写真左/両親と広島の住み、大型ショッピングモールで働く桐生夏月(新垣結衣)。写真右/夏月の同級生で横浜で働く佐々木佳道(磯村勇斗)
朝井リョウの小説『正欲』を実写化した映画『正欲』が11月10日(金)より劇場公開される。
本作は家庭環境、性的指向、容姿など様々に異なる背景を持った5人を描いていく群像劇。そして物語が進んでいくうちに少しずつ、彼らの関係が交差していく。新垣結衣演じる桐生夏月と磯村勇斗演じる佐々木佳道が“水”に性的興奮を覚えるなど、彼らは“普通”ではないことに苦しんでいる。誰ともつながれない、だからこそ誰かとつながりたい、とつながり合うことを求める彼らの姿に、観る側は最初、戸惑うかもしれない。
横浜地方検察庁の検事で、妻の由美、息子の泰希と3人で暮らしている寺井啓喜(稲垣吾郎)
その仕掛けについて『あゝ、荒野』『前科者』の岸善幸監督はこう語っている。「(検事役の)寺井啓喜役を演じてくれた稲垣吾郎さんに最初にお会いしたとき、こう伝えたんです。『啓喜はいわゆる大多数の側の人です。もしかしたら、マジョリティとして観客にいちばん近い感性かもしれません』と。『観客は、初めは啓喜の感覚で観はじめるかもしれないけど、そのうち啓喜のほうがおかしいんじゃないかと見えてくる作品にしたいです』と。その方針は撮影でも、編集でも貫いていて、群像劇としての骨格を使いながら、自分たちの感覚がぐらついていくような共感を観客にしてもらいたいと思って作りました。ひと口にマイノリティといっても、細分化されると、その言葉では掬いきれない人たちが必ずいて。そういった人たちの人間らしい側面が後半で見えてきて、そこに共感してほしいなと。そういう意味で追求したのは“つながり”ですね。ひとつではない多様な、いろいろなかたちの“つながり”だったと思います」
写真左/大学で学園祭実行委員を務める神戸八重子(東野絢香)。写真右/ダンスサークル”スペード”に所属する諸橋大也(佐藤寛太)
観客は“普通”でない人たちの話を観ているうちに、それぞれが持つ“常識”や感覚に対して「それは本当に正しいことなの?」という疑問を投げかけられる。それを考えさせることも本作の狙いのひとつだと岸監督は言う。「“多様性”の意味を問いかけるのはもちろんですが、人間は誰もが二面性を、もしかしたら二面以上を持って生きていると思うんです。会社とか学校とか日常を送る顔は、さまざま使い分けられていて、本当の顔は、実は他人には見せたくない。本当の顔で生きていくということは、日常性とかけ離れることでもあって、どうしたって孤独になる。そこは特殊性癖を持つ人もそうではない人も同じような気がしています。そういう意味では、『特殊な性的指向ってなに?』ということよりは、マジョリティ側の感覚や意識をあからさまにすることのほうが大事でした。『私たちの本来の感覚って何なのか、それは間違っていないのか?』と疑ってもらえればいいのかなと思います」
世間に合わせるため本来の自分を隠し、そのギャップに苦しむ桐生夏月役を演じた新垣結衣には、これまで印象が変わるほど衝撃を受けるはず。また、男性が苦手な神戸八重子役に扮した東野絢香の繊細な演技にも圧倒されるに違いない。
『正欲』11月10日(金)、全国ロードショー
原作/朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)監督・編集/岸善幸 脚本/港岳彦 音楽/岩代太郎 出演/稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香 配給/ビターズ・エンド
2023年/日本/上映時間134分
【あらすじ】横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた……。
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