〈アイ・ダブリュー・シー〉アクアタイマー “IWC AQUA TIMER”
ガラパゴス諸島の美しい海で、ウミガメが悠々と泳ぐ。 〈IWC〉のダイバーズウォッチ“アクアタイマー”は、この豊かな自然環境を未来に遺すことにも貢献する。 操作性に優れたアウター/インナーベゼルを備える屈強な外観に、50余年の試行錯誤の末、いきついた。
“エクスペディション・ チャールズ・ダーウィン”
ケース径44mm、自動巻き、ブロンズケース、ラバーストラップ。108万円(IWC)
オマージュを捧ぐ
進化論を唱えたダーウィンをオマージュする特別モデル。 ガラパゴス諸島での調査船HMSビーグル号の随所に使われたブロンズが、外装素材に用いられている。その内には、時分同軸積算計を6時位置に持つ、自社製クロノグラフが。裏蓋には、ダーウィン肖像画が刻まれる。
➊アウター/インナーベゼル
アウターベゼルを回し、ダイビングスケールを刻むインナーベゼルを操作する。現行アクアタイマーがたどりついたアウター/インナーベゼルは、唯一無二の存在。操作性に優れ、 ダイビングスケールが傷つくこともない。
➋切りこみを持つアウターベゼル
グローブをつけたままでも操作しやすいよう、 現行モデルのアウターベゼルには、大ぶりな切りこみが入れられている。そのデザインは、1982年誕生の“オーシャン2000”がモチーフ。 見た目もスッキリとしてお洒落だ。
➌植字バーインデックス
シンプルで、だから見やすいバーインデックスは、初代アクアタイマーからの伝統。1998年発表のGST以降は、12時のインデックスをダブルとすることで、視認性をより高めた。すべてのインデックスには蓄光塗料を塗布。
ヒストリカルピースでたどる
サーフィンをはじめとするマリンスポーツの大ブームが巻き起こっていた1967年、〈IWC〉初のダイバーズウォッチ”アクアタイマー”は誕生した。最大の特徴は、潜水時間の計測を一 般的な逆回転防止ベゼルではなく、第2のリュウズで操作するインナーベゼル式 とした点にある。ダイビングスケールの目盛りが外側に出ないため、傷がつかないのがインナーベゼル式のメリット。アウター式よりも外観がスッキリとして、 スタイリッシュにもなる。このスタイルは、第2世代にも受け継がれた。
初代アクアタイマーは、4時位置のリュウズでインナーベゼル操作する仕組みを採用。海中でリュウズに水圧がかかると、内部のパッキンが膨らみ水の浸入を防ぐ CAT という構造で、200mの防水性能を得ていた。 ストラップは、型押しの樹脂製。独自のペラトン式自動巻きを搭載
アクアタイマーの第2世代。クッション型のケースが、 なんともレトロ。5分単位のアラビア数字目盛りを置いたインナーベゼル式や5連ブレスレットとも相まって、 ダイバーズらしくない外観を持つ。赤グラデのダイヤルもお洒落。しかし防水性能は30気圧にアップ
そして1982年、後の〈IWC〉のダイバーズに大きな影響を与えるモデルが誕生する。ドイツ連邦海軍の要請に応え、ポルシェ・デザインと共同開発したミッションダイバーズと、その市販モデルである“オーシャン2000”だ。次のページで詳細は紹介するが、このモデルのために開発された構造や機構によって、〈IWC〉のダイバーズは大きく進化を果たすこととなった。
その象徴が、後継機である1998年に誕生した“GSTアクアタイマー”。2000m防水のダイバーズは大ヒット。〈IWC〉のダイバーズ=頑強とのイメージを浸透させた。またこのモデルで採用された、押して回すというアウターベゼルの構造も、“オーシャン2000”からの継承である。
ドイツ連邦海軍からの要請で、ポルシェ・デザインと共同開発した機雷除去にあたる兵士用のダイバーズ。ケースは耐磁性に優れたチタン製で、ムーブメントも耐磁仕様。後述する“オーシャン2000”はポルシェ・デザインと協業した市販モデル
オーシャン2000の技術を用いた後継機"GST アクアタイマー 2000”。ケースとブレスレットは、チタン製。SS 仕様も用意された。押しながら回すアウターベゼルの構造も、オーシャン2000譲りだ。防水性能は、驚異の2000m! ダイヤルのデザインは、現行アクアタイマーと酷似
1999年には機械式水深計を、2004年にはスプリット分針を開発。メカでも優れた独創性を発揮する。これら第4世代のベゼルはインナー式。しかし2009年に発表された第5世代では、再びアウターベゼルが採用される。ベゼルはインナーかアウターか? その最終的な答えを出したのが、2014年に誕生した現行モデル。アウターベゼルでインナーベゼルを操作するアウター/インナーベゼルによって、第6世代のアクアタイマーは、究極の操作性を手に入れた。
水圧の変化を検知して推進を示す機械式水深計を装備する“GST ディープワン”。 この画期的でユニークな機構は、現行モデルにも受け継がれている。このモデルで、 インナーベゼル式に戻された。ケースとブレスはチタン製で、100m防水
2つの分針を持つ“アクアタイマー・ スプリット・ミニッツ・クロノグラフ”。左側のボタンで通常は重なっている分針の一方をクロノグラフのようにスタート・ストップ・リセットでき、潜水時間とは別に浮上時間などの分単位の計測を可能に
アクアタイマーの第5世代。 ベゼルは再びアウター式となった。ベゼルの目盛りが傷ついて消えないよう、表面をサファイアクリスタルで保護していた。写真のモデルは、 時分同軸積算計を持つ自社製クロノグラフ搭載のゴールド仕様。12気圧防水
現行アクアタイマーの押しながら回すアウターベゼルの構造と切りこみを持つ形状は、前述のように1982年誕生の“オーシャン2000”が規範。考案者は 、ポルシェ・デザイン。ドイツの工業デザインとスイスの時計製作技術とが融合し、時計史に残る傑作は生まれたのだ。
ケース径42mm、自動巻き、チタンケース&ブレス
チタン製ダイバーズ!
1982年に完成し、翌年のバーゼルでお披露目されたスイス製初のチタン製ダイバーズ。その外観は今見ても新鮮。サイズも、当時としては大型でイマドキだ。ケースとなめらかなラインで繋がるブレスレットが、いかにもポルシェ・デザインらしい。ヴィンテージ時計市場で、人気が高いのもうなずける。
靴やバッグ、筆記具など多彩なアイテムが揃うポルシェ・デザインが、最初に世に送り出した製品は、腕時計だった。そしてより優れた時計製作技術を求め、1970年代後半に〈IWC〉とパ ートナーシップを締結した。'78年にコンパスウォッチを、'80年にはスイス製初のチタン製腕時計“チタニウム・クロノグラフ”を発表。チタンケースを自社で手掛けたことが、後に〈IWC〉にとって大きな強みとなった。
ちょうど同じ頃、ドイツ連邦海軍は取引先の各社にダイバーズウォッチの製作を打診していた。求められた条件は、防水性と視認性、耐衝撃性に優れていることに加え、磁気機雷除去でも使える高い耐磁性能だった。チタンは弾性に富み、かつ磁気帯びもしない。 つまり耐衝撃性と耐磁性とを高めるのに最適な素材なのだ。
フェルディナント・アレクサンダー・ ポルシェは、このチタンを用いて海軍の要求に応えるダイバーズをデザインした。 機能性を追求する彼は、押さないと回せない、誤操作が少なく操作もしやすい回転ベゼルを考案。また内部にヘリウムガスが入りこまない、気密構造をケースに与えた。
高気密にするため、ケースは肉厚となるが、チタンだから重くもならない。そしてリュウズには〈IWC〉ではじめて、ねじこみ式が採用された。こうして完成したダイバーズは、1982年にドイツ連邦海軍に正式採用され、“オーシャン2000”の名で市販化もされた。
Ferdinand Alexander Porsche
ポルシェ創業者フェルディナント・ポルシェの孫。1957年に〈ポルシェ〉のデザイン部門に参画。911や904、906などの名車のデザインを手掛けた。’72年に独立し、ポ ルシェ・デザインを設立。自動車だけに留まらず、バイクやカメラ、時計、サングラスなど多くの作品を遺す
1982年当時のオーシャン2000の構造図。ベゼルの断面部分には、 上から押さえるとロックが外れる機構が見えている。リュウズは、〈IWC〉初のねじこみ式。内部に3重のパッキンを仕込み、高防水を叶えた
厚く気密性の高いチタン製ケースによって、市販モデルも防水性能は、驚異の2000mを実現。これが、モデル名の由来だ。以降〈IWC〉のダイバーズは、 頑強なプロ仕様を志向することとなる。そして“オーシャン2000”を特徴づけた回転ベゼルの機構と外観とを規範とする現行アクアタイマーは、ブランドのヘリテージを現在に伝える。
SSよりも50%近く軽いチタンを、〈IWC〉はスイスでいち早く採用した。熱伝導率にも優れているため、切削時に削りクズが発火することもあり、慎重な加工が要求される。“オーシャン2000”で使われたのは、汎用性が高いグレード2。現在はより高品質なグレード5を使用する
その実力を改めて知る
アウターベゼルを押しながら回すと、目盛りを刻んだインナーベゼルが連動する。操作しやすい逆回転防止ベゼルと目盛りが完璧に保護できるインナーベゼル、双方の長所を組み合わせた画期的なアウター/インナーベゼルを初採用した現行アクアタイマーは、2014年に誕生した。高性能なダイバーズクロノやガラパゴス諸島のダーウィン財団に加え、クストー財団とのコラボモデルもあり、海洋保全を提唱する。
ケース径45mm、自動巻き、ラバーコーティングSSケース、ラバーストラップ。108万円(IWC)
マットブラックを表現
外観は、溶岩が固まったガラパゴス諸島の岩場をイメージしたもの。裏蓋には固有種の海イグアナのリアルな姿をエングレービングした。
ケース径44mm、自動巻き、SSケース、ラバーストラップ。74万5000円(IWC)
アクアラングの生みの親でも ある海洋学者クストーへオマージュを捧げるダイバーズクロノ。彼の肖像を裏蓋に刻み、海の青をダイヤルに写した。売り上げの一部は、クストー財団の活動支援に充てられる。
ケース径44mm、自動巻き、SS ケース&ブレス。83万5000円(IWC)
ダイバーズクロノのベーシック機。ブラックのダイヤルには、デイデイトも装備する。 ソリッドなブレスとの組み合わせは、よりスポーティ。スッキリしたアウターベゼルと相まって、スーツにも合う。
ケース径42mm、 自動巻き、SSケース&ブレス。68万5000円(IWC)
ベーシックな3針モデルは、 ケースも小ぶり。しかし30気圧の屈強な防水性能は保持する。ブラックのダイヤルに、分針や目盛りに施したスーパールミノヴァのグリーンが、絶妙なアクセントになっている。
新ファクトリーは、大きくヒサシを伸ばしガラスで囲ま れた外観がモダン。内部も見学を想定した設計に
2018年8月、〈IWC〉の新工房“マヌファクトゥールツェントルム”が完成した。これまで数カ所に分散していた製造拠点を、ひとつに集約。しかもその製造工程の多くが、見学できるのだ。時計製作の現場をオープンにすることで、精巧な〈IWC〉の魅力を伝えるのが目的。ガイド付き(英語・ドイ ツ語)の見学ツアーも実施していて、サイトから申し込みができる。https://www.iwc.com/ja/home.html
●IWC
TEL:0120-05-1868
text : Norio Takagi