『エリックを探して』
製作年/2009年 監督/ケン・ローチ 出演/スティーヴ・エヴェッツ、エリック・カントナ
カントナが人生に疲れた中年オヤジをコーチング!?
サッカー好きの郵便配達員エリックの心は痛ましいほど擦り減っていた。息子たちは言うことを聞かず、家庭内は荒れ放題。その上、別れた妻への未練や過去への後悔が募って彼を追い詰めていく。どこで道を誤ってしまったのか? もう俺はダメなのか? 精神的な限界が近づいたその時、突如目の前に降臨したのは・・・なんとサッカー界のスーパースター、エリック・カントナだった!
ケン・ローチ監督が描くのは、あのカントナが人生に疲れた中年男性をマンツーマンでコーチングするという、現実と幻想の境を超えた異色ストーリー。数々の名言、迷言で知られる”キング”だけあり、その教えの効き目は絶大で、主人公の瞳にはみるみるうちに生気がみなぎっていく。そして、職場の仲間たちと共になだれ込むクライマックスがとてつもない高揚感で、グッと拳を突き上げたくなるくらい素晴らしい。これぞ人生の応援歌。もしあなたがカントナと仲間と、それから映画の力を信じるなら、ぜひ思いっきり飛び込んでほしい傑作。
『LIFE!』
製作年/2013年 監督:スティーヴ・コンラッド 出演:ベン・スティラー、クリステン・ウィグ
人生の一歩を踏み出す勇気が湧いてくる!
フォトグラフ誌『LIFE』の写真管理部に勤務する主人公ウォルターはいつもふとしたきっかけで妄想の世界へ飛び込んでしまう人。ある日、雑誌の廃刊が決まり彼は岐路に立たされるのだが、さらに輪をかけてまずいことに、伝説の冒険家から届いたはずの最終号表紙のネガがいくら探しても見つからない。各地を転々とする彼と連絡を取るには、直接現地へ赴かなくては。ウォルターは意を決して、アイスランドやアフガニスタンなど世界の果てへ向けてリアルな大冒険へ踏み出すのだが……。
旅は人を変えるというが、デヴィッド・ボウイからアーケイド・ファイアまで、名曲に乗せて移り変わる各地の映像を見ているだけで自ずと爽快な気持ちが込み上げる。と同時に、観る者の心を熱くさせるのは、本作が“まなざし”の映画でもあるという事実。日々、誰かがそっと、あなたの頑張りや尊さを陰ながら見つめている。そのことに気づくだけで人生はずっと掛け替えなく、有意義なものへ転じていく。旅の果てに、心震わす勇気と感動を与えてくれる名作だ。
『フル・モンティ』
製作年/1997年 監督:ピーター・カッタネオ 出演:ロバート・カーライル、トム・ウィルキンソン
どん底人生もハダカになれば何とかなる!?
イングランド中部のシェフィールド。かつて鉄鋼業で栄えたこの街では80年代以降、産業が低迷し、失業したガズ(ロバート・カーライル)は毎日の職探しに加え、愛する息子の養育費の捻出にも頭を悩ませる一方だった。そんな最中、街の女性たちに大人気のとあるショーを目にした彼は、ふと奇策を思いつく。俺たちも”男性ストリップ”で一儲けできるんじゃないかーーー?
タイトルの”フル・モンティ”とは、一糸まとわぬスッポンポン状態のこと。いつしか決死の覚悟でスポットライトの前に立つ6人組の男たちは、まさに身も心も失うものなど何ひとつないからこそ、これほど晴れやかな表情で自分を思い切りさらけ出せるのだろう。最大のピンチを最高のチャンスに。人生のどん底を笑いと尊厳で彩った本作は世界中で大ヒットを記録。オスカー候補入りをはじめとする高評価も納得の、今なお微塵も色褪せぬ傑作ヒューマン・コメディだ。
『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
製作年/2019年 監督:ジョナサン・レヴィン 出演:シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン
失業中の中年ジャーナリストが美人の国務長官とまさかのフォーリンラヴ!?
気骨ある突撃取材で知られるジャーナリストのフレッド(セス・ローゲン)は、勤務先が正反対の政治理念のメディア王に買収されるのが我慢ならず辞職したものの、新たな就職先がなかなか見つからない。そんな折、パーティで再会したのが、かつての憧れの女性で、いまや若くして国務長官に上り詰めたシャーロット(シャーリーズ・セロン)。才能あるスピーチライターを探していた彼女は、なんとフレッドを大抜擢し、次なる目標である大統領選へ打って出ようとするが……。
就職活動中のジャーナリストと国務長官。一見すると不釣り合いにも思える二人だが、何でも気兼ねなく語り合えて羽目を外せる間柄ゆえ、彼らには徐々に予測不能の愛が芽生えていく。なるほど、これは言わば『ローマの休日』や『ノッティングヒルの恋人』のアメリカ版といったところか。どんな作品にも増して心底楽しそうに演じるローゲン&セロンの姿に、観てるこちら側まで幸福なニヤニヤ笑いが止まらなくなる快作。
『Mr.ノーバディ』
製作年/2021年 監督/イリヤ・ナイシュラー 出演/ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン
冴えないオヤジが我慢の限界を超え、大反撃!
職場ではマジメな会計士、家庭では良き父親。このところの主人公ハッチの日常は、胸が高鳴る出来事など何ひとつ起きず、ただ単調なリズムで過ぎゆくのみだった。そんなある日、自宅に侵入した強盗をハッチは無抵抗のまま取り逃してしまう。この一件で息子は父の勇気のなさをなじり、妻もどこか距離を置きがちになり、一家の大黒柱としての威厳は完全に失墜したと言っていい。しかし家族は知らなかった。彼の本当の素顔をーーー。
『ジョン・ウィック』で腕を鳴らしたチームが集結しているだけあり、ここからはじまるハッチの変貌劇はとにかく凄まじい。みずから危険に飛び込み、度肝ぬく身のこなしで敵の大群を瞬く間に撃破。物語は「実は正体が◯◯だった」というオチなので、あえて腰抜けキャラを演じていたというのが正しいかも。そして何より驚きなのは、主演のオデンカークが元々はアクション素人だったこと。そこから本作のために丸2年かけてカラダを鍛え上げ、どんな戦闘場面も確実に物にしている姿は興奮を超えて熱い感動すら覚えるほど。傑作アクション作を生み出した、これぞまさにリアル逆転劇!
photo by AFLO