『アレキサンダー』
製作年/2004年 監督・脚本/オリバー・ストーン 出演/コリン・ファレル、アンジェリーナ・ジョリー、アンソニー・ホプキンス、ジャレッド・レト
巨大帝国を築き上げた男を描く!
世界の歴史を振り返って、最も権力を発揮したカリスマ的な偉人を挙げるとしたら、その一人がアレキサンダー大王かもしれない。紀元前4世紀。急速に勢力を広げていたマケドニア国王の下に生まれたアレキサンダー。世界最強といわれていたペルシアを滅亡させた彼は、やがて巨大な帝国を築き上げた。現在に至るまで、ここまで地理的に勢力を広げた王はいない。20歳で即位し、32歳の若さで亡くなったそのアレキサンダーの生涯を、『プラトーン』や『JFK』で知られる鬼才、オリバー・ストーン監督が200億円といわれる製作費で描いた。
本作が追求するのは“王になろうとした男”というより、“王へと育てられた男”という側面。息子を王にするために手段を選ばない母の策略にも迫っていく。アレキサンダー役はコリン・ファレル。母のオリンピアスを演じたのがアンジェリーナ・ジョリー。実年齢はジョリーが1歳だけ上というのも公開当時に話題になった。若き王の大遠征では古代の様式美が再現され、要所の戦闘アクションは大スケールだが、あくまでも偉人の人間ドラマとして作られた印象。173分の長さで、偉大な王の真実が解き明かされていく。
『リンカーン』
製作年/2012年 原作/ドリス・カーンズ・グッドウィン 製作・監督/スティーヴン・スピルバーグ 出演/ダニエル・デイ=ルイス、トミー・リー・ジョーンズ、サリー・フィールド、ジョセフ・ゴードン=レヴィット
国と家庭で問題を抱えた偉人は難局をどう切り抜けた?
アメリカの歴代大統領で最もリスペクトされているのは誰か? 人によって答えは分かれるだろうが、ランキングをつければ必ず上位に入るのが、第16代大統領のエイブラハム・リンカーン。現在でもアメリカではリンカーンを“理想のヒーロー像”と捉えている人が多い。その偉大な足跡を後世に伝えようとしたのが、ハリウッドを代表するスティーヴン・スピルバーグ。『シンドラーのリスト』など“偉人”を描くことを得意とする彼が、題材に真摯に向き合い、骨太な感動作に仕立てた。リンカーン役のダニエル・デイ=ルイスは本作で3度目のアカデミー賞主演男優賞を受賞。面影がそっくりなのはもちろん、内面をにじませる名演を披露した。
アメリカを二分した南北戦争の末期、大統領の2期目を迎えたリンカーンは、奴隷制度の撤廃を定める合衆国憲法修正案を可決するべく、さまざまな策略を駆使。しかし南北戦争の終結も急がねばならない状況でもあり、リンカーン自身は家族の問題も抱えていた。国の一大事を乗り越えようとする大統領の苦闘に、誰もが共感する人間ドラマを巧みに絡ませた作りで、“偉人”の真実が鮮やかに伝わってくる。現在の各国のリーダーがお手本にするべき言動を、いくつも発見できるはず!
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
製作年/2017年 監督/ジョー・ライト 脚本/アンソニー・マッカーテン 出演/ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ
世界の運命を左右する決断をどう下した?
ヒトラーのナチス・ドイツがフランスへ侵攻した第二次世界大戦の初期。英国では海軍大臣で国民の支持も集めたウィンストン・チャーチルが首相に就任するも、失政が続き、窮地に立たされていた。やがてドイツ軍がフランスの海辺の町、ダンケルクへと進み、対岸の英国にも絶体絶命の危機が迫る。首相就任からダンケルクの戦いまでの27日間、チャーチルがどんな行動をとったのか? 世界の運命も大きく左右したとされるチャーチルの決断は、後に“偉人”として語り継がれるものであった。
本作のチャーチル役でアカデミー賞主演男優賞に輝いたゲイリー・オールドマン。その外見でサポートしたのが、日本出身のメイクアップ・アーティストのカズ・ヒロで彼もオスカーを受賞した。衣装にも実際にチャーチルが懇意にしてたテイラーが仕立てたスーツが使われ、“再現度”は満点。オールドマンによる演説シーンは圧巻だが、ウクライナのゼレンスキー大統領が引用したりと、チャーチルの言葉は後世にも受け継がれている。人類の歴史の転換点を映画で目撃したいと思っている人には最適の一本だ。
『エリザベス』
製作年/1998年 監督/シェカール・カプール 脚本/マイケル・ハースト 出演/ケイト・ブランシェット、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ
ゴージャスな歴史絵巻モノ!
歴史に名を刻む偉人は男性の比率が多いが、女性の代表格といえば、この人だろう。16世紀のイングランドで女王に即位したエリザベス1世だ。母親の違う姉のメアリー女王によってロンドン塔に幽閉されたエリザベスは、メアリーの病死によって、25歳で女王となる。政略結婚を迫られる彼女だが、愛する貴族がいたことでそれを拒否。スコットランドとの戦争や、国教会の設立、さらに暗殺未遂など波乱の運命に巻き込まれながら、女王として、そして一人の人間としてプライドを守る彼女の人生はドラマチックだ。
女性たちが火あぶりの刑に処せられるなど当時のイングランドを再現したショッキングな描写もあるが、基本的にはゴージャスな歴史絵巻モノとして酔わせる作品。エリザベス役のケイト・ブランシェットは、この世の者とは思えない神々しさを発揮する瞬間があり、観ていてゾクゾクするのは確実。同じくブランシェットが主役を演じた9年後の続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を併せて観れば、歴史の勉強になるのはもちろん、ブランシェットが現代最高の俳優であると納得してしまう。
『ラストエンペラー』
製作年/1987年 監督・脚本/ベルナルド・ベルトリッチ 出演/ジョン・ローン、ジョアン・チェン、坂本龍一
まさに激動の人生を歩んだ皇帝!
偉人というのは、その才能と野心で偉業をなしとげた歴史上の人物だが、偉人に“まつり上げられる”ケースもある。中国の清朝最後の皇帝、溥儀はそんなパターンだ。わずか3歳で皇帝の地位に就き、中国の近代化の波にのまれるように激動の人生を送った彼を描き、アカデミー賞では作品賞などノミネートされた9部門すべてで受賞を果たしたのが『ラストエンペラー』。満州国の戦犯として中国本土に護送され、自殺を図った溥儀。薄れゆく意識の中で、その過去が回想されていく。
北京の紫禁城(故宮)で世界初となるロケを敢行。500人もの重臣がかしずく即位式や皇后の輿入れ儀式などを、目を見張るようなスケールと壮大な美術で再現。当時の皇帝の日常に圧倒されまくる。成長してからは、時代に翻弄され苦悩を深める溥儀の姿に、偉人としての生々しい現実を感じる人も多いはず。文化大革命へと至る中国の歴史を体感しながら、贅を尽くした映像美、坂本龍一がアカデミー賞作曲賞を受賞したドラマチックなスコアに酔いしれる。芸術として最高レベルの“偉人映画”なのは間違いない。
Photo by AFLO