホプキンスと2016年の『ナイトマネージャー』でゴールデングローブ賞助演女優賞を獲得したオリビア・コールマン共演の『ファーザー』(配給/ショウゲート)。5月に劇場公開予定
そのほか、コロナ禍の中、メジャースタジオの作品として勇敢にも劇場公開に踏み切った『TENET テネット』がどこまでゴールデングローブ賞で歓迎されるか気になるし、アニメ映画賞部門では『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』『ルパン三世 THE FIRST』といった日本作品のノミネートの可能性は、難しそうだがゼロではない。さらにゴールデングローブ賞は映画だけでなく、テレビドラマ部門もあり、配信のシリーズ作品も対象になるので、『クイーンズ・ギャンビット』など、ここでもネットフリックスの話題作の行方に注目したい。2月3日(現地時間)のノミネート発表をお楽しみに!
photo by AFLO