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CULTURE カルチャー

2021.07.04

『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.3

 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

コロナ禍を受けつつ米ロサンゼルスで催された、第93回アカデミー賞授賞式(日本時間:2021年4月26日)。その主演男優賞に輝いたのは、なんと83歳になったハンニバル・レクター博士だった!

そう、サー・アンソニー・ホプキンス(1937年生まれ ※サーはナイトの称号)。対象作は舞台劇の映画化である『ファーザー』(2020年/監督:フロリアン・ゼレール)。授賞式の当日、彼は故郷の英ウェールズに居て会場には欠席していたが、認知症のため現実と幻覚の区別がつかないお父さん役で神すぎる名芝居を披露し、史上最高齢での主演男優賞を獲得したのだ。

そんな名優ホプキンスがオスカーを手にしたのは29年ぶり。前にアカデミー賞主演男優賞を受賞したのは、ご存じ、狂気の人喰い博士を演じた『羊たちの沈黙』(1991年/監督:ジョナサン・デミ)である。 

 
 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

オーバー40の映画ファンならみんな大好き、『羊たちの沈黙』は第64回(1992年度)アカデミー賞で主要5部門を獲得。“ホラー映画”のカテゴリーに属するもので作品賞に輝いたのは史上初であり、いまだにこの1本だけだ。

当時、インディーズ出身の知る人ぞ知る監督だった40代のジョナサン・デミが、監督賞で自分の名前を呼ばれた時(プレゼンターはケヴィン・コスナー!)、「いやもう、まさか僕が受賞できるとは……マジでびっくりしました。身分不相応な栄誉をいただいて恐縮です!」(※筆者超訳)みたいなスピーチを初々しく放っていたのが懐かしく想い出される。 

 
 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?
ジョナサン・デミ監督

そんなデミ監督も、『フィラデルフィア』(1993年)や『レイチェルの結婚』(2008年)などの傑作を遺し、2017年に73歳で逝去してしまった。

さて、無数のフォロワーを世界中に生んだ『羊たちの沈黙』のエポックメイキングなツメアトは、少なく見積もっても以下の3点がある。

①知的な連続殺人鬼が活躍するサイコスリラーを確立
②“プロファイリング”を一般認知に拡大
③タフな女性FBI捜査官というヒロイン像の画期
 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

まず①から。高名な精神科医であり、リトアニア貴族の血統を引き、IQは160とも200とも噂されるハンニバル・レクター博士。この堂々たる超インテリの超エリートが、稀代の猟奇殺人鬼であり、人間の臓器をペロリと食べる異常なグルマン(特に脳みそが大好物)だという設定はとにかく衝撃だった。博士はアートにも造形が深く、自ら殺害した監視員の変死体を美的に装飾して独房に“展示”してしまう!
 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

もちろん“ハンニバル・ザ・カニバル”(人喰いハンニバル)とダジャレ的な異名を取る博士のキャラクター自体は、原作者のトマス・ハリスが創作したものだ(最初は1981年刊行の小説『レッド・ドラゴン』で登場)。しかしそれを魅力的な人気キャラクターにまで高めたのは映画『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンスである。
 
 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

それまでの映画で登場していたシリアルキラーはいかにも怪物然としたキモい男ばかりだったが、ホプキンスの優雅で知的で気品漂う佇まいは変態犯人像に新しい説得力を付与した。ある種“神”のごとき高踏的な立ち位置で、凡庸な体制側や一般大衆を翻弄する殺人鬼。

それがまもなく『セブン』(1995年/監督:デヴィッド・フィンチャー)や『コピーキャット』(1995年/監督:ジョン・アミエル)などへと派生し、『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年/監督:本広克行)では小泉今日子がレクター博士の女性版的な犯人像を演じていた。
 
 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?

②と③に関しては、ジョディ・フォスター扮するFBI捜査官の訓練生クラリス・スターリングという、これまた秀逸なヒロイン像にまつわる要素。筆者はテレビ朝日系の超ロングランシリーズ『科捜研の女』(1999年~)の沢口靖子を見るたび、これだって元ネタは『羊たちの沈黙』のクラリスだよなあ……との思いが頭をよぎるのだ。

そう、『羊たちの沈黙』の大ヒットがきっかけで、日本のお茶の間のご年配層にまで何となく広まったのが“プロファイリング”という言葉である。

プロファイリングとは行動科学や犯罪心理学の見地から、過去のデータと犯罪パターンを照らし合わせて犯人を推論していく捜査法。日本では検死官とごっちゃになっているという指摘もよく見られるが(例えばテレビ朝日系『臨場』の内野聖陽は検死官)、見習いFBIのクラリスは上司の指令により、バッファロー・ビルという凶悪な猟奇殺人犯の捜査のため、精神病院に収容されているレクター博士にプロファイリングの協力を乞いに出向く。いま思うと「それってパワハラでは?」と訴えられてもおかしくないほど危険な任務だ。
 

 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?
ジョディ・フォスター

このクラリス役を、レイプ問題に批判の刃を入れた『告発の行方』(1988年/監督:ジョナサン・カプラン)でもアカデミー賞主演女優賞を受賞し、当時からフェミニストとして知られていたジョディ・フォスターが演じたのも大きい。現在の彼女は写真家の女性と同性結婚しているが、その硬質な存在感があってこそ、#MeToo以降も『羊たちの沈黙』は歴史的なマスターピースとしての支持が高いのだろう。
 
 
『羊たちの沈黙』が映画界に残したものとは?
アンソニー・ホプキンス

一方、アンソニー・ホプキンスにとってレクター博士はあまりにも当たり役となったため、「渥美清といえば寅さん」ばりの呪縛に絡め取られたことも事実だ。かなり間が空いた続編『ハンニバル』(2001年/監督:リドリー・スコット)と『レッド・ドラゴン』(2002年/監督:ブレット・ラトナー)でもレクター博士を演じているが、役柄の固定イメージから逃れるための葛藤はあったのかもしれない。
その意味でも『ファーザー』でのオスカー受賞は本当に拍手! ちなみに実際のホプキンス自身は人喰いどころかベジタリアンだっていうのも笑える。

『羊たちの沈黙』
製作年/1991年 原作/トマス・ハリス 監督/ジョナサン・デミ 脚本/テッド・タリー 出演/ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン 世界興収/2億7200万ドル
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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