『炎のランナー』
製作年/1981年 監督/ヒュー・ハドソン 脚本/コリン・ウェランド 出演/ベン・クロス、イアン・チャールソン、ナイジェル・ヘイバース、ニコラス・ファレル
1924年のパリ大会を描く!
2024年の夏を盛り上げるパリオリンピック。パリでの夏季オリンピックは、じつに100年ぶり……ということで前回、1924年の大会が描かれるが、この『炎のランナー』だ。アカデミー賞では作品賞など4部門に輝いた名作で、オリンピックを描いた作品の中でも特に人気が高い。イギリスのケンブリッジ大学で、陸上の才能を伸ばすユダヤ人のハロルド。そしてスコットランド人の牧師の息子で、“神のために走る”と心に誓うエリック。ライバルとして切磋琢磨しながら、パリオリンピックでハロルドは100mと200m、エリックは400mの代表に選ばれ、人生を懸けてトラックに立つ。スポーツ映画としての感動に、当時のイギリスの伝統を絡め、重厚な見ごたえを持った一作。
本作を象徴するのが、オープニングの海岸シーン。裸足で走る学生たちに、あの有名なヴァンゲリスの音楽が重なり、崇高でダイナミックな映像が完成された。映画史に残ると言ってもいいこのシーンは、その後、多くの作品で引用され、2012年のロンドン・オリンピックの開会式ではMr.ビーンも参加して再現された。同シーンで学生たちが着ているのが、王室御用達のブランド、ジョンスメドレーのシャツだったりと、全編にわたって英国ファッションも見どころ。ハードルの上に置いたシャンパングラスを倒さない練習など、100年前の陸上競技、およびオリンピックの舞台裏は改めて必見だ。
『フォックスキャッチャー』
製作年/2014年 監督/ベネット・ミラー 脚本/E・マックス・フライ、ダン・ファターマン 出演/スティーヴン・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ
前代未聞の事件を映画化!
アメリカの雑誌“New York”のエンタテインメント・サイトによる、オリンピックをテーマにした映画ランキングで、堂々の1位となったのが本作。オリンピックといえば世界が注目す「る華やかな舞台だが、出場する選手たちがすべて恵まれた環境で練習を積んでいるわけではない。そんな事実をポイントにした衝撃の実話の映画化。1984年のロサンゼルスオリンピックのレスリングで金メダルを獲得したマークが、次のソウル大会を目指すため、アメリカを代表する財閥、デュポン家の御曹司ジョンが作ったレスリング・チームに加入することになる。
オリンピックの金メダリストと、その“パトロン”の関係が、やがて殺人に発展するという前代未聞の事件。レスリングの大ファンだったジョン・デュポンが、金に物を言わせて最先端のトレーニング設備を作るも、練習にまで口を出し、コーチとして呼ばれたマークの兄で、やはり金メダリストのデイヴと対立するプロセスがスリリング。ジョン役のスティーヴ・カレル、デイヴ役のマーク・ラファロは本作でアカデミー賞にノミネートされ、筋肉隆々のボディでマーク役に挑み、レスリングの動きも完璧にこなすチャニング・テイタムも含め、俳優たちの熱演にも圧倒されまくる。
『ミュンヘン』
製作年/2005年 製作・監督/スティーヴン・スピルバーグ 脚本/トニー・クシュナー、エリック・ロス 出演/エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ、マチュー・カソビッツ
ミュンヘン大会で起きた悲劇
“平和の祭典”であるオリンピック。その長い歴史の中でも、最悪の事態が起こったのが、1972年のミュンヘン大会だった。8月26日にオリンピックが開幕し、その10日後の9月5日、パレスチナの過激派組織のメンバー8人が、選手村のイスラエル宿舎に侵入。選手2人を殺害し、9人を人質に立てこもった。犯行グループはイスラエルに囚われたパレスチナ人テロリストの解放を要求。犯人たちは人質とともにミュンヘン空港へ向かうも、そこでの警察との銃撃戦で人質が全員死亡するという最悪の結末を迎えた。事件が起こった後も一部で競技が続けられるなど、オリンピック側も大混乱。世界中がその行方を見守ったこの事件を、スティーヴン・スピルバーグが映画化した。
実際に事件の犠牲者となったイスラエルのレスリングコーチ役を、彼の実の息子が演じるなどリアリティを重視。スピルバーグらしく、アクション場面の生々しさ、迫力はハイレベルだ。この作品はさらに、オリンピックの事件の後、イスラエル側の組織“モサド(諜報特務庁)”によるパレスチナへの報復もたっぷり描いている。ユダヤ人のスピルバーグが、本作ではイスラエル、パレスチナの両方をかなり客観的に見つめた印象。オリンピックが惨劇の場となる悲劇はかなりショッキングだし、今もまったく解決の糸口が見えないパレスチナとイスラエルの問題に、改めて胸が痛む……。
『Untold: ケイトリン・ジェンナーの金メダル』
製作年/2021年 製作総指揮/チャップマン・ウェイ、マクレーン・ウェイ 出演/ケイトリン・ジェンナー
波乱に富んだ人生に驚愕!
オリンピックに関しては劇映画だけでなく、多くの傑作ドキュメンタリーも生まれている。その中でも強烈なインパクトを残すのが、この作品。一人の金メダリストの人生を描いているが、アスリートとしてだけではなく、自分のアイデンティティーと闘ってきた姿に最後まで驚かされる。陸上の“走る”、“跳ぶ”、“投げる”をすべて行うことで“キング・オブ・アスリート”と呼ばれる十種競技。1976年、モントリオールオリンピックで同種目の金メダルに輝いたのが、アメリカ代表のブルース・ジェンナーだった。しかし現在、ブルースはケイトリンと改名。女性としてカリフォルニア州知事を目指すなど政治家としても活躍している。
子供時代から自身のジェンダーに違和感を抱いていたブルースは、アメリカンフットボールから陸上競技に転向し、類まれな能力を開花させる。「金メダルを取れたら、自分の心の問題なんて存在しないという証明になる」と信じ、モントリオールオリンピックで死闘ともいえる2日間の競技を制するまでのプロセスは劇的。競技生活に加え、3度もの結婚・離婚、トランスジェンダーとして生きる決意など、あまりにも波乱に富んだ人生に目を疑うばかり。近年、オリンピックで問題になっているトランスジェンダーについてもいろいろ考えさせる意味で、“旬”な作品なのは間違いない。
『クール・ランニング』
製作年/1993年 監督/ジョン・タートルトーブ 出演/マリク・ヨバ、ジョン・キャンディ、ダグ・E・ダグ、レオン
実話を基にしたエンタメ映画!
オリンピックを描いた映画は全体にシリアスなもの、感動系が目立つ。その名で異彩を放つのが、公開当時、日本を含めて世界中で話題になった本作。ウィンタースポーツとは無縁のカリブ海の国、ジャマイカが、冬季オリンピックのボブスレーに出場するという特大サプライズは、映画にとって最高の題材となった。基本は実話ながら、他の多くのオリンピック映画とは違って、フィクション部分をたっぷり入れ込んだことで、エンタメとして楽しめるのもポイント。
1988年のソウルオリンピックに陸上100mで出場を目指したデリースが、選考会のアクシデントで落選。たまたま地元にボブスレーの元金メダリストのアメリカ人がいたことから、デリースは仲間を集め、同年のカルガリー冬季オリンピックにボブスレーで出場しようと練習に励む(当時は夏・冬のオリンピックが同じ年に開催されていた)。ボブスレー未経験のデリースらが、草原で滑ったり、冷蔵庫で寒さに身体を慣らしたりする姿に素直に爆笑。ジャマイカらしいレゲエ音楽に乗った彼らの奮闘は、とことん微笑ましい。オリンピック現地では白い目で見られながらも、レース本番の盛り上がりは異様なテンションだ。元メダリストのコーチを演じたのは、ハリウッドを代表するコメディ俳優のジョン・キャンディだが、本作公開の翌年に43歳で急死。その名人芸も目に焼き付けてほしい。
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