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CULTURE カルチャー

2024.05.25

クリス・ヘムズワースが語る『マッドマックス』との縁
「1作目のスタントマンは父親の知り合い」


【Profile】クリス・ヘムズワース/1983年8月11日生まれ、オーストラリア出身。『スター・トレック』(2009年)でハリウッド・デビュー。兄ルーク、弟リアムも俳優として活躍している。

前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から9年。待望の新作となる『マッドマックス : フュリオサ』は、前作の重要キャラであるフュリオサの“過去”にさかのぼる物語。当然、メインキャストも一新されたわけだが、その一人が『マイティ・ソー』、『タイラー・レイク』などで今やハリウッドのアクション大作で欠かせない存在になったクリス・ヘムズワースである。
 

 
世界の崩壊から45年。“緑の地”と呼ばれる場所で暮らしていた少女フュリオサがバイカー軍団に連れ去られる。彼女を迎えるのが、覇権を狙う暴君のディメンタス将軍。やがてたくましく成長したフュリオサは、彼と対峙することになる。そのディメンタスを演じたのが、クリス・ヘムズワースだ。作品の世界観どおり、マッド(狂気)を体現した豪快で、憎々しいキャラに、持ち前の鍛え抜かれた肉体で応えたクリス。一時、“認知症発症の確率が高い遺伝子を受け継いでいる”と判明し、俳優業を引退か……などというニュースが流れた彼だが、本人はその噂を完全否定。本作のシドニーでのプレミアに合わせたインタビューでは、元気そのものの姿で質問に答えてくれた。

オーストラリアのメルボルン出身のクリス・ヘムズワースにとって、『マッドマックス』の世界に入ることは夢だったに違いない。実際に彼は、子供時代に最も影響を受けた映画が『クロコダイル・ダンディー』と『マッドマックス』だったと明かしている。とくに『マッドマックス』を観たあとは、作品に出てきたバイクやクルマについて父親と熱く語り合ったそうだ。改めて夢が叶ったのかどうかを聞いてみる。
 
 
「オーストラリア生まれの僕にとって、『マッドマックス』はノスタルジックな気分に浸るのと同時に、オーストラリア映画の歴史で重要な作品という認識がある。『マッドマックス』1作目のバイカー軍団のスタントマンの何人かは僕の父親の知り合いなんだ。だからもし、若い時代の自分に声をかけることができるなら“夢が叶ったよ。おめでとう”と言ってあげたいね。もちろん現在の僕も、この作品に参加できたことに対し、素直にエキサイティングな気持ちさ」
 
  

 


『マッドマックス』1作目から監督を務めてきたジョージ・ミラーもオーストラリア出身。クリスにとっては故郷の英雄との仕事となる。監督とは撮影開始の2〜3年前から役柄について話し合っていたという。ジョージ・ミラーもクリスの意見に耳を傾け、さまざまなアイデアを取り入れていった。実際に現場での彼は、どのような監督だったのだろう。

「信じられないほどの想像力で、ユニークかつ予期せぬ世界を構築する。そして他の人とはまったく異なるエネルギーを本能から発する。ジョージ・ミラーはそんな監督だった。あれだけバイオレントで破壊的な描写を演出しながらも、カメラを回している裏側では面倒見が良くて、周囲の人々を育成しようとする気構えがあるんだ。本作がもし他の監督だったら、すべてが崩壊していたかもしれない。巨匠でありながらジェントルマンのジョージのような監督だからこそ、こうした映画を成立させられるんだよ」

クリス・ヘムズワースが演じたことで、ディメンタスは圧倒的なインパクトのキャラになったが、撮影時は準備も過酷だった。午前3時にホテルに迎えが来て、そこから4時間のメイクに耐え忍ぶ。じっとしているのが苦手なクリスは、メイク中は精神を集中するしかなく、本番でカメラの前で爆発させようと怒りを溜め込んだという。そしてこのディメンタス、乗り回すビークル(乗り物)も必見だ。名作『ベン・ハー』に出てきた馬車の、馬の部分をバイクに変えたスタイルは、あまりにも大胆! 乗り心地は良かったのか。
 

  

 


「いや、あのビークルは実用的ではない(笑)。でも見た目はクールだろう? ディメンタスのキャラクターは歴史の英雄にあやかって作られたんだ。おそらく彼自身、偉大な征服者や皇帝たちを意識的にマネしていたんだと思う。衣装はもちろん、マントの羽織り方で一目瞭然だ。あの馬車にしても、ローマ帝国時代の戦争の話をヒントに自ら演出した結果なのさ。馬をバイクに変えることで独自の英雄像を作り上げたんだろうね」

ディメンタスは、前作『怒りのデス・ロード』にも登場したイモータン・ジョーと激しい確執を繰り広げつつ、フュリオサとは彼女の少女時代に出会った後に、劇的な運命へとなだれ込む。2人の因縁が本作のキーポイントになるわけで、フュリオサ役、アニャ・テイラー=ジョイとの関係性はクリスにとっても重要だった。アニャといえば、ここ数年、躍進がめざましい女優の一人。どんな刺激を受けたのだろう。

「アニャはものすごくパッションにあふれた人で、同時に協力的な性格の持ち主。一緒に演技をしながらインスピレーションをもらったよ。こうして気が合う相手との現場は、生産性も向上する感覚が味わえるし、何より素直に楽しい。アニャはフュリオサというキャラクターに敬意をもって演じている印象だった。これほどまで役を大切に扱っている人には、なかなかお目にかかれない。そんな彼女のアプローチに感動し、僕も見習わなくてはと改めて自覚させてもらったよ」

『マッドマックス : フュリオサ』のクライマックスを観た時、クリス・ヘムズワースからアニャ・テイラー=ジョイへのこの賛辞に納得する人は多いのではないか。2人の濃密な演技対決によって、伝説のアクションシリーズはさらにアップデートしたのである。

『マッドマックス : フュリオサ』5月31日公開
製作・監督・脚本/ジョージ・ミラー 出演/アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・パーク、ラッキー・ヒューム、リー・ペリー 配給/ワーナー・ブラザース映画
2024年/アメリカ/上映時間148分

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取材・文/斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
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