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CULTURE カルチャー

2022.07.19

『マッドマックス』が映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.10



『マッドマックス』(1979年)

「西暦199X年、世界は核の炎に包まれた」――。

これはご存じ、日本を代表する人気漫画のひとつ、『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)のオープニングを飾る前口上である。”ポスト・アポカリプスもの”と呼ばれる、文明崩壊後の荒廃した終末的世界を舞台にしたサバイバル・アクションの金字塔でもある本作は、1983年に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載スタート。そして翌84年10月には「♪YouはShock!」という歌い出しも衝撃的だったクリスタルキングの主題歌『愛をとりもどせ!!」と共に、テレビアニメ版が放映開始(フジテレビ系)。人体破壊が頻出するハードコアな内容にもかかわらず、ゴールデンタイム枠で放映され、最高視聴率は23.4%を記録(1986年3月20日放送)。結果、全国の男子小学生たちがお友だちの秘孔をやたら突きまくり、みんな「ひでぶ!」「あべし!」「たわば!」と叫んで楽しく倒れていくような、社会現象レベルの一大ブームへと拡大していった。 

 
 



『マッドマックス2』(1981年)

そんな無邪気な少年時代を過ごした世代の面々が、『北斗の拳』から少しさかのぼる形で、1981年の映画『マッドマックス2』(監督:ジョージ・ミラー)を初めて観た時はびっくりしたのではなかろうか。何を隠そう、筆者もそのひとりだ。まさしく文明や秩序がぶっ壊れた野蛮な弱肉強食の近未来で、ホッケーマスクの怪人とかモヒカンヘアーのヤバい奴らが「ヒャッハー!」と雄叫びながらド派手にチューンナップした改造車を乗り回している! そう、実は『北斗の拳』がその世界観やヴィジュアルイメージにおいて、参照した最大の元ネタこそが『マッドマックス2』だったわけだ。
 



『マッドマックス』(1979年)

こうなると、さらに時代を遡行して伝説のはじまりを確認せねばならない。それがオーストラリアから襲来した1979年の『マッドマックス』(監督/ジョージ・ミラー)である。尺は93分、基本はB級アクションと言っていいフォーマット。しかし映画史、並びにポップカルチャー史に残したツメアトという観点なら、この原点より深いものはない。
 

 
主演は当時23歳、まだ無名俳優だった若きメル・ギブソン。有名な逸話によると、彼は『マッドマックス』のオーディションに現われた時、前日に酒場で三人のバイカーを相手に大げんかを繰り広げたらしく、全身ケガだらけで服もボロボロの姿だったらしい。だがそのボーン・トゥ・ビー・ワイルドな佇まいが監督のハートを射抜き、見事主演に抜擢されたということである。
 

 
『マッドマックス』(1979年)

そんなメルギブが演じる異色のヒーローは、暴走族を専門で取り締まっている特殊警察M.F.P.に所属する敏腕警官、マックス・ロカタンスキーだ。彼はまず、警官殺しの凶悪犯ナイトライダーとその恋人を追い詰めていく。この犯人カップル、猛スピードでクルマを飛ばしながら「俺たちは絶対捕まらねえ! 聞いてるか、警察のウスノロ野郎!」とひたすら哄笑しながら雄叫び続けるすっごいバカな人たちなのだが、わりとあっさり運転ミスで自爆。だがこの一件で、ナイトライダーと仲のよい暴走族の恨みを買ったマックスは、やがて自分の大切な家族を襲われ、妻は重体、小さな息子は絶命。かくして復讐の鬼と化したマックスは、M.F.P.特製のモンスターマシン、かっこいい武装車“V8インターセプター/ブラック・パーシュート・スペシャル”(1973年製フォード・ファルコンXB GT351ハードトップ限定モデルの改造車)に乗り込み、憎き敵との対決に臨む――。
 

 
観ればひと目で丸わかりなのだが、このファースト『マッドマックス』は低予算映画である。時代設定は近未来と言っても、「今から数年後」(A FEW YEARS FROM NOW…)という“ほぼ現代”。大掛かりなセットや美術は極力作らず、なるだけ在り物の施設を使ってオーストラリアの田舎でロケーション撮影されている(ちなみに『マッドマックス2』では、この第一作で描かれた物語の直後に第三次世界大戦が勃発したという設定が付与された)。また暴走族のリーダーであるトーカッター(ヒュー・キース=バーン)の愛車をはじめ、カワサキ・Z1000など日本製のバイクが多数登場(当時のオーストラリアで大人気だったらしい)。全体としてはポリスアクションの変態&変形版といった趣だが、その迫力満点のカーチェイスやリアル志向のヴァイオレンス描写は海を超えて全世界に巨大な興奮を巻き起こした。
 
 
当時34歳の監督のジョージ・ミラーは、実は当初医者を目指していたインテリ。医科大学を卒業後、病院で働きながら、このやんちゃなアクション映画の構想を秘かに練っていたらしい。やがてテレビ&映画業界に身を移して、なんとか工面した約35万オーストラリアドルの製作費を注ぎ込み、長編デビュー作となる『マッドマックス』を撮り上げた。結果、本作は全世界で1億ドルものメガヒットを飛ばし、“製作費と興収の差がいちばん大きい映画”としてギネスブックにまで掲載されたのである(その記録を破ったのが1999年の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だ)。特に日本では、カワサキやホンダのバイクが活躍することもあり熱狂的に迎えられ、興収は11億円を記録。実は『マッドマックス2』の日本国内興収が9億8300万円だから、それよりも多かったのである!

また本作の大きな意義(ツメアト)のひとつは、英語圏の中でも圧倒的に文化的辺境だと思われていたオーストラリアから、ハリウッドや全世界に殴り込みできる回路を開いたことだ。ハードロックバンドのAC/DCと、『マッドマックス』こそ、1970年代の豪州が産んだポップカルチャーの至宝である。 
 
 



『マッドマックス/サンダードーム』(1985年)

さて、この第一作の大成功を受け、予算が10倍以上に跳ね上がり、内容も格段にスケールアップした『マッドマックス2』が1981年に公開。そしてハリウッドが製作にも加わり、主題歌を歌うティナ・ターナーまで大役で出演したシリーズ第3作『マッドマックス/サンダードーム』(監督/ジョージ・ミラー&ジョージ・オギルヴィー)が1985年に公開された(日本興収7億7600万円)。
 

 

 

『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015年)

以上のトリロジー(三部作)で『マッドマックス』シリーズは完結したかに思われていた。以降のジョージ・ミラーは監督や脚本家、プロデューサーとして、子豚ちゃんの映画『ベイブ』シリーズ(1995年~1998年)や、ペンギンちゃんのアニメ『ハッピーフィート』シリーズ(2006年~2011年)などを手掛ける。だが2015年になり、なんと約30年ぶりとなるシリーズ第4作『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(監督/ジョージ・ミラー)を発表。マックス役はトム・ハーディに交替。これがとんでもないノンストップアクション映画の大傑作で、第88回アカデミー賞では10部門にノミネートされ、最多6部門受賞。日本でも『キネマ旬報』と『映画秘宝』という毛色の異なる二大映画専門誌で共に年間第1位に選出された。若い映画ファンには『マッドマックス』というタイトルを聞いて、まず思い浮かべる作品はコレかもしれない。
 
 
さらにシリーズ第5作『マッドマックス/ザ・ウエイストランド(Mad Max: The Wasteland)(原題)』の制作企画もあり、第6作も含めて新三部作として完成させる予定らしい。また現在、77歳のジョージ・ミラーは『怒りのデス・ロード』の前日譚映画『フュリオサ(原題)』を撮影しており、2024年の公開を目指しているとの噂もある。
 

 

 
『奪還者』(2013年)

まだまだ拡大を続ける『マッドマックス』の世界。その前に、元祖『マッドマックス』に込められたジョージ・ミラーとその仲間たちの荒々しくも瑞々しい初期衝動を、改めて確認してみるのはいかがだろうか。ちなみにガイ・ピアースとロバート・パティンソンが共演した『奪還者』(2013年/監督:デヴィッド・ミショッド)というオーストラリア映画は、そんな第一作目の味わいに近い終末系アクションの佳作。ご参考までにそっとお薦めしておきたい。

『マッドマックス』
製作年/1979年 監督・脚本/ジョージ・ミラー 出演/メル・ギブソン、ジョアンヌ・サミュエル、ヒュー・キース=バーン、スティーブ・ビズレー
 
  

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO

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