3月末に日本で第5戦の“2024トウキョウ E-プリックス”が初開催され、話題を集めたフォーミュラE。化石燃料を使用しない次世代のモータースポーツカテゴリーとして注目を集めているが、実は参戦するチームが活躍するためにIT技術も重要な役割を果たしているってご存知? 果たして、フォーミュラEにおいてIT技術はどんな仕事を担い、勝利に貢献しているのだろう。タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームとタッグを組み、共にレースを戦っているリーディングカンパニー〈ケイトネットワークス〉のキーパーソンに語ってもらった。
Etay Maor[イタイ・マオル]
イスラエルに本社を置く〈ケイトネットワークス〉のセキュリティ戦略担当シニアディレクター。業界で著名なサイバーセキュリティ研究者で、〈ケイトネットワークス〉入社以前は、IBM のエグゼクティブ・セキュリティ・アドバイザーとして侵害対応トレーニングやセキュリティ・リサーチを構築・指揮した実績を持つ。
フォーミュラEは、全電動国際シングルシーターチャンピオンシップとして22014-2015年シーズンにスタートし、2020年にはFIA(国際自動車連盟)主催の世界選手権に成長した国際レース。このフォーミュラEに、〈ポルシェ〉のワークスチームであるタグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームも2019年から参戦。2021-2022年シーズンで初優勝を果たし、チャンピオン争いを繰り広げている同チームの躍進をIT技術で支えているのが、SASE(サシー)プラットフォームにおけるリーティングンパニーの〈ケイトネットワークス〉だ。このSASEというIT技術は、フォーミュラEにおいてどんな役割を果たしているのだろうか。同社のセキュリティ戦略担当シニアディレクターのイタイ・マオルに聞いてみた。
「〈ポルシェ〉は、レース中にドイツにあるチーム本部と連携をとりながらレースを戦っています。マシンに搭載された複数のコンピューターからリアルタイムでクラウドに送られてくるデータをIT ネットワークを駆使して分析し、重要な戦略的な判断を瞬時に下す必要があるため、通信速度の速さや安定性がレースの結果を大きく左右するわけです。こうした判断を素早くかつ安全に下すためのネットワークとセキュリティを一元管理するプラットフォームがSASEであり、〈ポルシェ〉のチームは私たちのSASEを使うことで安心してレースに集中する環境を手に入れることができるわけです」
加えてフォーミュラEでは、レース中にアクティベーションゾーンという区間を通過することで一時的にパワーレベルを上げることができ、各マシンにはこれを計2回の通過する義務が課されている。ここを通過することにはタイムやポジションを落とすリスクが伴うため、いつ通過するかの判断も重要。その決断するうえではタイヤの温度などのデータを分析しながら素早く判断する必要があり、こうした部分でも同社のSASEプラットフォームが重要な役割を担っているとういう。そんな〈ケイトネットワークス〉は、タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームとは2022年にパートナーシップを締結し、共にレースを戦ってきているがどんな印象を抱いているのだろう。
「モータースポーツ業界とタッグを組んだのは初めてでしたが、彼らが持っているビジョンや価値観の部分で当社と非常にマッチすると感じ、セキュリティ分野を中心に私たちが培った技術を役立ててもらうことができるという思いからパートナーシップを結びました。フォーミュラEのレースでは刻一刻と状況が代わり、秒単位の判断がレース展開を左右しますが、こうした時間的な制約が非常に厳しい戦いにおいて〈ポルシェ〉は非常にプロフェッショナルな意識と技術を持ったチームです。レースというとドライバーがマシンに乗って走ることだけが重要のように考えられてしまいがちですが、彼らはレース中のデータ分析はもちろん、レース前に様々なシミュレーションを行いながらデータを蓄積してから実際のレースに挑んでいます。よい結果を出すためには、ドライバーがマシンに乗る前に行うそういった作業が非常に重要であることも、是非知っておいていただきたいと思います」
日本初開催となった“2024トウキョウ E-プリックス”では、タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームから4台の“ポルシェ99Xエレクトリック”が参戦し、トップ6入りを果たした。今後は、どんな未来を思い描いているのだろうか。
「今後もやはり〈ポルシェ〉がレースに集中して結果を出せる環境を、セキュリティとネットワークの部分でサポートしていきたいですね。そして、目指しているのはもちろん、フォーミュラEのシーズン王者の座をチームが獲得することです。同時に現在、私たちは金融業界や製薬業界を始め、2200以上の顧客にSASEプラットフォームを供給していますが、フォーミュラEでの実績によってさらに多くの企業に私たちの存在を知っていただけたら嬉しいですね」
これからのタグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームの活躍とSASEプラットフォームの発展に注目していきたい。