Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2024.05.25

ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.27
『猿の惑星』が映画界に残したものとは?



全国の劇場で公開中の最新作『猿の惑星/キングダム』(2024年/監督:ウェス・ボール)を映画館で観てから、実に56年前のシリーズ原点、1968年の第1作『猿の惑星』(監督:フランクリン・J・シャフナー)を観直すと、VFX映像からほど遠い露骨なアナログぶりに最初は脱力してなごんでしまう。だが、ほのぼのしていられるのも束の間だ。ケネディ宇宙センターから旅立ったNASAならぬ“ANSA”の宇宙飛行士であるテイラー船長(チャールトン・ヘストン)率いるチームは、長い人工冬眠などを経て地球時間における3978年、とある惑星に到着する。しかし、この謎の新天地を支配していたのは、高度な知性を持った猿人たち(なぜか“英語”を喋る)。対して人間たちは言語も持たず原始的な状態のまま、猿人の奴隷や家畜として虐げられていた……といった恐ろしい物語が展開。第41回アカデミー賞名誉賞を受賞したジョン・チェンバースによる猿人の特殊メイクは簡素ながら今の目で観ても意外にクールで、容赦なき人間狩りのシーンはドキュメンタリーのような生々しさ。例えばイタリアの奇才、グァルティエロ・ヤコペッティ監督が世界各地の野蛮な風習を紹介した『世界残酷物語』(1962年)などに通じる禍々しさと言えるだろうか。やがて“映画本編を観たことのない人でも知っているラストシーン”として有名な、朽ち果てた自由の女神像の半身が海辺の砂浜から突き出している画に背筋が凍る――(撮影されたのはL.A.のズマビーチ・ポイントデュム)。やはりこれは人類への警句という永久的な射程のツメアトを刻んだ偉大なクラシックだ。
 

  

 


1960年代から擦られ続けている『猿の惑星』だが、もともとの第1作は『戦場にかける橋』(1957年/監督:デヴィッド・リーン)の原作でもよく知られるフランスの作家、ピエール・ブールが1963年に発表したSF小説をベースにしたもの。脚色を担当したのは、テレビシリーズ『トワイライト・ゾーン』(1959年~1964年)で原案・メイン脚本とホスト役を務めたロッド・サーリングたち。監督にはテレビ業界出身で、このあと『パットン大戦車軍団』(1970年)で第43回アカデミー賞作品賞・監督賞など7冠に輝くフランクリン・J・シャフナーが当たった。

そこから独自に展開・派生し、テレビシリーズも含めて相当な数の続編やフランチャイズが製作されているが、劇場映画に限ると現時点では計10本。オリジナルシリーズは計5本。そこにティム・バートン監督による番外編的なリ・イマジネーション版『PLANETS OF THE APES 猿の惑星』(2001年)を挟んで、第1作の起源を解き明かす前史を描いたリブート版が3本。まだ人間が地球に君臨していた時代――現代のサンフランシスコを舞台にした『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年/監督:ルパート・ワイアット)からはじまるこのトリロジーはいずれもレベルが高い。そのラストから300年後を描いたのが今回の新作『猿の惑星/キングダム』だ。時期としては1970年代までと、21世紀に入ってからに集中している。また粗製濫造というわけでもなく、シリーズの中に比較的佳作が多いのも特徴だ。例えば旧シリーズでも第4作『猿の惑星 征服』(1972年/監督:J・リー・トンプソン)は人間語を解する知的な猿のシーザー(過去の地球に亡命した考古学者コーネリアス博士と動物心理学者ジーラ博士の間に産まれた息子で、元々の名前はマイロ)を主人公とする物語の起源の革命を描いたもので、先述の『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』のベースとなった必見作である。

この長きに渡る成果もやはり、最初に土台として設計された風刺劇としての強度がとんでもなく高かったためだろう。そんな『猿の惑星』シリーズの物語構造を把握するに辺り、ざっくりつかんでおきたいのは次のポイントである。

●人間と猿の立場(権力関係・社会階層)が逆転。
●支配層になった猿だが、やはり人間と同じ愚かな道を辿っていく。

こうして猿と人間の戦争や分断が複雑化し、シャレにならない泥沼へと突き進んでいく中で、「異人種・異文化の平和な共存は可能なのか?」という3つめの重要な主題がせり上がってくる。この問題意識の根幹自体は、どのシリーズ/フランチャイズを通しても基本的に変わらない。
 

  

 


ちなみに以前、『猿の惑星』の猿人のモデルは日本人ではないか?という説が有力となっていた。というのも、原作者のピエール・ブールは第二次世界大戦中、ナチス・ドイツとの抗戦を訴える自由フランス軍のレジスタンスの一員として従軍し、日本軍の捕虜になっていた時期があったとされていたからだ。しかしこの経歴は誤りだとする説もある。もし本当であれば、ブール自身が体験した「白人とアジア人の逆転」が『猿の惑星』の物語に結実したわけで、むしろ今の時代のアジアンヘイト問題にぶっ刺さるものとして興味深い。

ただ『猿の惑星』が発表された当時はアフリカ系アメリカ人の公民権運動の沸騰期であり、白人と黒人の立場が逆転した風刺劇、つまり今で言うブラック・ライヴス・マターの問題系として解釈されることが多かった。また当時はヴェトナム戦争の渦中にあり、米兵へのヴェトコンの逆襲といった構図も投影できる。ともあれ現実社会の軋轢を寓話として抽象化したおかげで、あらゆる支配・差別構造に置き換え可能な普遍性を獲得したわけだ。そしてラストシーンは米ソ冷戦の成れの果てをイメージしたと言われており(つまり核戦争後の世界――ポストアポカリプスの情景だ)、全体としては争いばかりを繰り返す人類の歴史そのものへの刃を突きつけたわけだ。

『猿の惑星』という企画自体はハリウッドの伝統的な大作路線を踏襲したものだが、このお先真っ暗な結末といい、やはりアメリカン・ニューシネマの反体制的な時代の刻印を強く感じる。当然にも直接のフランチャイズ企画だけでなく、様々な後続のカルチャーへの影響も絶大である。例えば日本でも、ファッションブランドのア・ベイシング・エイプ(A BATHING APE)は、デザイナーのNIGOやスケートシングこと中村晋一郎が、テレビ放送で観た『猿の惑星』シリーズから着想を受けて立ち上げられたもの。またミュージシャンの小山田圭吾がソロユニット名として採用しているコーネリアスは、もちろん『猿の惑星』の重要キャラクターであるチンパンジーのコーネリアス博士から取られている。
 

  

 


『猿の惑星』には科学vs宗教の歴史体系も組み込まれており、考古学者の見地から「猿の繁栄の前には人間の高度に発達した文明があった」と主張するのがコーネリアス博士。その彼と婚約者のジーラ博士を危険思想の持ち主として異端審問に掛けるのが、神が猿の世界を作ったとする信仰の力によりコミュニティを統治しているオランウータンのザイアス博士である。当初、テイラー船長たち人間をゴリゴリズタズタに虐め倒すザイアスは鬼畜な悪役のボスにしか見えないのだが、だんだん一筋縄ではないかない複雑な猿人像を顕わにしていく。「人間がそんなに優秀ならなぜ滅亡したのだ?」と鋭く問いかける彼は、人間の罪に対する批判者の急先鋒なのだ。

そしてザイアスは猿人の聖書から、第29章第6節に記されているという痛烈な一節を読み上げる。そのゾッとする台詞=テキストを以下に引用して本稿を締めよう。

「人間という獣は悪魔の手先だ。

霊長類の中で人間だけが娯楽や欲望のために命を奪う。

土地を奪うために兄弟を殺すのだ。

人間を繁栄させるな。

さもなければすべてが荒廃する。

人間を遠ざけ、砂漠の彼方へと追い込め。

人間は万物に死をもらたすのだ」

『猿の惑星』
製作年/1968年 原作/ピエール・ブール 監督/フランクリン・J・シャフナー 脚本/マイケル・ウィルソン、ロッド・サーリング 出演/チャールトン・ヘストン、キム・ハンター、モーリス・エバンス、ロディ・マクドウォール

●こちらの記事もオススメ!
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.25『許されざる者』が映画界に残したものとは?(1)

 

  

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
Urban Safari CLOSE-UP BRAND フレデリック・コンスタントエレガントな時間を、手元に宿す。
SPONSORED
2025.11.28

Urban Safari CLOSE-UP BRAND フレデリック・コンスタント
エレガントな時間を、手元に宿す。

創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!
SPONSORED
2025.12.01

創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!
大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!

1950年にはじまった〈ゴールドウイン〉のヒストリー。その新作スキーウエアコレクションの名前は、創業地にちなんだ“オヤベ”だ。歴史の深みを感じさせ、エイジレスなスタンダードデザインでありながら、機能は最新鋭。素材はもちろん、ひとつひとつの…

TAGS:   Fashion
初登場HYDEが〈ハリー・ウィンストン〉をまとう!カリスマに似合うのはいつも最高峰の輝き!
SPONSORED
2025.11.25

初登場HYDEが〈ハリー・ウィンストン〉をまとう!
カリスマに似合うのはいつも最高峰の輝き!

一流は一流を引き寄せるとは、よくいわれること。ロックアーティストHYDEがまとったのは“キング・オブ・ダイヤモンド”として名高い、世界最高峰のジュエリー&ウォッチブランド〈ハリー・ウィンストン〉。常に最高を求め続ける両者が出会うと、どんな…

TAGS:   Fashion Watches
〈タトラス〉で見つけたここぞの1着!さりげに違い出しできる大人の冬アウター
SPONSORED
2025.11.25

〈タトラス〉で見つけたここぞの1着!
さりげに違い出しできる大人の冬アウター

冬カジュアルの主役であるアウターは、さりげなく違いが出せる1着を選びたい。そこで注目すべきなのが、大人のための上質な冬アウターに定評のある〈タトラス〉。定番ベースのシンプルなデザインを基本としつつ、街ゆく人をハッとさせるさりげない“違い”…

TAGS:   Fashion
〈サンローラン〉なら小さくても格上感あり!大人の革小物はさりげなロゴ使いで!
SPONSORED
2025.11.25

〈サンローラン〉なら小さくても格上感あり!
大人の革小物はさりげなロゴ使いで!

普段、バッグや靴ほど目立たないが、意外とセンスを問われるのが財布などの革小物。大人ならシンプルながらも品があって、さりげない上質感のあるものが狙いめだ。となれば〈サンローラン〉の革小物を。小ぶりなアイコンロゴがピリッと効いた財布やカードケ…

TAGS:   Fashion
俳優・桜田 通が〈ベル&ロス〉の希少な限定モデルをつけこなす!“赤き情熱”と“煌めく緑”の衝撃!
SPONSORED
2025.11.25

俳優・桜田 通が〈ベル&ロス〉の希少な限定モデルをつけこなす!
“赤き情熱”と“煌めく緑”の衝撃!

航空計器から着想を得た革新的なデザインが人気の〈ベル&ロス〉から、2本の限定モデルが登場した。情熱的な輝きを放つダイヤルの赤と闇夜にクールに浮かび上がる蓄光の緑。異なる魅力を宿す2本のパワーウォッチがファッションシーンでも注目を集める俳優…

TAGS:   Fashion Watches
大人にこそ持ってほしい〈フルラ〉の新作!冬カジュアルに効く品格バッグ!
SPONSORED
2025.11.25

大人にこそ持ってほしい〈フルラ〉の新作!
冬カジュアルに効く品格バッグ!

大人の冬カジュアルに欠かせない名脇役がバッグ。どんな着こなしにも似合う上質なバッグがあれば、気分よく外出できるというもの。そこでおすすめしたいのが、〈フルラ〉の新作として登場した“アーバン バックパック”。コートなら背負って、短丈ブルゾン…

TAGS:   Fashion
機能美が所有欲をくすぐる〈アシックス〉のワーキングシューズ!こだわる男のための次世代ワークブーツとは!?
SPONSORED
2025.11.25

機能美が所有欲をくすぐる〈アシックス〉のワーキングシューズ!
こだわる男のための次世代ワークブーツとは!?

男のカジュアルウエアは、ワークやミリタリーをモチーフにしたタフで骨太なアイテムが定番。それは服だけでなく、足元も同じだ。とはいえ往年のワークブーツなどでは、履き心地やスペック的に現代の暮らしにフィットしない!? ならば、〈アシックス〉のワ…

TAGS:   Fashion
“とっておき”を、自分にも、大切な人にも!“上質”を贈りたい 大人のギフト!
SPONSORED
2025.11.25

“とっておき”を、自分にも、大切な人にも!
“上質”を贈りたい 大人のギフト!

クリスマスに忘年会、そしてニューイヤー……年末年始は、特別なギフトシーズン。頑張った自分へのご褒美に、大切な人に感謝を込めて、“とっておきの上質”を贈りたい。自分の身と心を一新させるようなワザありの逸品から、相手の顔が思わずほころぶ名品ま…

建築家・クマタイチが〈バルミューダ〉で発見。豊かな暮らしをデザインする、加湿器の新しい選択。
SPONSORED
2025.11.14

建築家・クマタイチが〈バルミューダ〉で発見。
豊かな暮らしをデザインする、加湿器の新しい選択。

〈バルミューダ ザ・ストア 青山〉を訪れた建築家・クマタイチさん。暮らしに寄り添う建築を数多く手掛けてきたからこそ、関心を寄せたのは新しい加湿器“レイン”だ。ただ湿度を調整するだけでなく、暮らしを豊かに導くための機能や造形美を兼ね備えた“…

勝利を呼び込む〈タグ・ホイヤー〉の傑作3選!名作時計はファッション使いするのが決め手!
SPONSORED
2025.11.11

勝利を呼び込む〈タグ・ホイヤー〉の傑作3選!
名作時計はファッション使いするのが決め手!

2025年で創業165周年を迎え、そのうえ、22年ぶりにモータースポーツの最高峰である“F1”公式タイムキーパーにも返り咲いた〈タグ・ホイヤー〉。モータースポーツと密接な関わりをもち、勝利を象徴するウォッチとして君臨してきたそれは、時を経…

素材感と職人技が光る〈アニアリ〉。ミニマルに洗練されたジャパンメイドのトートバッグ。
SPONSORED
2025.11.18

素材感と職人技が光る〈アニアリ〉。
ミニマルに洗練されたジャパンメイドのトートバッグ。

上質なレザーのしなやかな感触と使い勝手の良さで支持を集めている〈アニアリ〉のバッグ。ミニマルで洗練されたデザインは、装いを自然に洗練されたものへと導いてくれる。また、確かな日本の職人技に裏打ちされた使いやすさと安心感が、使うほどに深まる風…

TAGS:   Urban Safari Fashion

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ