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CULTURE カルチャー

2024.03.02

悪夢映画はどう観たらいい?
新作『ボーはおそれている』と難解映画の世界(2)


『ボーはおそれている』(2024年)

2月16日に日本でも公開された『ボーはおそれている』は、『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の新作ということで、“やり過ぎ”と言っていいレベルの狂気と悪夢に満ちている。こうした作品はトラウマになるリスクも孕みつつ、一度観たら忘れられない強烈な記憶にもなるので、映画好きには意外に人気が高いのも事実だ。
 

  

 

『イレイザー・ヘッド』(1977年)

『ボーはおそれている』を観た人は、さらなる悪夢的映画を体感したくなるだろう。そしてこれから観る人は、心の準備として“何か観ておいた方がいいかも”と思っているかもしれない。監督で選ぶなら、その筆頭に挙がるのが、デイヴィッド・リンチ。『ブルー・ベルベット』(1986年)から『ツイン・ピークス』(1990〜1991年)、『マルホランド・ドライブ』(2001年)まで、作品全体で文字どおり悪夢を描くのがリンチの個性だが、その原点といえば、初の長編作となった年の1977年の『イレイザー・ヘッド』。人間から明らかに非人間の(鳥のような、あるいは牛のような)胎児が生まれる。父親にあたる主人公がへその緒の付いた胎児を壁に投げつける。さらに女性の頭上から幼虫のような胎児がいくつも落ちてきて、彼女はそれを踏み潰しながら踊る……など、全編が異様なイメージで埋め尽くされつつ、モノクロ映像が奇妙な美しさも放つので、狂気の世界をアートと捉えて観ることも可能。これは後のリンチ映画にも共通する。
 

  

 

『シャイニング』(1980年)

その『イレイザーヘッド』を、自作の撮影中にキャストを集めて鑑賞させ、参考にさせたのが、映画史に残る巨匠のスタンリー・キューブリック。その撮影中の作品とは、『シャイニング』(1980年)だった。これも悪夢映画の金字塔。雪で閉ざされたホテルの管理人ジャックが、徐々に精神的に追い詰められ、狂気の行動へと走るプロセスに、名優ジャック・ニコルソンの鬼気迫る演技が重なり、映画を観るわれわれも悪夢に引きずり込まれていく。ジャックを襲う怪奇現象と、そこから逃れられない苦闘は、『ボーはおそれている』の主人公の運命と酷似していたりも……。どんな異常なことが続いても、一度乗ったら降りられないジェットコースターのように身を任せるしかない。これも悪夢映画の鉄則だと、『シャイニング』タイプの作品は証明する。キューブリックは、『時計じかけのオレンジ』(1971年)でも、バイオレンスとポップなノリを融合させ、他に類をみない悪夢を表現した。
 

  

 

『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)

もう一人、悪夢映画の名手といえば、ダーレン・アロノフスキー。『レスラー』(2008年)や『ザ・ホエール』(2022年)のような人間ドラマの傑作もあるが、ドラッグの幻覚にさいなまれる『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)や、バレリーナが悪夢によって精神を崩壊させる『ブラック・スワン』(2010年)が、彼の作風を決定づけた。
 

  

 

『マザー!』(2017年)

そんなアロノフスキーの究極の悪夢といえば『マザー!』(2017年)ではないか。ある訪問者たちを招き入れたことで、その家の夫婦が地獄のような試練を強いられる物語。ジェニファー・ローレンスの主人公が、ひたすら酷い目に遭い、クライマックスでは映画の常識を超えた、おぞましい描写も用意される。本作のこの流れにも、『ボーはおそれている』との共通点を発見可能だし、招かれざる訪問者が悪夢を導く作品といえば、M.ナイト・シャマラン監督の『ノック 終末の訪問者』などもある。このパターンの映画を観るうえで重要なのは、社会の不条理や集団心理に対する“怒り”を見出すことかも。恐怖体験を強いられた先に、これからの人生を生きるうえで大切な教訓を得られる……なんて考えれば、悪夢映画も受け入れやすくなる。そしてシャマラン作品は、狂気の世界を軽やかに描く部分もあるので比較的観やすいのも事実。
 

  

 

『マッドゴッド』(2021年)

また、悪夢映画は逆に子供時代の純粋な感覚を取り戻すツールにもなる。モラルや常識に縛られて、自主的にセンサーを働かせてしまう大人とは違って、子供たちは恐ろしさにも素直に興味を抱く。“怖いおとぎ話”などが好例だが、そうしたタイプの究極が『マッドゴッド』(2021年)。地下世界に潜り込んだ主人公が、不気味なクリーチャーや、世界の終焉と言うべき風景を目にし、まさに悪夢の連続を絵に描いたようなドラマだが、ストップモーションアニメなので、どこか懐かしい感触。童心に戻って悪夢を楽しめるのは映画ならでは。そんな事実を改めて教えてもらえる。

もうひとつ、悪夢映画へのアプローチとして、最初からオシャレでクールな作品として捉えるスタイルもある。『ボーはおそれている』などアリ・アスター監督の映画を製作しているのは、いま映画界で、ブランドとしての人気を誇るスタジオ、A24だ。メジャースタジオとは違って、映画作家の個性を最優先し、実験的な作風、野心的なテーマにもゴーサインを出し、そこから成功作が量産されている。昨年のアカデミー賞作品賞に輝いた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もA24の作品。

実際にA24は、悪夢映画をいくつも送り出している。前述の『イレイザーヘッド』も連想させるのが、ヤギから生まれた子供が人間のような肉体で成長する『LAMB/ラム』(2022年)。小さな町に住む男たちの顔が、なぜかすべて同じという『MEN 同じ顔の男たち』(2022年)。この2作は基本プロットだけで、かなり不気味だ。また、中世の騎士の冒険を、不気味なエピソードでいろどるのが『グリーン・ナイト』(2021年)。そして『エブエブ』もマルチバースが、ある意味、悪夢を形成していた。これらの作品が作り出す強烈で極端なシチュエーションも、“クールな映画会社の最先端&スタイリッシュな表現”と思いながら観れば、入り込みやすいはず。『ボーはおそれている』も、A24発信の悪夢映画だと思えば、楽しみ方も変わってくるだろう。

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文/斉藤博昭  text:Hiroaki Saito
Photo by AFLO
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