世の中はどんな仕組みになっている!?
政治のカラクリに気づかされる映画5選
「なぜあの国は、頻繁にミサイルを発射するのか?」「どうして、あの国は銃を規制しないの?」世の中のニュースを見ていると、不思議に思うことばかり。そこで、そんな疑問を解明してくれる一助となる映画をご紹介。フィクションの中にまぶされた真実に気づかされるかも……!?
『工作 黒金星と呼ばれた男』
製作年/2018年 監督/ユン・ジョンビン 出演/ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、チョ・ジヌン
北のミサイル発射は韓国がお願いしている!?
韓国と北朝鮮。世界でも唯一、同じ民族の中で緊張関係が続く関係にあるため、韓国映画でもその攻防は常に描かれてきた。日本に暮らす我々は、そのあまりに衝撃的な事実をこうして映画で知ることができる、というわけ。
北朝鮮の核兵器開発を探るため、韓国軍の情報部隊の将校が、スパイとして潜入する物語。コードネーム"黒金星(ブラック・ヴィーナス)"という主人公は、韓国のスパイ史上で最も成功をおさめた対北工作員として有名だ。黒金星はやがて、当時(1990年代)の北朝鮮の最高指導者、キム・ジョンイルとも接見することに!
ビジネスマンとして北朝鮮高官や上層部から信頼を得ていく、地道で慎重な工作活動。そして、北朝鮮側で韓国のCMを撮影するというネゴシエーションなど、実在の人物をモデルにしつつ、フィクションとしての大胆な展開が見どころ。
しかし最も驚くのは、韓国側の"裏工作"。スパイを使って北朝鮮に武力挑発させ、国民の危機をあおって、次の選挙で与党に勝利させる……というシナリオだ。
もちろんここもフィクションだけど、選挙のために信じがたい戦略をとる政治の闇は、実際にほかの国でも行われていそう。そんなことを考えさせられ、背筋も凍る!
『女神の見えざる手』
製作年/2016年 監督/ジョン・マッデン 出演/ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング
世界の運命を握るのはロビイスト!?
裁判で争うなら弁護士が必要だし、俳優が仕事を得るためには事務所やマネージャーが必要。大きな仕事が発生するところでは、必ずこうした"代理人"としてのエキスパートが存在する。
今作の主人公の職種は"ロビイスト"。日本ではあまり聞かれない言葉だが、アメリカの政治の世界では常識的。おもに特定の団体から受けた依頼を、政党や議員に働きかけ、マスコミも操作しながら実現させる、つまり、スゴ腕の仲介人である。大統領選挙やオリンピック招致なども、ロビイストの腕次第で結果が変わる、といっても過言ではない!
この映画の主人公エリザベスは、ワシントンD.C.でも、その名をとどろかせるほど有能な政治ロビイスト。銃規制を強める法案を、なんとか通さないようにとの依頼を、大物議員から受ける。しかし信念に従って依頼を断り、別の小さな会社へ移ってまで、銃規制支持のロビー活動を展開する。
設定自体は、とても映画的でドラマチックだが、アメリカでの根深い銃保持論争も、こうしてロビイストの力で左右されている部分もあり、世界の運命を裏で握っている仕事だと納得。さらに敵対相手がエリザベスのスキャンダルを暴こうとするなど、裏の裏まで切り込んだドラマが圧巻!
『バイス』
製作年/2018年 製作・監督/アダム・マッケイ 出演/クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーブ・カレル
有能な側近が世界を安定させる!?
自国の先行きを決めるだけでなく、世界の運命をも左右するほどの権力の持ち主といえば、アメリカ大統領。ただし歴代の大統領を眺めると、「この人で大丈夫なのか?」という顔を見受けられるのも事実。
なかでも2001年〜2009年の2期を務めたジョージ・W・ブッシュは"残念"という評判が多い。そんなブッシュでも大統領職を続けられたカラクリのひとつは、副大統領(バイス・プレジデント)のディック・チェイニーの存在。彼は、世界を密かに牛耳る、まさに"影の大統領"だったというわけ!
この映画はチェイニーの若き日から、副大統領時代、さらにその後まで続くが、ブッシュのキャラクターが必要以上に"軽く"描かれたりして、皮肉やユーモアもたっぷり。
そんなブッシュを、調教するかのごとく、うまく動かしていくチェイニーの手綱さばきが鮮やか。人の前に立つ最高権力者より、有能な側近がいた方が、国および世界が安泰……というのは、現代社会の揺るぎない真実かも!? チェイニー役のクリスチャン・ベールを中心に、ブッシュのサム・ロックウェルら、揃いも揃った芸達者スターたちの演技は必見だ。
『スーパー・チューズデー〜正義を売った日〜』
製作年/2011年 製作・監督・出演/ジョージ・クルーニー 出演/ライアン・ゴズリング、フィリップ・シーモア・ホフマン
アメリカの選挙制度の裏側がわかる!
スーパー・チューズデーとは、アメリカ大統領選が行われる年の、3月の第2火曜日のこと。この日に行われる大統領候補への予備選挙で、大量の代議員の意向が反映されるので、勝利者が大統領に一歩近くのだ。2020年の場合も、民主党で誰がトランプの対抗馬になるかで注目を集めた。
この映画は、スーパー・チューズデーに挑む有力候補の若き選挙広報官を主人公に、対立する陣営との攻防を赤裸々に描いていく。一見、堅めの政治ドラマっぽい物語だが、候補者役を演じたジョージ・クルーニーが監督も務め、テンポよく、軽快に演出してるので、すんなり入り込めるのが特徴。
つまりこの映画、観ているだけで気軽にアメリカの政治がお勉強できちゃうという"すぐれもの"なのである。大統領選のシステムがわかりやすく盛り込まれているし、共和党と民主党のポリシーの違いもサラッと描かれていて納得。
そこに選挙の裏で進行するドロ沼の利権争いに、スキャンダルにつながる"下半身ネタ"が絡んでくる。実話の映画化ではないけれど、"政治・選挙あるある"な世界を、エンタメとして楽しませる逸品だ。
『華氏119』
製作年/2018年 製作・監督・出演/マイケル・ムーア 出演/ドナルド・トランプ、バーニー・サンダース
アメリカ社会の裏でうごめく権力に気づかされる!
世界や政治の"カラクリ"を、強引ともいえる突撃取材で解き明かす映画作家といえば、この人、マイケル・ムーア。トランプへの強烈な批判も辞さない彼が、そのトランプが大統領になった直後に放ったのが、このドキュメンタリー。
今作の14年前にも似たようなタイトルの『華氏911』で、ブッシュ大統領の再選を阻止しようともくろんだムーア。作品自体はカンヌ国際映画祭のパルムドールなど高く評価されつつも、残念ながらブッシュは再選。その怒りを今回はトランプにぶつけたのか……と思いきや、意外なネタが満載の内容になっているのだ。
メインとなるのはトランプがなぜ大統領選に勝利したのかという分析。このあたり、マイケル・ムーアらしい軽いノリも入れて展開するので、実にわかりやすい。ヒラリー・クリントンが敗北した解説も"なるほど"と納得。
そこから汚染水問題、教師のストライキ、銃乱射事件で生き残った高校生のデモ活動と、かなり唐突なトピックへと広がっていく。見方によっては"まとまりがない"と感じるかも。でも多くの問題がリンクして、裏でうごめく権力に気づかされたりと、トランプ大統領後のアメリカ社会の不穏を知るには、最適の一本!