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CULTURE カルチャー

2024.03.13


【映画】第96回アカデミー賞 歓喜の裏側で残した課題とは?


『オッペンハイマー』で監督賞を獲得したクリストファー・ノーラン監督。『ダンケルク』(2017年)以来、2度目のノミネートで初受賞を果たした

3月10日(日本時間3月11日)に開催された第96回アカデミー賞授賞式。映画界最大のイベントであり、今年は日本映画が3作もノミネートされていたことから、例年以上に注目が集まっていた。

今年は授賞式が例年よりも1時間早いスタートとなった。ロサンゼルスの午後4時。東海岸のニューヨークは午後7時。前年までは東海岸では深夜近くに作品賞が発表されてきたので、この繰り上げで少しでも視聴者を確保したかったと思われる。この日からアメリカはサマータイムに切り替わったことから、日本では午前8時過ぎに、昨年と同じ司会者、ジミー・キンメルがドルビー・シアターのステージに登場。軽快なトークとともにアカデミー賞は開幕する。

受賞結果は、ほぼ順当だったと言っていい。『オッペンハイマー』が作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門受賞で、今年の“主役”となったが、これは予想どおり。むしろ13部門ノミネートだったので、もっと受賞数が多くなると思われていたくらい。受賞が堅いと思われ、逃したのが脚色賞と音響賞の2部門で、前者が『アメリカン・フィクション』、後者が『関心領域』の受賞となったが、これは各部門が『オッペンハイマー』の勢いに乗せられず、冷静な判断を下した印象。『アメリカン・フィクション』のストーリーテリングの巧みさ、『関心領域』の音による恐怖の伝え方は、映画芸術としての最高のテクニックが発揮されていたからだ。

日本映画の2冠、長編アニメーション賞の『君たちはどう生きるか』と視覚効果賞の『ゴジラ-1.0』は、最後の最後まで強力なライバルとの争いが続くという予測から、受賞を逃したとしても“仕方ない”と思われていただけに、サプライズも伴う喜びになった。その分、それぞれのライバルだった『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と『ザ・クリエイター/創造者』のスタッフたちの落胆が大きかったことにも思いを馳せたい。ともに受賞に値する素晴らしい仕事だったからだ。『ゴジラ-1.0』は低予算であれだけのVFXをなしとげたことへの評価も受賞につながったとされるが、この結果によってハリウッドのVFXが時間とお金を無駄に使っていると軽んじられることには危惧も感じる。“安く仕上げればいい”と、仕事の現場がブラックな条件になってしまっては、せっかくの『ゴジラ』の快挙も報われない……というものだ。
 

 
接戦という点で残念だったのが、メイクアップ&ヘアスタイリング賞での、日本出身のカズ・ヒロ。『マエストロ:その音楽と愛と』で3度目のオスカーが有力視されていたが、すでに2回受賞しているだけに『哀れなるものたち』に敗れても、余裕の表情ではあった。もちろん『哀れなるものたち』のメイクやヘアは芸術的に素晴らしかったので文句なく受賞には値する。

では授賞式の演出はどうだったか。およそ3時間半で終了したので、間延びはせず、成功だったと言える。ABCの発表によると視聴者数も昨年の1880万人から1950万人にアップということで、3年連続の増加であった。ただ日本人の感覚からすると、ジミー・キンメルのオープニングトークはやや冗長。合間に登場する回数も多い印象だった。アメリカで彼に求められているものを考えれば、順当な司会っぷりではあろう。とくに本番中にトランプがSNSに書き込んだキンメル批判のコメントに対し、授賞式の間にすぐさま答えるなど、リアルタイムでの対応力は、さすがジミー・キンメルだった。
 
  

 

パフォーマンスで授賞式に華を添えたライアン・ゴズリング

そして授賞式の中でハイライトとなったのが、ライアン・ゴズリングによる『Im Just Ken』のパフォーマンス。『バービー』でのオリジナル歌曲賞ノミネートによるものだが、監督賞や主演女優賞でのノミネートが期待されながら、外れてしまった同作の鬱憤を晴らすかのように、ピンクを基調にしたド派手な演出と、シム・リュウら同じケン役のキャストたちとの大迫力のダンスに、グレタ・ガーウィグ監督やマーゴット・ロビーらバービー組も最高に楽しそうな表情をみせていた。どの受賞の瞬間よりも、会場のテンションが上がっていた気もする。
 

  

 

衣装デザイン賞のプレゼンターを務めたジョン・シナ

その他にも、とにかく明るい安村を彷彿とさせるジョン・シナの全裸姿でのプレゼンターや、『落下の解剖学』に出演した天才犬、メッシが客席にいる(ような)演出など、要所に楽しいスパイスを入れながら、授賞式全体の流れは良好。今年の新たな試みとなった、演技部門のプレゼンターが各5人というのも、レジェンドの共演が“これぞアカデミー賞”というゴージャスさに感動したが、この演出が、助演男優賞のロバート・ダウニー・Jr.、主演女優賞のエマ・ストーンの対応で波紋を広げることになってしまった。
 

  

 

『落下の解剖学』の天才犬メッシが拍手をする演出も。実はご覧のように、スタッフが座席の下にスタンバイし、作り物の前足を動かしていたようだ

壇上にプレゼンターが5人もいれば、受賞の喜びで親しい相手に駆け寄りたくなる気持ちもわかる。しかしオスカー像を渡す昨年の受賞者をないがしろにしているように見えてしまい、しかもその相手がキー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーというアジア系だったため、無意識の人種差別だと取られてしまった。例年どおりプレゼンターが前年受賞者の1人、または2人くらいだったら、こんなことにはならなかったはず。新演出が逆効果に作用してしまった。来年も同じ演出になったら、受賞者は冷静に対応するだろうが……。

今年は作品賞ノミネート10本のうち、『落下の解剖学』『関心領域』の2作が、アメリカ以外の外国語メインの作品。『パスト ライブス/再会』も韓国語のセリフが多かったりと、ハリウッドの祭典であるアカデミー賞は、ますますグローバル化、多様化が進んできた。日本映画2作もその流れを加速した。『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督もハリウッドが門戸を広げていることをコメントしているように、世界の祭典へと向かっているからこそ、人種やジェンダーの壁がどんどん取り払われることに期待したい。また、ここ数年、配信系の作品がアカデミー賞で躍進していたが、今年はユニバーサルの『オッペンハイマー』が7部門、ディズニー(サーチライト)の『哀れなるものたち』が4部門受賞と、老舗のスタジオが存在感を発揮した。とりあえず劇場のスクリーンで体感したいという映画の本質が、無意識にこの結果に表れているのかもしれない。来年はどんな映画に栄冠がもたらされるのか、楽しみに待ちたい。

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文=斉藤博昭  text:Hiroaki Saito
Photo by AFLO
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