『ハーフネルソン』
製作年/2006年 監督・脚本/ライアン・フレック 共演/シャリーカ・エップス、ステファニー・バスト
俳優としての実力を知らしめた作品!
カナダ出身で、ディズニー・チャンネルの“ミッキーマウス・クラブ”の子役でデビューしたライアン・ゴズリングが、大人のスターとしてブレイクした映画といえば、2004年の『きみに読む物語』。そして俳優としての実力を知らしめたのが、その2年後の『ハーフネルソン』だ。NYブルックリンの中学校で歴史を教えるダンは、生徒からも信頼されていたが、私生活ではドラッグに溺れる日々。その事実が女子生徒のドレイにバレてしまい、ダンの運命は急展開をみせる。
ドレイも切実な秘密を抱えており、ダンと彼女はおたがいの弱さや悲しみを分かち合うようになる。そのプロセスが抑制されたタッチで展開し、2人の心にじんわり没入してしまう人間ドラマ。“オモテの顔”理想の教師と、“裏の顔”薬物中毒の男。人間の二面性をエモーショナルに、そしてスリリングに演じきったことで、ゴズリングは本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。愛想がよく、繊細な性格のようで、じつは心に深い闇を抱えていそう……。そんな彼の個性の原点が本作から感じられるはずだ。2006年の作品ながら、日本では2017年にようやく劇場公開が実現した。
『ラースと、その彼女』
製作年/2007年 監督/クレイグ・ガレスピー 脚本/ナンシー・オリバー 共演/エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー
ラヴドールとの純愛になぜか心動かされる!
ライアン・ゴズリングの初期の代表作のひとつだが、ストーリーだけ紹介すると、かなり不思議で怪しい一作。それゆえに強いインパクトで記憶に残ると言ってもいい。アメリカの小さな町に暮らす、主人公の青年ラース。穏やかな性格で、どこかナイーヴな雰囲気を漂わせる彼は、女性に対しては極端にオクテで、恋人を作れずにいた。ある日、兄夫婦はラースから恋人を紹介したいと聞かされる。しかしその相手は、人間ではなく“人形”。ネットで購入した等身大のラヴドールで、ビアンカという名前。兄夫婦はどう対処すればいいかわからず、医師にも助言を求めつつ、とりあえず人間としてビアンカに接することに……。
危険な要素満点なのに、全編を貫くのは、優しくピュアな空気感。ラースを演じるゴズリングが、ラヴドールに純愛をそそぐ様子を素直に表現し、余計なツッコミを入れる余地を与えない。そして前半こそ、この特殊なシチュエーションに引いてしまう人もいるが、中盤からラースの感情が伝わるようになると、知らず知らず共感してしまう。観ているこちらも、ビアンカが生身の人間だと錯覚する瞬間も多発! これは妄想が現実となる、映画のマジックのひとつかも。怪作が心地よい愛の物語へと向かう、レアな体験を味わえる。
『ブルーバレンタイン』
製作年/2010年 監督・脚本/デレク・シアンフランス 共演/ミシェル・ウィリアムズ、フェイス・ワディッカ、マイク・ヴォーゲル
夫婦の心の距離を見事に表現!
どこか屈折感を抱えながらも、自分の意思や、愛する相手にはまっすぐに向き合う。しかし、人生に不器用な一面が顔を出し、感情を激しく爆発させる……。ライアン・ゴズリングに、このパターンがあまりに似合うと教えてくれたのが、『ブルーバレンタイン』だ。引越し業者として働いていたディーンは、医大生のシンディと恋におちる。しかしシンディは元恋人との間で子供を身ごもり、ディーンはすべてを受け入れて彼女との結婚を決意する。それから5年後、5歳になった娘はディーンを父として慕っているが、ディーンとシンディの夫婦関係は崩れかけていた。
ディーンのシンディへの情熱が一気に盛り上がり、おたがいをいつくしみ合った5年前。そして夫婦になって、心が離れつつある現在。2つの時間が交錯する構成なので、結婚生活の現実と切実さが痛いほど伝わってくる。夫婦の絆を何とか取り戻したいディーンが、シンディを誘ってモーテルで過ごすシークエンスは、両者の気持ちが生々しくて胸が締めつけられるのは確実。ゴズリングの純情ダメ男っぷりがハマり役で共感してしまうが、シンディ役、ミシェル・ウィリアムズも相手への揺れ動く心情をきめ細やかに表現。ここまでリアルなラヴストーリーも珍しく、観た後に誰かと語り合いたくなる一作。
『ドライヴ』
製作年/2011年 原作/ジェームズ・サリス監督/ニコラス・ウィンディング・レフン 共演/キャリー・マリガン、ブライアン・クランストン、クリスティーナ・ヘンドリックス
愛する女性のためなら危険を顧みない!
ライアン・ゴズリングの代表作を聞かれ、この作品を挙げる人はかなり多いのではないか。彼が演じるのは、ハリウッドの撮影現場で活躍するスタントドライバー。その運転能力が買われ、強盗の逃走に加担する“闇仕事”もこなしていた。そんなある日、彼は同じアパートで暮らすアイリーンとエレベーターで知り合う。二人の間には恋の炎が燃え上がるが、アイリーンには幼い息子がいて、夫は服役中。やがてその夫が出所し、ゴズリングの主人公は、借金に苦しむ夫の強盗計画に協力することになる。
映画撮影でのカースタントも描きつつ、この『ドライヴ』の見どころは、犯罪の片棒をかつぐ主人公の鮮やかなドライビングテクニック、そして愛した女性を幸せにするため、恐ろしい組織も敵に回そうとする究極の自己犠牲。この主人公、とにかく寡黙。つねに口に楊枝を加えている。知り合いから“キッド”と呼ばれているが本名は定かではない。孤独な姿は西部劇のヒーローのようでもあり、アウトローな行動も含めて、映画ファンの心をくすぐりまくる。監督はデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン。カンヌ国際映画祭では本作で監督賞に輝き、次の『オンリー・ゴッド』でもゴズリングを起用した。
『ラ・ラ・ランド』
製作年/2016年 監督・脚本/デイミアン・チャゼル 共演/エマ・ストーン、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ
人生のターニングポイントを思い出させる!
ライアン・ゴズリングの主演作で、日本で最も高い興行収入を記録したのが『ラ・ラ・ランド』。アカデミー賞では6部門受賞し、彼も主演男優賞にノミネートされた。ミュージカルというジャンルも、そのキャリアでは特別な作品である。ゴズリングが演じるのは、ジャズピアニストのセブ。バーで彼の演奏にときめいたのが、女優志望のミア。2人は夢を語り合ううちに恋人同士となるも、その後、切ない運命が待ちかまえる。人々が踊り出す軽やかなオープニングナンバー(日本でもCMで使われたりして有名)から、一気に観る者のテンションは上がってしまう。
ミュージカル黄金期の名作へのオマージュが散りばめられた本作。渋滞のハイウェイや、街を見下ろすグリフィス天文台、そして映画会社のスタジオなど、“夢が叶う街”ロサンゼルスらしい風景が次々と登場。主人公たちの恋やサクセスストーリーに、これ以上ない背景になっている。本作でアカデミー賞主演女優賞のエマ・ストーンを相手に、ゴズリングも軽やかなステップで踊るが、何より心に残るのはラストシーンの彼の表情。“あの時、もし……”と、映画を観た人すべてがそれぞれの人生のターニングポイントに思いを馳せるはず。
photo by AFLO