『マイアミ・バイス』(2006年)
WOWOWで放映されているドラマシリーズ『TOKYO VICE』の製作総指揮に名を連ね、第一話では監督も務めた鬼才マイケル・マン。2015年の『ブラックハット』以降、監督を務めた作品が途絶えていただけに、この鬼才が日本で撮影を行なっていたのは映画ファンを大いに喜ばせた。『TOKYO VICE』は好評を受け、第2シーズンの製作も決定しており、今後も彼の仕事が注目されるだろう。本稿では、そんなマイケル・マンの映画の魅力に改めて迫ってみたい。
『ヒート』(1995年)
マイケル・マンの代表作は何かと問われたら、多くの人が挙げるのは『ヒート』に違いない。アル・パチーノとロバート・デ・ニーロの2大オスカー俳優を主演に迎え、ベテラン刑事と凄腕の強盗犯の火花散る攻防を描いた犯罪アクションの傑作。『トップガン』シリーズのヴァル・キルマーや『プライベート・ライアン』のトム・サイズモア、さらにウェス・ステューディ、ダニー・トレホなどなどの男くさいキャスティングに加え、当時はまだ十代だったナタリー・ポートマンもパチーノの娘役で出演するなど、キャスティングも豪華だ。本作にこそ、マン監督の魅力がすべて詰まっているといっても過言ではない。
まずは戦闘の生々しい描写。『ヒート』の中でもっとも有名なシーンは、ロサンゼルス市街地の路上で白昼に展開する、臨場感たっぷりの銃撃戦だろう。強盗犯グループは3人だけで、マシンガンを武器にして警官隊とガンファイトを繰り広げるのだが、目まぐるしくカットを変え、通りのどこで何か起きているのかを伝える的確な描写に目を奪われる。この凄みは、18世紀のインディアン戦争を題材にとり、銃に加え斧による戦いをも交えた『ラスト・オブ・モヒカン』や、大恐慌時代に悪名を馳せた銀行強盗犯、ジョン・デリンジャーの暴走にスポットを当てる『パブリック・エネミーズ』のアクションシークエンスにも通じる。
『コラテラル』(2004年)
また、銃撃戦の鮮烈さに隠れて、あまりふれられることはないが、『ヒート』には深夜の強盗シーンがあり、この場面も警察側との攻防がスリルを盛り立てる。この場面での、街灯を活かしたロサンゼルスの夜景の描写がじつにスタイリッシュ。これを推し進めたのが、同じくロサンゼルスを舞台にした『コラテラル』で、ここでは当時としては珍しい高解像度のデジタルカメラを導入した。ほぼ全編が夜のシーンである本作。従来のフィルム撮影では、夜のロサンゼルスをとらえきるのは難しいとの判断だが、車窓に流れる夜の街の景色は本作の顔とも言えよう。この技術は、マン監督が製作を務めた80年代の人気TVシリーズを、21世紀にセルフリメイクした映画『マイアミ・バイス』でも生かされている。
『インサイダー』(1999年)
そして、やはり物語の魅力。マイケル・マンの描く人間ドラマは骨っぽく、芯がある。『ヒート』に続いてパチーノが主演した実録ドラマ『インサイダー』では、たばこ業界の不正に立ち向かった男たちの信念が見る者の心を熱くした。伝説のボクサー、モハメド・アリの壮絶な半生を実話に基づいて描いた『ALI アリ』は、政府という巨大な権力を敵にしても怯まなかった男の生を浮き彫りに。『TOKYO VICE』の主人公である若き新聞記者の、圧力に屈せず、東京の暗部へと切り込んでいく意欲も同様だ。ドラマの点には、ときに“男気”と表現される、そんな魅力が宿る。
『ALI アリ』(2001年)
必然的に、マン監督の主演スターは、スターとしての輝きを存分に放つ。『ヒート』の2大俳優はもちろん、先日惜しまれつつ世を去った『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』のジェームズ・カーン、『ラスト・オブ・モヒカン』のダニエル・デイ・ルイス、『ALI アリ』のウィル・スミス、『コラテラル』のトム・クルーズ、『パブリック・エネミーズ』のジョーニー・デップ、『ブラックハット』のクリス・ヘムズワースも、マン監督の紡ぐドラマの中では存分に個性を発揮。男気を活かして役者の魅力を最大限に引き出すのも、マン監督の作品の魅力と言えよう。
『TOKYO VICE』のセカンドシーズン以外に、フェラーリの創始者を題材にした新作映画の企画も進めているというマン監督。79歳となり、ますます精力的に活動する、この鬼才の作品を、この機会に改めてじっくりと味わってみてほしい。
Michael Mann[マイケル・マン]
1943年アメリカ生まれ。テレビドラマの脚本や監督を経て、1981年『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』で劇場用映画の監督デビュー。
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