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CULTURE カルチャー

2024.01.20

ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.23
『フェイス/オフ』が映画界に残したものとは?



「この10年のハリウッドのアクション映画を観れば、ジョン・ウー(呉宇森)の影響がいかに大きかったかが分かる」――これは『M:I-2』(2000年)が公開された際の、主演と製作を兼ねるトム・クルーズの発言だ。そう、『男たちの挽歌』(1986年)で香港ノワールと呼ばれる新潮流を巻き起こし、世界中の映画ファンを魅了したジョン・ウー監督(1946年生まれ、出身は中国広州市)は、90年代のハリウッドに殴り込みを掛け、もちろんそれ以降の21世紀にも深いツメアトを残した。そんなウー監督にとって『M:I-2』の前作であり、ハリウッド進出第3作に当たるのが1997年の金字塔『フェイス/オフ』である。
 

  

 

ジョン・ウー監督

いまでこそ『ソウ』『死霊館』『アクアマン』シリーズのジェームズ・ワン(1977年生まれ)や『ノマドランド』『エターナルズ』のクロエ・ジャオ(1982年生まれ)など、アメリカ/ハリウッドで活躍するアジア出身監督は結構増えてきたが(米国生まれのアジア系移民を加えればもっと多くなる)、その回路をまず切り開いたのは香港映画のビッグネームたちだ。『レッド・ブロンクス』(1995年)や『ラッシュアワー』(1998年)のジャッキー・チェン、『リーサル・ウェポン4』(1998年)のジェット・リーといったアクション俳優たちにやや先駆けて、ジョン・ウー監督は『ハード・ターゲット』(1993年)や『ブロークン・アロー』(1996年)といった映画を手掛けてハリウッド・デビューを果たした。当時の彼らの動きは97年の中国への香港返還を意識して、ワールドワイドな市場に活路を見出したことが大きいだろう。

ジョン・ウーと並んでもうひとり、ほぼ同時期にハリウッドの第一線に躍り出たエポックなアジア人監督には、台湾出身のアン・リー(1954年生まれ)がいる。もっとも彼の場合はイリノイ大学とニューヨーク大学で映画制作を学んだという経歴があり、学生時代にはスパイク・リー監督らとも親交を結んでいる。監督としては『推手』(1991年)や『ウェディング・バンケット』(1993年)といったインディペンデント映画で注目を浴び、『いつか晴れた日に』(1995年)や『グリーン・デスティニー』(2000年)、『ハルク』(2003年)、『ブロークバック・マウンテン』(2005年)や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)などの多種多様な大作を手掛けるようになった。

アン・リーが米国を拠点にしたアジア系監督の先駆的な出世頭だとしたら、対してジョン・ウーはベン・アフレック主演の『ペイチェック 消された記憶』(2003年)を撮ったあと、『レッドクリフ PartⅠ』(2008年)からは中国本土に拠点を移したため、ハリウッドのキャリア自体は長くはない。昨年、20年ぶりとなるハリウッド映画『Silent Night』(原題/2023年)を発表したが、かつての隆盛からすると涙が出るほど地味な扱いであった。
 

  

 


ただし”ツメアト度”で言えば、ジョン・ウーがハリウッドにもたらしたものはアン・リーよりも圧倒的に巨大ではないか。それはウー本人というより、アクション映画演出の”スタイル”である。例えば”二丁拳銃”。風になびくほど長丈の黒いコートを着た登場人物が、ジャンプして両手に持った拳銃をド派手に乱射する。それをロマンティックに捉える”スローモーション”。それはリアルなアクション描写を超え、ある種ダンスのような陶酔感を観客に与える。さらに”メキシカン・スタンドオフ”と呼ばれる、二人以上の登場人物たちがお互い銃を突きつけ合う構図。
 

  

 


もちろんこれらの”スタイル”は完全にジョン・ウーのオリジナルというわけではない。少年時代から猛烈な映画マニアであったウーは、古今東西のあらゆる映画から栄養をもらってたくましく育った監督だ。例えば香港とマカオで撮影された石井輝男監督の『ならず者』(1964年)をはじめとする、東映のヤクザ映画や日活の無国籍アクション映画。ジャン=ピエール・メルヴィル監督の『サムライ』(1967年)などのフランチ・フィルム・ノワール。スローモーションに関しては、『ワイルドバンチ』(1969年)や『ゲッタウェイ』(1972年)のサム・ペキンパー監督のお家芸を応用したものだ。またジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』(1964年)や『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)のようなミュージカル映画も大好物らしい。

これら先人から受けたバトンを独自に昇華する形で、劇画的とも評されるジョン・ウー美学が編み出された。そこから有象無象の作品群に彼の”スタイル”が浸透していったのである。

ゆえに『レザボア・ドッグス』(1992年/監督:クエンティン・タランティーノ)や『マトリックス』(1999年/監督:ラリー&アンディ・ウォシャウスキー)、あるいは後年の『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~2023年)といった、ウー・インスパイア系の有名作だけを特別視する必要はないのかもしれない。さすがに”白い鳩”だけはジョン・ウー印のブランドロゴのようなものなので、簡単にパクることはできないが、本当に数多くのアクション映画が”ロゴなしのジョン・ウー・スタイル”をファストファッションのようにコピーしている。それは意識的か無意識かを問わず、いまや定番のパターンやクリシェとして一般に広く溶け込んでしまったのだと言えるだろう。
 

  

 


前置きがえらく長くなったが、そんなジョン・ウーの”スタイル”(本物)が最高値で結晶したハリウッドでの代表作が『フェイス/オフ』というわけだ。製作・配給はパラマウント・ピクチャーズで、ニコラス・ケイジ(当時33歳)とジョン・トラヴォルタ(当時43歳)のW主演。ケイジは『リービング・ラスベガス』(1995年/監督:マイク・フィギス)でアカデミー賞主演男優賞を受賞、アクション大作も『ザ・ロック』(1996年/監督:マイケル・ベイ)や『コン・エアー』(1997年/監督:サイモン・ウェスト)に出演したばかり。トラヴォルタは『パルプ・フィクション』(1994年/監督:クエンティン・タランティーノ)で『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年/監督:ジョン・バダム)以来の再ブレイクを果たし、ウー監督の前作『ブロークン・アロー』にも出演した。まさに監督とW主演、三人全員が絶頂期。実際、トリプルピークポイントの仕事ならではの凄みが映画に反映されており、我々も観ているだけでハイボルテージの幸福感に包まれる。

お話はもともとSF的な物語だったのを(脚本はマイク・ワーブ&マイケル・コリアリー)、ジョン・ウーの意向でSF要素を大幅に削ったため、強引でわやくちゃな部分がそのまま残った。下手すれば陳腐なB級映画にしかならなかったはずだが、それを堂々A級の大作に仕上げたのは、ウー×ケイジ×トラヴォルタという黄金トリオならではの力業と言えるだろう。
 

  

 


メインモチーフは”顔面交換”。FBI捜査官とテロリストが最新の整形手術でお互いの顔面の皮膚を剥ぎ取り(Face/Off)、取り替えて移植するというエグい設定にはいま観ても度肝を抜かれる(もっとも人知れず対照的なふたりの立場を入れ替えるというアイデアは、マーク・トウェインの『王子と乞食』に似ているのだが)。ただしコインの表と裏のような敵対する男同士の宿命という主題は、香港ノワール時代からのジョン・ウー映画のど真ん中。特に傑作『狼/男たちの挽歌・最終章』(1989年)の義侠的世界を、ハリウッド流にスケールアップしたのが『フェイス/オフ』だという印象もある。『ハード・ターゲット』&『ブロークン・アロー』の前2作ではまだハリウッド・システムに呑み込まれている感が強かったが、『フェイス/オフ』ではいよいよ本領発揮。ジョン・ウーの作家性の真骨頂が存分に味わえるのだ。
 

  

 


激しい銃撃戦のシーンに『虹の彼方に』(Over the Rainbow)の美しい旋律を流す異化効果的な音楽の使い方。ニコラス・ケイジとジョン・トラヴォルタが鏡を挟んで互いに銃を向け合う、極めて映画的な必殺のメキシカン・スタンドオフ。海辺の教会にて、戦いの合図を告げるように空中を舞う白い鳩たちーー。うっとりするほど純正のジョン・ウー美学が、このハリウッド映画に刻まれたことの奇跡を改めて噛み締めたい。

『フェイス/オフ』
製作年/1997年 監督/ジョン・ウー 脚本/マイク・ワーブ、マイケル・コリアリー 出演/ジョン・トラヴォルタ、ニコラス・ケイジ、ジョーン・アレン、アレッサンドロ・ニボラ 
 

  

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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