『クィーン』
製作年/2006年 監督/スティーヴン・フリアーズ 脚本/ピーター・モーガン 出演/ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェームズ・クロムウェル
王室映画の傑作!
2022年、96年の生涯を終えたエリザベス女王(エリザベス2世)。ドキュメンタリーやニュース映像以外で、その素顔が最も伝わってくる映画が本作だろう。背景となるのは、ダイアナ元皇太子妃の交通事故。すでに離婚で英国王室を離れていたダイアナの不慮の死に対し、王室の対応は冷たかったため、国民やマスコミから大きな反発を受けてしまった。そうした難局に、エリザベス女王、そして当時の首相トニー・ブレアがどのように対処したかが描かれていく。
事故の前から“不仲説”が噂されていたダイアナとエリザベス女王。しかし王室を離れたダイアナに対し、女王は公式に何かを発せられる立場ではない。そんな複雑な状況で、エリザベス女王がみせる苦悩を、ヘレン・ミレンが凛とした表情で名演。見事にアカデミー賞主演女優賞に輝いた。ちなみにミレンはTVシリーズ『エリザベス1世 〜愛と陰謀の王宮〜』で、16世紀に生きたエリザベス1世も演じている。『クィーン』は、女王としての威厳、そして人としての内面の両方をバランスよく描いた“王室映画”の傑作と言える。
『英国王のスピーチ』
製作年/2010年 製作総指揮・出演/ジェフリー・ラッシュ 監督/トム・フーパー 脚本/デヴィッド・サイドラー 出演/コリン・ファース、ヘレナ・ボナム・カーター、ガイ・ピアース
明るくキュートな子供時代がわかる!
エリザベス女王がメインではないが、父親のジョージ6世が主人公で、その娘として出てくるのが『英国王のスピーチ』。アカデミー賞では作品賞など4部門受賞。英国王ジョージ5世の息子、アルバートは吃音に悩まされていた。父の代理で任された演説もうまくこなすことができず、それを改善すべく、雇われたのが言語療法士のライオネルだった。やがてジョージ5世が亡くなり、長男のデイヴィッドが国王になるも結婚問題ですぐに退位。弟のアルバートがジョージ6世として即位し、第二次世界大戦の開戦を国民に向けて宣言するが、はたして彼は完璧なスピーチをすることができるのか?
王室の一員であるアルバートと、平民のライオネルの階級を超えた友情や、アルバートと妻の愛がドラマチックに描かれ、クライマックスの感動へつながっていく。子供時代のエリザベスは、父からペンギンの話を聞かされたり、開戦スピーチする父を見守ったりと、いくつものシーンに登場。明るくキュートながら、ちょっぴり生意気そうな性格が伝わってくる。本作で描かれた物語の後、もともと病弱だったジョージ6世は1952年にこの世を去り、25歳だったエリザベスが王位に就くことになる。
『エリザベス 女王陛下の微笑み』
製作年/2021年 製作総指揮・監督/ロジャー・ミッシェル 出演/ダニエル・クレイグ、マリリン・モンロー、ジョン・レノン、オプラ・ウィンフリー
スター俳優のようなオーラと美しさに魅了される!
エリザベス女王の素顔を知りたければ、在位70年の“プラチナジュビリー”に合わせて製作された、このドキュメンタリーが必見。2022年の4月から世界各国で劇場公開がはじまり(日本は6月)、その直後に女王は天国へ旅立ったことになる。この作品がユニークなのは、通常のドキュメンタリーのように、少女時代から晩年までを時系列で進むわけではないところ。“マーム(お母さん)”“ローマ市民”など独特のキーワード、テーマで区切られ、女王をさまざまな方向から紹介。作品自体、新鮮な構成だ。
競馬に一喜一憂し、時には軽いジョークも言う。一般の子供たちと和気あいあいと会話する。そんな女王の姿は人間味あふれており、一人の女性としてチャーミング。イギリス国民がなぜ彼女を心から愛したのか、観ているこちらも納得してしまう。また、多くの人の脳裏には近年の女王のイメージがやきついているが、本作に収められた若い時代は、スター俳優のようなオーラと美しさを放っており、そのあたりがうれしいサプライズかもしれない。監督は『ノッティングヒルの恋人』などで知られるロジャー・ミッシェルだが、完成後に死去。これが遺作となってしまった。
『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』
製作年/2015年 監督/ジュリアン・ジャロルド 脚本/トレバー・デ・シルバ、ケビン・フッド 出演/サラ・ガドン、ベル・パウリー、エミリー・ワトソン、ルパート・エベレット
妹マーガレット王女とお忍びで外出!
一国の王女が庶民の生活に紛れこむ。そんなアイデアから生まれた名作といえば『ローマの休日』だが、そのモデルとなったのは、イギリスのマーガレット王女、つまりエリザベス女王の妹だとされる。本作は、エリザベス女王が王女時代に、妹のマーガレット王女とお忍びで外出するという、まさに『ローマの休日』を彷彿とさせる物語。しかも実話がベースになっている。
1945年、世界大戦の勝利を祝うイギリスで、国民と一緒に喜びを分かち合いたい19歳のエリザベス王女は、父の計らいで妹とともに特別に外出の許可を得る。
どちらかといえば羽目を外さないタイプのエリザベスと、無鉄砲な性格のマーガレット。自分勝手に行動する妹を追いかけたエリザベスは、空軍兵に何度も助けられ、ロマンティックな展開にもなっていく。王女というより、19歳の純真な少女の素顔にフォーカスしている印象もあるが、空襲で破壊されたロンドンを一般目線で見たエリザベスが、その後、国民と心を分かち合う女王になったという意味で“ひとつの原点”を描いたのも本作。
エリザベス役のサラ・ガドンは、立ち居振る舞いの美しさや、王女らしい責任感、旺盛な好奇心などを名演。ラストシーンでの未来を覚悟した表情が忘れがたい。
『ザ・クラウン』
製作年/2016年〜 原案・製作総指揮・脚本/ピーター・モーガン 出演/クレア・フォイ、マット・スミス、ヴァネッサ・カービー、アイリーン・アトキンス 配信/ネットフリックス
女王の内面に迫るエピソードに感動!
エリザベス女王の生涯をじっくり振り返るうえで最適なのが、ネットフリックスで2016年にスタートしたこのドラマシリーズ。子供時代にはじまり、恋愛や結婚、父の死による即位などが描かれるシーズン1を皮切りに、ダイアナ皇太子妃、マーガレット・サッチャー首相との女同士のドラマに焦点を当てたシーズン4まで、波乱万丈の人生が展開。これから(2022年11月)シーズン5が配信され、シーズン6で完結される予定だ。やはりエリザベス女王を主人公にした映画『クィーン』の脚本家、ピーター・モーガンが、本シリーズでも製作・脚本。エミー賞ではノミネートされた7部門すべてで受賞を果たした。
エリザベス役は、シーズン1〜2はクレア・フォイ、シーズン3〜4はオスカー女優のオリヴィア・コールマン、そしてシーズン5はイメルダ・スタウントン……とバトンタッチ。この3人だけでなく、ダイアナやサッチャーらキャストの“そっくり度”も評判を呼んでいる。シーズン3で、多数の子供たちが亡くなった炭鉱町の事故に胸を痛める姿など、女王の内面に迫ったエピソードも多いうえに、王室の知られざる裏事情もたっぷり出てくるので、驚きと感動が詰まったシリーズになっている。
photo by AFLO