『アステロイド・シティ』(2023年)
掛け替えのない仲間たちと共に築き上げる大切な居場所
“集団”という要素はウェス・アンダーソンという才気あふれる人間を作り出した原点と言える。少年時代、彼がどれだけ演劇の脚本を書いたとしても、それを演じてくれる仲間がいなかったら、それはただの空虚な創作で終わってしまっていたはずだからだ。
『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996年)
『アンソニーのハッピー・モーテル』(1996年)で描かれた親友二人という最小単位からはじまり、世代も肌の色もバラバラの犯罪グループ、大家族、海洋冒険チーム、三兄弟、ボーイスカウト、ホテル従業員、犬と人間、それから雑誌の編集部に集う個性豊かな人々・・・などなど、かくも彼の作品では特殊な集団が物語の中心を成し、興味深い世界を創り上げる。
ここで特筆すべきは、ウェス・アンダーソンにとって映画づくりそのものもまた、こうやって集団と共に繰り広げる冒険であり、出会いと別れであり、それすなわち“人生”になりえているということだ。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』撮影中(2001年)
特に『〜テネンバウムズ』以降、彼の作品ではオールスターキャストの群像劇というスタイルが定番となり、一度起用された俳優はその後の作品でも幾度となく登場するようになった。もちろん俳優のみならず、スタッフも同じ。舞台芸術でいうところの”カンパニー”や”一座”に似ている。
アンダーソンは彼らのことをイメージしながら脚本を当て書きし、いざキャスティングの声がかかればメンバーたちは世界のあちこちから駆けつけ、作品作りに全力を注ぐ。
『アステロイド・シティ』撮影中(2023年)
アンダーソンはこうして仲間が一緒に集まって、再会を喜び合いながら、まるで合宿のように寝食を共にする創造的時間を何よりも大切にしているという。こうやって時間をかけて濃密に紡がれた互いの関係性があるからこそ、最新作『アステロイド・シティ』(2023年)に至るまで、誰も到達したことのない唯一無二のイマジネーションや微妙なニュアンスを、阿吽の呼吸とも呼ぶべき匙加減で具現化していけるのだろう。
それはかつて親の離婚を経験した少年が、壮大な旅の果てに見つけたもうひとつの掛け替えのない家族とも呼ぶべき場所なのかもしれない。
『アステロイド・シティ』公開中
製作・原案・監督・脚本/ウェス・アンダーソン 出演/ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン 配給/パルコ
2023年/アメリカ/上映時間104分
『ミッション:インポッシブル』の特集記事を読む
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