『ザ・スイッチ』
製作年/2020年 製作/ジェイソン・ブラム 監督・脚本/クリストファー・ランドン 出演/ヴィンス・ボーン、キャスリン・ニュートン、アラン・ラック
女子高生と連続殺人鬼が入れ替わり!
心とカラダが入れ替わる設定の映画で、強いインパクトを与えるのが、両者のキャラクターが“真逆”なケース。たとえば性別。日本映画の『転校生』などが代表例だが、性別だけでなく、年齢や人格などあらゆる条件が全く異なる2人が入れ替わる点で、この『ザ・スイッチ』が最も強烈なインパクトではないだろうか。片方は家でも学校でも冴えない日常を送る気弱な女子高生のビリー。そしてもう片方は指名手配を受ける連続殺人鬼の中年男ブッチャー。雷の夜、ブッチャーに襲われるミリーだが、短剣を突きつけられた瞬間、2人の心とカラダが“スイッチ”してしまうのだ。
殺人鬼になった女子高生。そして女子高生となった殺人鬼。翌朝、そのとんでもない事態に気づくシーンから抱腹絶倒。その後、24時間以内に呪いを解かなければいけないミッションがテンポよく展開される。“入れ替わり”映画の成否は俳優の演技力にかかっているが、いきなり凶暴化するミリーのキャスリン・ニュートン、そして内面はキュートな女子に変貌するブッチャーのヴィンス・ヴォーンが、言葉遣いや動きも名演し、素直に笑わせてくれる。殺人鬼の暴走も描くのでバイオレンス描写が激しかったりするが、笑いとのバランス感が絶妙で、“入れ替わり”映画とホラーの相性も証明。何より、ふだんの自分では絶対に不可能な暴走行為を映画が実現してくれるので、思いのほかスッキリする。
『セブンティーン・アゲイン』
製作年/2009年 監督/バー・スティアーズ 脚本/ジェイソン・フィラルディ 出演/ザック・エフロン、マシュー・ペリー、レスリー・マン
中年オヤジが17歳の肉体に入れ替わり!
心とカラダが入れ替わる事態は、“災難”のケースと、“ラッキー”のケースに大きく分けられる。その意味で後者なのが本作だ。タイトルにあるとおり、中年の主人公が17歳の肉体をもう一度取り戻す物語。高校時代、バスケットボールの優秀選手だったマイクだが、恋人のスカーレットから妊娠の事実を聞かされ、大事な試合を途中退場。バスケでの奨学金進学も断念する。大人になったマイクは、妻のスカーレットから家を追い出され、2人の子供との関係も最悪。ある夜、橋から川に飛び込む老人を見て、同じく川に落ちた彼は、17歳の自分の肉体に心が宿り、マークという名前で再び高校生活を満喫しようとする。
タイムスリップで過去に戻るドラマはよくあるが、時代は変わらず肉体だけ若返る設定は、なかなか新鮮。そして本作が観る人にアピールするのは、自分の子供たちと同年代になる点だ。若い時代の両親と仲良くなる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の逆パターンとも言える。自分の息子&娘と友人になり、彼らの悩みを解消。妻のスカーレットはマーク(マイク)に、かつてのときめきを感じる。父親、あるいは夫の立場では気づかなかった家族の思い。それを主人公が知り、新たな関係を築き上げようとする展開がエモーショナルだ。本作はミュージカル化もされ、2021年には竹内涼真の主演で日本でも上演された。
『チェンジ・アップ/オレはどっちで、アイツもどっち!?』
製作年/2011年 製作・監督/デヴィッド・ドブキン 脚本/ジョン・ルーカス、スコット・ムーア 出演/ライアン・レイノルズ、ジェイソン・ベイトマン、レスリー・マン
“幸せな家庭持ち男”と“独身モテ男”が入れ替わり!
他人をうらやましいと思った経験は誰もがあるはず。全く違う環境で、自分とは違って充実した日々を送っていそうな親しい友人がいたら、どんな気分なのか味わって観たくなるのも、人間のサガ。そんな妄想を爆笑コメディとして描くのが本作だ。有名な弁護士事務所に勤め、妻と3人の子供と暮らすデイヴ。そして独身生活を続け、女性にモテまくりの俳優志望のミッチ。親友の2人がある日、酔っ払って公園で並んで用を足しながら、相手と入れ替わりたい願望を口にしたところ、翌朝、本当に心とカラダが入れ替わってしまう!
入れ替わった事実が証明できない2人が、それぞれの仕事で大奮闘。当然のごとく失敗を繰り返すが、オバカなギャグ、くだらないネタもたっぷり盛り込まれ、ひたすら笑える。このあたりは『ハングオーバー!』シリーズの脚本家コンビらしい痛快さ。難関の弁護士案件、ポルノ映画出演など豪快なエピソードの数々で、まったく違う人生を送る主人公たち。相手の知らなかった側面を学び、自分の生活の大切さを再認識する流れは予想どおりとはいえ、素直に感情移入してしまう。ミッチ役はライアン・レイノルズ。この後、『デッドプール』で大爆発する、彼の(いい意味での)チャラい魅力の原点も発見できる。
『天国から来たチャンピオン』
製作年/1978年 原作/ハリー・シーガル 製作・監督・出演/ウォーレン・ベイティ 監督/バック・ヘンリー 出演/ジュリー・クリスティ
アメフト選手の魂が大富豪へと移動!
心とカラダが入れ替わるのは、基本的に生きている者同士。しかし、あの世に行った魂が、この世の肉体に入り込むケースも『ゴースト/ニューヨークの幻』などいくつかある。その系統で傑作といえるのが『天国から来たチャンピオン』だ。前途有望なアメフト選手のジョーが交通事故で急死するが、天国の入り口でその死は天使によるミスだったと発覚。あわてて現世に戻ろうとするが、肉体は火葬済み。仕方なく死んだばかりの大富豪の肉体に、ジョーの魂が入って生き返ることに。ジョーはその大富豪の肉体を鍛え上げ、なんとかアメフトのスター選手として復活しようとする。
この作品の特徴は、入れ替わりの見せ方が独自ルールであること。通常、肉体に別人の心が入ったとしても、見た目は“入り込まれた”側の外見。しかし本作では、ジョー役のウォーレン・ベイティが、魂が入った富豪も演じている。つまり映画を観ているこちらは、心のキャラのレベルで状況を把握しやすい。そして映画の中では、周囲の人々が富豪の元の外見として捉え、急に生き返ったことで驚いたりするので、笑いも満点。天使から“期限つき”と言い渡された、ジョーから富豪への魂の移動。迎える結末は、切なくも優しく、なんとも映画らしい幸せに満ちている。似たようなラストということで『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と比べてほしい。
『セルフレス/覚醒した記憶』
製作年/2015年 監督/ターセム・シン 脚本/アレックス・パストール、デヴィッド・パストール 出演/ライアン・レイノルズ、ベン・キングズレー、マシュー・グード
クローン技術で作った肉体に脳を転送!
もし現実で、他人と心とカラダが入れ替えられるとなったら、やはり相手は自分より若い方がいいと思う人も多いだろう。そんな人間の欲望をかなえる最先端テクノロジーを描いたのが本作。基本的にコメディが多い“入れ替わり”映画の中で、これはシリアスでサスペンスフルなところが異色だ。建築会社のCEOとして莫大な財産を保有するダミアンが、ガンで余命半年の宣告を受ける。科学者が彼に提案したのは、クローン技術で作った若い肉体に、ダミアンの脳を転送するという、信じがたいプロジェクト。受け入れたダミアンは肉体が死んだ後も、新たな肉体を自分の意思で操って生き続けるが……。
2億5000万ドルという“意識の移植”、謎めいた研究所など近未来SF映画のような設定が観る者の心をざわめかせる。新しい肉体に慣れるまでのトレーニングを経て、その後、若く健康な日々を謳歌する主人公のドラマが続くかと思いきや、やがて幻覚に苛まれるようになるダミアン。そこからは予想外の事態へなだれ込むので、観てのお楽しみだ。ダミアン役は『ガンジー』でアカデミー賞主演男優賞の名優、ベン・キングスレー。新たな肉体の姿では、ライアン・レイノルズが心とカラダが引き裂かれるような葛藤も表現する。ダミアンと疎遠になった娘の関係、そしてもうひとつのある家族など、人間ドラマも胸に突き刺さる。
Photo by AFLO