オスカー作品『マリウポリの20日間』は今、絶対観ないといけない衝撃ドキュメンタリー
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アカデミー賞は日本の映画興行も大きく左右する。今年も『オッペンハイマー』のように、アカデミー賞に絡むと見込まれ、日本での劇場公開日が設定された作品も多い。しかし受賞によって急遽、公開が決まった映画もある。『マリウポリの20日間』はそんな一作だからこそ必見だ。
今年のアカデミー賞受賞のスピーチの中で最も鮮烈だったのが、長編ドキュメンタリー賞に輝いた『マリウポリの20日間』のミスティスラフ・チェルノフ監督だ。オスカー像を手にしたステージ上で、彼は“この映画が作られなければ良かった、などと言う最初の監督になるだろう”と切実な胸の内を打ち明けた。自分で撮っておきながらそんなことを訴えるのは、彼がウクライナ出身のAP通信社の記者だから。2022年に始まったロシアによる軍事侵攻に肉薄した本作は、監督にとって“最も目にしたくない光景”だったのは明らかである。2022年の2月、ウクライナ東部の都市マリウポリがロシア軍から攻撃を受け、取材に入ったチェルノフ監督は、その惨状をカメラで収めていく。当然のことながら、現地でしかわからない人々の姿、言葉で、冒頭から最後まで衝撃の時間が続く。
驚くのは、多くの人が目にしたことのある映像が出てくること。つまりチェルノフ監督が撮ったものが、ニュースとして世界に発信されていたのだ。ただ本作では、その裏事情も明かされる。電話やwi-fiがほとんど通じない状況になり、何とか現地の映像を送ろうとする苦闘。そしてロシア軍に包囲されたマリウポリ中心部から脱出できなくなる悲惨な孤立状況……。もちろんニュースでは露出できなかった、目を背けたくなる光景も出てくるし、現地の映像が作り物、つまりフェイクニュースだとの疑惑に対する答えも用意される。本作は2023年に一度、NHK-BSで放映されているが、劇場のスクリーンで向き合うことで、ドキュメンタリーとしての臨場感を味わえる人も多いはず。目の前で亡くなる人たちに、なす術もなく涙する医師や看護師の姿に、今も終わらない戦争への怒りが沸々と湧き上がるのは間違いない!
『マリウポリの20日間』4月26日公開
製作・監督・脚本・撮影/ミスティスラフ・チェルノフ 配給/シンカ
2023年/ウクライナ・アメリカ/上映時間97分
(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
photo by AFLO