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CULTURE カルチャー

2024.03.16


【映画】リュック・ベッソン 80〜90年代の寵児が作品に込めたもの(2)


『トランスポーター』(2002年)

「10本撮ったら引退」宣言の撤回

ベッソンについて語る時、よく取り沙汰されるのがかつての「10本撮ったら引退」という言葉だ。しかし作品数はいつしか10本を悠に超え、引退発言は当たり前のように撤回された。

だが、かつてのベッソン作品を知る者として、2000年代に入ってからのベッソン作品は明らかに別物に見える。

今や地位や評価を手に入れ、あらゆる意味でのファミリーの長となり、「居場所を求める」という切なるテーマやそのための爆発的なエネルギーが彼の中で映画作りのモチベーションとして成立し得なくなっている様が伺えるのだ。
 

  

 

『96時間』(2008年)

逆に開花したのがプロデューサー業だ。世界的にシネコンが大量発生していく2000年代には、会社や映画産業全体を視野に入れ、『TAXi』(1997年)や『トランスポーター』(2002年)、さらには『96時間』(2008年)など、主人公の特殊能力がストーリーを際立たせる、観客がワクワクするようなコンテンツを次々とプロデュースし、後進のクリエイターたちに活躍の場を提供し続けた。

また、2000年代の中頃には『アーサーとミニモイ』3部作を手掛けているが、こういったファンタジーは往年のベッソンファンのためではなく、むしろ子供たち世代を楽しませる一心で生み出された作品と捉えていいだろう。
 

  

 

『ANNA/アナ』(2019年)

戦うヒロインを描き続けること
ただ、キャリアを通じて変わらないものもある。例えば、90年代初期に我々の熱狂させた『ニキータ』のアンヌ・パリロー的な“戦うヒロイン像”は、その後も何度となく形を変えて、はたまた違うモチーフを身に纏って、降臨し続けている。

それこそ『ジャンヌ・ダルク』(1999年)で"Follow Me!"と絶叫しながら突き進むミラ・ジョヴォビッチも鮮烈に脳裏に刻まれているし、かと思えば『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011年)ではアウンサンスーチーの半生に材を取るというかつてない試みも印象的だった。

ベッソンによると、彼の手掛けた作品群(プロデュース含む)には男性が主人公のものも多く、別段“戦うヒロイン”にこだわっているつもりはないのだとか。しかしそうは言っても、女性が主人公となる機会は、最近でも相変わらず多い。

『Lucy』(2014年)では脳内の未使用領域をめぐって主人公が未知なる力を覚醒させる。そして『ANNA/アナ』(2019年)ではどこか『ニキータ』の世界に回帰するかのように、主人公が自らの培った暗殺能力を駆使して生き抜いていく。

これからもベッソン作品からは、時代を先取った多様なヒロインが生まれ、自らの運命を切り開く死闘を繰り広げてくれるはずだ。
 

  

 

『DOGMAN ドッグマン』(2023年)

4年ぶりの新作に刻まれた異様なまでのエネルギー
そんなベッソンの久しぶりのカムバック作は、3月8日に日本公開した『DOGMAN ドッグマン』(2023年)。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズを主演に据えた、過去の作品と比べてもかなり異色の部類に入る快作にして怪作である。

主人公ダグラスは、幼い頃から親に虐待され、檻の中で無数の闘犬に囲まれて育った人物。そのため大人になったダグラスが唯一心を許せる存在は犬だけ。この男が衣食住を共にする無数の犬たちを引き連れて、一体どんな人生を織り成していくのかーーー。

回想形式で展開する本作は、初お披露目されたヴェネツィア国際映画祭で“ベッソン復活”との高評価で迎えられた。中には「ダークヒーロー映画のよう」との感想も見かけるが、筆者個人の印象としては、むしろ一人の人間の光と影をすべて抱きしめ、いかなる人生をも高らかに歌い上げようとする熱意と気高さを感じた。

言うなればベッソン作品の初期作にあった得体の知れないエネルギーを、実に久々に堪能できたような気がする。紛れもないフィクションではあるものの、おそらくケイレブ演じる主人公の人格には、ベッソンが生身のカラダで経験してきた寂しさ、孤独、怒り、居場所のなさ、それでもなお人生と格闘し続ける執念が、内包されているのだろう。

20代から30代にかけて一世を風靡したベッソンも、今や60代半ばになった。でも決して枯れてはいない。かといって巨匠風を吹かせてもいない。

いつもの彼の映画を人生に例えるなら、まさにここからが最高潮であり、真の見せ場となるところである。自身の監督作のために、いかなる珠玉のアイデアと脚本を準備しているのか。80年代からずっと作品を見続けてきた一人として、今後のベッソン作品にも注目していきたいものである。

『DOGMAN ドッグマン』
監督・脚本/リュック・ベッソン 出演/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ 配給/クロックワークス
2023 年/フランス/上映時間114分

※参考・引用文献:「恐るべき子ども/リュック・ベッソン『グラン・ブルー』までの物語」リュック・ベッソン著、大林薫監訳、辰巳出版、2022年

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Information

 

文=牛津厚信 text:Atsunobu Ushizu
Photo by AFLO
© Photo: Shanna Besson - 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.
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