Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2024.03.02

悪夢映画はどう観たらいい?
新作『ボーはおそれている』と難解映画の世界(1)


『ボーはおそれている』(2024年)

『ヘレディタリー/継承』(2018年)、『ミッドサマー』(2019年)と、観る者の心を激しくざわめかせる作品を撮り続け、日本を含めた世界の映画ファンから、とにかく“気になる存在”として熱い支持を集めるアリ・アスター監督。その最新作ということで、しかも『ジョーカー』(2019年)でアカデミー賞に輝いたホアキン・フェニックスを主演に迎えたとあって、『ボーはおそれている』には大きな期待がかけられていた。

日本でも2月16日に公開がはじまり、多くのアリ・アスター・ファンが劇場に詰めかけているが、これまで以上に観た人の“ざわめき度”が半端ない……という印象。『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』でも際立っていた悪夢や狂気の要素が、さらに加速。むしろ『ボーはおそれている』は悪夢や狂気そのものを描いていると言ってもいい。
 

  

 

『ボーはおそれている』(2024年)
『ボーはおそれている』のストーリー自体はシンプル。中年男の主人公ボーが、遠方に住む母親から「いつ帰ってくるの?」と電話で催促された後、その母親が事件に巻き込まれて死んだことを知らされる。一刻も早く母親の元に駆けつけようとするボーだが、アパートの外へ出ると街の様子が明らかにおかしくなっており、さまざまな事態が悪循環を起こして、彼はなかなか実家にたどり着けない。その“旅”が、179分という上映時間で、全4章+αの構成で展開していく。
 

  

 

『ボーはおそれている』(2024年)


ボーが母親の産道を通って、この世に生まれてくる。そんな冒頭のシーンからして、観ているこちらを挑発してくるのが、アリ・アスターらしい。『ヘレディタリー』も『ミッドサマー』もメインのキャラクターは、必ずと言っていいほど精神的に不安定だったが、今回のボーは不安定どころか、強迫観念の塊で、それをホアキンが神経過敏的に怪演するので、ひたすらこちらの不安も煽られる。これこそアリ・アスター作品の真骨頂で、今回はボーに襲いかかる出来事が、現実で起こっているのか、あるいは彼の妄想なのか、そのボーダーも曖昧なため、狂気のレベルがアップされた印象だ。

アリ・アスターの作品は、基本的に異様な緊張感とテンションが保たれ、ポイントとなるシーンで衝撃的な描写が唐突にぶっこまれるのも特徴的。『ヘレディタリー』の交通事故や、『ミッドサマー』の崖のシーンは、トラウマ的に脳裏に刻み込まれた人も多いはず。『ボーはおそれている』でも何度かそうした瞬間は用意されており、“頭のない死体”“屋根裏部屋”といった、アスター作品でトレードマーク的な描写もあるが、前2作に比べて主人公以外の人物の怪しさ、狂気がやけに目立っているのも事実。彼らの言動が観ているこちらの神経を逆撫でするのだ。そのためか、悪夢の世界を旅する主人公のボーに共感してしまう時間も多く、ここはアスター作品の新境地かもしれない。
 

  

 

『ヘレディタリー/継承』(2018年)

そして、『ボーはおそれている』の前2作との違いに、観る人によって大きく分かれる反応も挙げられる。アリ・アスター監督が作品の肝に置くのは“家族”で、今回も母と息子の関係が作品全体を支配しているのだが、この関係にどれくらいシンパシーを感じるかで、作品への没入度も変わっていくようだ。アリ・アスターは「家族とは?」と聞かれ、「煩わしいもの。終わりのない義務感」と答えており、その意識が『ボーはおそれている』に表出したのだろう。

『ヘレディタリー』『ミッドサマー』の成功もあって、製作費も潤沢だったためか(『ミッドサマー』の約4倍の3500万ドル)、アスターはこれまでやりたかったイメージを全編に注ぎ込み、アニメーションの挿入などビジュアル的にもこだわり、過去の名作へのオマージュも入れ込んだ結果、何を観させられているのか混乱が深まり、カオス状態になっていくのも事実。ゆえに、そのカオスを好意的に楽しめるかどうかが、本作への評価にかかわってくる。観る人それぞれの感覚、考察、推理が試されるうえで、“映画的”ではある。
 

  

 

『ミッドサマー』(2019年)

『ヘレディタリー』や『ミッドサマー』には、カルト的な宗教、教祖が出てきて、それらに巻き込まれ、洗脳される恐怖が描かれた。このあたりもアリ・アスターの志向のひとつだが、この前2作は、われわれ観客は「洗脳されなければ大丈夫」という、どこか客観的な安心感で作品に向き合うことができた。だから他人事として映画の恐怖を楽しんだ。

『ボーはおそれている』は宗教観はあるにせよ、教団や教祖めいたものは登場しない。しかしボーの母親が所有する巨大企業グルームMWが教団的イメージも喚起したりして、日常に張り巡らされた“何かによる支配”を感じさせ、そこがちょっと怖かったりもする。そんな風に観る者の潜在的な不安を刺激することで、ボーが巻き込まれる不条理な悪夢や狂気的事件を、“もしかして明日は我が身に起こるかも”と感じさせる。それこそが『ボーはおそれている』の本質で、アリ・アスターの狙いなのではないか。
新作『ボーはおそれている』と難解映画の世界(2)に続く
 

  

 

 
文/斉藤博昭  text:Hiroaki Saito
Photo by AFLO
〈ディースクエアード〉の新作コレクションに注目!とびきりお洒落して週末は山へ!?
SPONSORED
2024.07.25 NEW

〈ディースクエアード〉の新作コレクションに注目!
とびきりお洒落して週末は山へ!?

夏は海でたっぷり遊んで、秋の週末は山へ。山といっても川遊びや高原なら、しっかりお洒落もできるでしょ? というわけで秋のそんなムードにぴったりなのが〈ディースクエアード〉の新作。ポジティブで遊び心の効いたアイテムで、大自然に映えるお洒落を楽…

TAGS:   Fashion Denim
〈ロエベ〉なら遊びと洒落感がちゃんとある!大人のカジュアルはどこかが違う!?
SPONSORED
2024.07.25

〈ロエベ〉なら遊びと洒落感がちゃんとある!
大人のカジュアルはどこかが違う!?

大人カジュアルに必要なのは、やっぱり遊び心と洒落感。ひと味違う“なにか”があるかどうかで、印象が大きく変わってくる。そこで注目すべきなのが〈ロエベ〉の新作コレクション。モードな洒脱さがあり、クラフト感やヴィンテージ感のある独特な世界観が魅…

TAGS:   Fashion
元サッカー日本代表・松井大輔が〈ベルルッティ〉を選ぶワケ!こだわる男を虜にするハイエンドなスニーカー
SPONSORED
2024.07.25

元サッカー日本代表・松井大輔が〈ベルルッティ〉を選ぶワケ!
こだわる男を虜にするハイエンドなスニーカー

今年2月、セカンドライフの第一歩を踏み出した元サッカー日本代表の松井大輔さん。ファッションへの情熱も高く、特にレザーグッズは若い頃にフランスで出会った〈ベルルッティ〉を愛用しているという。そんな彼が現役引退後、初のファッションシューティン…

TAGS:   Fashion
“IQOS Together X”で夢を叶えよう!一生に一度は行ってみたい楽園モルディブで “究極の体験”!
SPONSORED
2024.07.17

“IQOS Together X”で夢を叶えよう!
一生に一度は行ってみたい楽園モルディブで “究極の体験”!

心を奪われる絶景が広がる南国の楽園で、自然と触れ合い、なにもしない贅沢を楽しみ、優雅な時間を過ごす。これこそまさに、誰しもが一生に一度は体験してみたいと願う“究極の体験”のひとつではないだろうか。そんな願いを叶えるチャンスがあるのを是非紹…

TAGS:   Lifestyle
【Safari】TOSHIO MATSUMOTO Meets BLACK WOLF間が空いてもいい。とにかく続けることで、前向きになれる。
SPONSORED
2024.06.30

【Safari】TOSHIO MATSUMOTO Meets BLACK WOLF
間が空いてもいい。とにかく続けることで、前向きになれる。

パフォーマーから退いてはや9年が経つにもかかわらず、いまだ現役さながらの肉体を保ち、キレのいい動きで第一線で活躍する松本利夫さん。歳を重ねたことで円熟味が出てきたものの、まだまだ若々しく精悍で、エネルギーに満ちあふれた印象。彼のスタイルは…

TAGS:   Health&Beauty
【Safari me time】RYOHEI OHTANI Meets BLACK WOLFなりたい自分自身をイメージして、努力することが楽しい。
SPONSORED
2024.06.30

【Safari me time】RYOHEI OHTANI Meets BLACK WOLF
なりたい自分自身をイメージして、努力することが楽しい。

寡黙で優しく、それでいて芯が強い。最近出演する映画やドラマでは、そんな役どころを演じることが多い俳優の大谷亮平さん。実際にお会いすると、若々しくフレッシュな印象だ。きっと、いまだ鍛えているという身体と艶やかな黒髪が、そう感じさせるのだろう…

仕事も週末も両立する新ブランド〈MCFC〉。ビジネスマンのための時代を創造するバッグ。
SPONSORED
2024.06.30

仕事も週末も両立する新ブランド〈MCFC〉。
ビジネスマンのための時代を創造するバッグ。

クリエイティブディレクターを戸賀敬城、デザイン監修を橋本 淳が務める〈アウール〉から新しくバッグブランド〈MCFC〉がデビュー。ウエアと同じく、“ビジネスをより快適に”をテーマに使い勝手がよく、かつスタイリッシュなデザインが最先端で働くビ…

TAGS:   Urban Safari Fashion
ラグジュアリーを身近に感じさせてくれる〈フレデリック・コンスタント〉の新作。ビジネスシーンに映えるシンプルで優美な腕時計。
SPONSORED
2024.06.30

ラグジュアリーを身近に感じさせてくれる〈フレデリック・コンスタント〉の新作。
ビジネスシーンに映えるシンプルで優美な腕時計。

余裕を忘れがちな仕事中、手元にさりげなくラグジュアリーな腕時計があれば、忙しさの中にも優美さを保てる。1988年の創業から16年で自社製ムーブメントを製造する“マニュファクチュール”となった〈フレデリック・コンスタント〉。その真摯なウォッ…

TAGS:   Urban Safari Watches

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ