『バットマン』
製作年/1989年 原作/ボブ・ケイン 監督/ティム・バートン 脚本/サム・ハム、ウォーレン・スカーレン 出演/マイケル・キートン、ジャック・ニコルソン、キム・ベイシンガー、ロバート・ウール
世界興収4億1150万8343ドル
※Box Office Mojo調べ
バットマンは、スーパーマンと並ぶDCコミックの人気ヒーローである。では映画ファンを中心に、そのキャラクターを広く世界に知らしめた作品は何か? スーパーマンが、1978年のクリストファー・リーヴ主演作だったのに対し、そこから遅れること11年、ティム・バートン監督による『バットマン』がその役割を果たした。ティム・バートンは、これが長編3本め。その後、監督として多くのファンの心をつかむことになる彼の、キャリアも確立させた作品と言っていい。
犯罪者が幅を利かせ、暴力事件が日常のゴッサムシティで、コウモリのようなマントで空を飛び、黒のボディスーツを身にまとった謎のヒーローが、悪者に制裁を与える。“バットマン”と呼ばれるその男の正体は、大富豪の青年、ブルース・ウェインだった。少年時代に目の前で両親が強盗に殺害され、その恨みがヒーローとしての原点である。スーパーマンとは違って、外見も黒づくめ。陰のあるダークヒーロー像、バットモービルなどのガジェット、そしてブルースを親代わりで支える執事アルフレッドとの関係など、バットマンの“基本”が、この作品で描かれた。
バットマン役を任されたのは、バートンの前作『ビートルジュース』にも出演していたマイケル・キートン。当時、まだ大スターというわけではなかった彼の起用には賛否両論あったようだが、結果的に内に狂気も秘めたダークヒーローでキートンは演技力を発揮。公開されるや、スタジオやファンの不安をかき消した。
そしてバットマンといえば、最大の敵がジョーカーである。かつてバットマンとの戦いによって顔面の神経が麻痺。つねに笑っている顔となり、精神にも異常をきたし、バットマンに復讐しようとする。その素顔は、ゴッサムシティを裏で操る犯罪組織のボスの右腕であるジャック。本作では、このジャックが、ブルースの両親の殺害犯という、ある意味、わかりやすい設定になっている。ジョーカー役といえば、その後、ヒース・レジャー、ホアキン・フェニックスが演じ、ともにアカデミー賞に輝いたが、本作のジャック・ニコルソンの異様なインパクトは公開当時、大きな話題となった。この時すでに2度のアカデミー賞を受賞していた、名優中の名優であるニコルソンの怪演で、作品全体でもバットマン以上に印象が強かったのだ。
キム・ベイシンガーが演じる女性カメラマン、ヴィッキーと、ブルースのロマンチックな関係なども盛りこみながら、バットマンとジョーカーの最終バトルへ到達するストーリーは、わかりやすくシンプル。そこにティム・バートンの異形への愛が見え隠れし、そのバートンが直々に依頼したプリンスによる主題歌も大ヒット。このプリンスの曲は、現在に至るまでバットマンを紹介する際に使われたりしている。
ダークさを前面に出したスーパーヒーロー、コミックの映画化ながら社会問題にも切りこんだシビアさ……と、この後に作られる多くのアメコミヒーロー映画に与えた影響は計り知れない。バットマンの原点が、この作品なのは間違いないだろう。
『バットマン リターンズ』
製作年/1992年 製作・監督/ティム・バートン 脚本/ダニエル・ウォーターズ 出演/マイケル・キートン、ミシェル・ファイファー、ダニー・デヴィート、クリストファー・ウォーケン
世界興収2億6689万2996ドル
※Box Office Mojo調べ
前作『バットマン』の大好評を受け、3年後に公開されたこの続編は、監督ティム・バートン、バットマン/ブルース・ウェイン役がマイケル・キートンと、同じコンビで続投。シリーズものは意外にも2作めの評価が高くなる傾向があるのだが、『バットマン リターンズ』もその法則を証明。しかも今でいう“沼”にハマる人が多い、カルト的な一作となった。
ジョーカーとの戦いを終わらせたバットマンによって、ゴッサムシティにはひとときの平和が訪れた。それも束の間、サーカスの一員である怪人のペンギンは、邪悪な野望に燃えていた。さらに発電所を使ってゴッサムシティを操ろうとしているのが、実業家のマックス・シュレック。その企みを知った秘書のセリーナは、ビルから転落死させられる。しかし野良猫たちによって命が救われた彼女は、キャットウーマンとして生まれ変わるのだった……。
前作以上にダークで怪しいストーリーが展開されるわけだが、シリーズ監督2本めとなったティム・バートンのテイストが全開。ヴィラン(悪役)たちへの愛情がたっぷり込められている。ペンギンとキャットウーマン、この2人のヴィランに、観ているわれわれは感情移入してしまうのだ。
ペンギンは、奇形として生まれたために赤ん坊時代に親に捨てられたトラウマを引きずっている。キャットウーマンは、自分を殺そうとした相手に強い恨みを抱く。そんな彼らがゴッサムシティで大暴れして、人々を危険にさらすのだが、よく考えれば社会の犠牲者であり、悠々自適に生活するブルース=バットマンは、なんだか金持ち代表に見えてきてしまう。このコントラストが、ひたすら心をざわめかせ、知らず知らず敵キャラに夢中になってしまうのだ。
キャットウーマンが自分で縫うツギハギのボディスーツや、ペンギンとともに登場する巨大な黄色いアヒルのオモチャなど、アイテムにこだわるあたりにも、バートン監督のマニアックなセンスが炸裂。前作『バットマン』と本作の間にバートンは、ジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』を撮っており、異形への愛がピークを迎えていたのかもしれない。
ミシェル・ファイファーが「ミャオ」と妖艶な声で演じるキャットウーマンは、バットマンとの微妙な恋愛関係に陥り、ここもちょっと切ない。ペンギン役のダニー・デヴィートは最後まで薄気味悪いムードを醸し出し、一度観たら忘れがたいキャラが完成された。本物のペンギンたちを従える姿は、いま観ても超シュール! デヴィートはつい最近もこのペンギン役がキャリアで最高の役だと告白。チャンスがあれば再演したいそうだ。もう一人の悪役マックスには、オスカー俳優のクリストファー・ウォーケンが扮した。
結果的にティム・バートン監督、マイケル・キートンのバットマン役は、この2作めで終了してしまう。もう少しこのコンビで観たかったという渇望感も『バットマン リターンズ』を忘れがたい一作にしたのだ。
『バットマン フォーエヴァー』
製作年/1995年 製作/ティム・バートン 監督/ジョエル・シュマッカー 脚本/アキヴァ・ゴールズマン 出演/ヴァル・キルマー、トミー・リー・ジョーンズ、ニコール・キッドマン、ジム・キャリー、クリス・オドネル、ドリュー・バリモア
世界興行収入/3億3656万7158ドル
※Box Office Mojo調べ
『バットマン』『バットマン リターンズ』で、その世界観を確立させたティム・バートン監督は、前作から3年後の、この3作めでもメガホンをとる予定だった。しかしシリーズの路線が、アクションエンタメ系に軌道修正されることなどの理由で彼は監督を降板。プロデューサーに名を連ねることになった。新たに監督を任されたのは、ジョエル・シュマッカーだ。
『ロストボーイ』『フラットライナーズ』など青春映画の要素もある娯楽作で定評のあったシュマッカーだが、バートンによって誘われ、前2作でバットマン役を演じたマイケル・キートンも一緒に降板。バットマン役は、ヴァル・キルマーへバトンタッチされた。『トップガン』では主人公マーヴェリックの同僚、アイスマン役を演じて、実力派スターの階段を上っていたキルマーにとって、アクションヒーロー役は大きなチャレンジとなった。
今回、ゴッサムシティを恐怖に陥れているのは、トゥーフェイス。ハービー・デントという地方検事が、顔を損傷した事件でバットマンに恨みを抱いている。さらにバットマンに変身するブルース・ウェインが仕切るウェイン・エンタープライズで、脳に信号を送るホログラム装置を研究するニグマが、ブルースからその開発を拒絶されたことで大暴走。トゥーフェイスと手を組んで、強盗によって装置の開発資金を調達し、やがてニグマは怪人リドラーとしてバットマンの脅威となる。
この2人の悪役が、とにかく強烈なインパクトで、バットマン以上に脳裏に焼きつくのは、前2作と同じ。そしてこの3作めでも、悪役を演じるキャストが、想像以上のハイテンションである。笑いながら悪事をはたらくトゥーフェイス役は、トミー・リー・ジョーンズ。狂気と冷静さを絶妙に行き来させる演技は、名役者ならでは。そしてリドラーを演じたのが、ジム・キャリー。この前年に、キャリーは変幻自在の主人公を演じた『マスク』で大人気となっており、ノリにのってる勢いがリドラー役でも生かされた。クエスチョンマークを散りばめたグリーンの全身タイツで動き回るその姿は、異様さとコミカルさの究極の融合。そこにキャリーらしい顔芸&テンションが加わる。
このリドラーのグリーン、そして様々な模様を組み合わせたトゥーフェイスのスーツなど、この『バットマン フォーエヴァー』は、とにかくカラフル。前2作のダークな映像とは明らかに違う。シリーズ全作の中で、コミックやアニメの世界に最も近いと評されるのも納得だ。
そして3作めには、待望のキャラが登場する。バットマンの相棒であるロビンだ。ディックという青年がロビンとなるプロセスや、彼とバットマンとの関係性もドラマチックな要素のひとつ。演じたのは当時、若手人気スターだった、クリス・オドネル。また、女性キャストたちもニコール・キッドマン(犯罪心理学者のチェイス・メリディアン役)、ドリュー・バリモア(トゥーフェイスの付き人、シュガー役)と、こちらも豪華。バットマンの執事、アルフレッド役だけはマイケル・ガフが続投し、前2作との橋渡し役を務めた。
バットスーツやバットモービルのデザインも、この3作めで一新。“バートン”という名の髪がモジャモジャの博士が出てくる遊び心や、マーベル映画でアイアンマンやスパイダーマンと絡んだハッピー役のジョン・ファヴローの一瞬の出演を発見できるなど、意外にも改めて観るとネタの宝庫である『バットマン フォーエヴァー』。ヴァル・キルマーのバットマン役は、この一作のみとなった。
『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』
製作年/1997年 監督/ジョエル・シュマッカー 脚本/アキヴァ・ゴールズマン 出演/ジョージ・クルーニー、クリス・オドネル、アリシア・シルヴァーストーン、ユマ・サーマン、アーノルド・シュワルツェネッガー
世界興行収入/2億3823万5719ドル
※Box Office Mojo調べ
『バットマン フォーエヴァー』から2年後に公開された、シリーズ4作め。それまでは3年の間隔が空いていたが、前作の勢いに乗って製作が進んだ。監督は前作と同じくジョエル・シュマッカー。しかし、バットマン役はヴァル・キルマーからジョージ・クルーニーへ交代。ドラマ『ER緊急救命室』で人気を得ていたクルーニーは、この頃、映画でも話題作で主演を務めるようになっていた。
タイトルが示すように、この4作めはバットマンとロビン、2人の共闘が最大のポイントとなる。サーカス団出身で、大富豪ブルース・ウェイン(バットマン)の家で生活するようになったディックは、ロビンとしてバットマンとともに戦うことになった。しかし気合だけ十分なロビンは、経験不足によってバットマンの足手まといになったりする。彼らの前に現れたのは、氷点下の世界で生きる怪人のフリーズ。さらに南米で筋肉増強された戦士のベイン、その研究所で変貌したポイズンアイビーがゴッサムシティへやって来る。フリーズとポイズンアイビーが手を組んだことで、バットマンは決死のバトルを強いられる。
これまでもヴィラン=適役に大スターを起用してきたこのシリーズだが、本作は大物中の大物が参加した。フリーズ役のアーノルド・シュワルツェネッガーだ。ターミネーター役のイメージも重なる怪人のフリーズは、ゴッサムシティ全体を凍らせる暴挙に出ようとするが、もとは誠実そのものの化学者で、冷凍保存しようとした不治の病の妻を亡くし、悲痛な思いのまま怪人と化した。バットマンを恨む理由も、ポイズンアイビーの罠だったりして、強大なパワーのわりに同情してしまうキャラ設定。シュワの人間くさい演技も見どころとなったりと、いろんな意味で、その存在感は圧倒的!
もう一人のメインヴィラン、ポイズンアイビーは『バットマン』シリーズでも異例のセクシーキャラだ。まったく化粧っ気のなかった植物学者が植物のエキスによって、フェロモンふりまく妖艶な怪人に変貌。バットマン、ロビンにエロティックな攻撃まで仕掛け、戦闘能力も狂わせる。演じるユマ・サーマンの表情も、妖しく刺激たっぷり。
さらに注目の的になったのが、バットガールの登場だ。ブルースの執事、アルフレッドの姪であるバーバラが、やはりバットスーツとアイマスクを身につけて、バットマン&ロビンを助ける。そこに至るプロセスでは感動的なエピソードもあり、この3ショットは、観る者の胸を熱くするはず。バットガール役は『クルーレス』など青春映画で大ブレイクしたアリシア・シルヴァーストーン。
この『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』は、ちょっとした波紋も呼んだ。バットマンとロビンのスーツに“乳首”が浮き出ており、不必要なほどバットマンの下半身のアップが挿入されたりしたのだ。しかしそれも現在では“ネタ”として映画ファンは楽しんでいる。映画全体も、やや盛りこみ過ぎなストーリーで、公開当時の評価は高くなかった。バットマン役のクルーニーも、本作については自虐的コメントを放ったりしている。結果的に、予定されていた次回作は作られなかったのだが、そういった作品こそ時間をおいて観ると、ツッコミながら楽しめるのは事実。
そしてバットマンの映画は、ここから8年後の2005年、クリストファー・ノーラン監督によって復活することになる。
『バットマン ビギンズ』
製作年/2005年 監督・脚本/クリストファー・ノーラン 出演/クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソン、ケイティ・ホームズ、ゲイリー・オールドマン、渡辺謙、モーガン・フリーマン
世界興行収入/3億7366万1946ドル
※Box Office Mojo調べ
1997年の『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』から8年後、バットマンの実写作品を改めてスタートさせたのは、クリストファー・ノーラン監督だった。『メメント』(00)や『インソムニア』(02)での独創的な演出で、映画ファンの間で一気に知名度が高まっていたノーラン。その作風から、バットマンのシリーズは、以前の作品と違ってシリアス&ダークに進化すると予感された。
新たにバットマン/ブルース・ウェイン役を任されたのは、クリスチャン・ベール。スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(87)で主役に抜擢されて以来、演技派スターの道を進んできたベール。直前の『マシニスト』(04)では役作りのため、骨と皮の肉体へ激痩せするなど、演技へのこだわりはハリウッドでもトップクラス。このベールのキャスティングも、バットマンの新たな方向性を示すことになった。
大富豪の家に生まれたブルース・ウェインは、幼い頃に井戸でコウモリの大群に出会う。さらに目の前で両親が殺害され、そのトラウマを抱えたまま成長した彼は、犯罪者の心理を知るために旅立ち、ヒマラヤの奥地に潜む“影の同盟”で心身を鍛える。その後、ゴッサムシティに戻ったブルース。悪と戦う自分の使命を認識し、バットマンのマスクとコスチュームを身につけると決意するのだった……。
タイトルの“ビギンズ”が示すように、バットマン誕生のストーリーが描かれる本作。悩める青年がヒーローとして覚醒するストーリーなのだが、安易にシンパシーを感じさせないところも作品の魅力になっている。ゴッサムシティの風景も徹底してダークなビジュアルで再現されるし、ブルースの“お金持ち”としての傲慢な振る舞いなども描かれ、前シリーズとは明らかに違う不穏な空気が漂う。
共演者にも超実力派スターが集結。ブルースの親代わりとなった執事のアルフレッドに、マイケル・ケイン。バットマンのアーマーや車といった装備を開発するルーシャスにモーガン・フリーマン、ゴッサムシティの警部補でバットマンに協力するゴードンに、ゲイリー・オールドマンと、オスカー俳優が勢ぞろい。公開当時、日本で話題になったのは、ヒマラヤで出会う“影の同盟”のラーズ・アル・グール役。『ラスト サムライ』(03)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた渡辺謙が演じたからだ。
ゴッサムシティのマフィア組織ともつながる精神病院の医師で、宿敵となるスケアクロウとの闘いや、ブルースと、幼なじみであるレイチェルのラブストーリーも、とことんシリアス。多くの人が、それまでのアメコミヒーロー映画の常識が変わったと感じたのも無理はない。クライマックスのバトルは破格のスケールだし、終盤には、あのジョーカーの存在も予告され、次回作への期待を大いに高めた。“ダークナイト・トリロジー(3部作)”の中で本作を絶賛する人は少ないものの、バットマンの基礎を知るうえで最適な一本なのは間違いない。改めて観れば、後の展開へのさまざまな伏線も発見できる。
『ダークナイト』
製作年/2008年 原案・監督・脚本/クリストファー・ノーラン 脚本/ジョナサン・ノーラン 出演/クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、ゲイリー・オールドマン、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール、モーガン・フリーマン
世界興行収入/10億597万3645ドル
※Box Office Mojo調べ
クリストファー・ノーラン監督によるバットマンを主人公にした“ダークナイト・トリロジー(3部作)”。その真ん中にあたる2作めで、タイトルも『ダークナイト』とトリロジーの中心になっている本作。ちなみに“ナイト”は夜(Night)ではなく、騎士(Knight)の意味。『バットマン ビギンズ』を撮っていた頃のノーランは、続編の構想はなかったそうだが、3年後に完成。ゴッサムシティで闇の騎士、バットマンのあまりに劇的な運命が展開していく。
冒頭から異様なテンションに引き込まれる。あのジョーカーとその一味が銀行を襲撃。容赦なく人々の命を奪い、大金を持ち去るまでが、息もつかせぬスピード感と巧みなカット割り&編集で演出されるからだ。ジョーカーの卑劣さ、不気味さに、観ているわれわれもゴッサムシティの住民になった気分で戦慄をおぼえる。
そのジョーカーに対し、バットマンは、ゴードン警部補、新たに赴任してきた地方検事のハービー・デントと手を組むも、凶悪事件は次々と続いていた。ジョーカーはマフィアも操り、一般市民も殺害。その後、ハービーはジョーカーの仕掛けた作戦で、顔の半分を損傷する大火傷を負い、ブルース(=バットマン)が愛するレイチェルも信じがたい悲劇に見舞われることに……。
逮捕されたにもかかわらず、凶悪な罠を仕掛けるなど、最初から最後までジョーカーの恐ろしさが作品全体を支配。以前のジャック・ニコルソン版とは違って、道化師のメイクも薄汚れている。演じたヒース・レジャーが、本作公開の半年前に28歳の若さで急死したことで、このジョーカー役は“伝説”と化した。実質的な遺作として、一般人の感覚を超える狂気、その凄みは何度観ても圧倒される。ヒースは本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞。死後にオスカーを受け取った2人めの俳優となった。
そのアカデミー賞では8部門にノミネートされながら、作品賞にノミネートされなかったことで多くの批判の声も上がった。それまでアメコミヒーロー映画が作品賞に絡むことはなかったが、この『ダークナイト』は観客、批評家の両方から大絶賛を受けていたからだ。2008年の世界興収でもぶっちぎりのトップ。当時は史上4位の記録となった。
ジョーカーの描写以外にも、ハービー・デントの顔面の損傷など衝撃的シーンは多数。ハービーはそのケガによって、『バットマン フォーエヴァー』にも登場したトゥーフェイスへと変貌する。さらにバットマンのスーツの新たな装備や、オートバイを変形させたバッドポッドなど、ガジェットの新たな魅力がたっぷり。悲壮な決意を胸に、バットマンがバットポッドで街を駆け抜けるラストシーンは、映画史に残るカッコよさだと断言したい。
また本作は、劇場用の長編映画としては初めて、IMAXカメラを使って撮影された(全編の中の約30分)。その後、クリストファー・ノーラン監督は『ダンケルク』(17)、『TENET テネット』(20)などで、このIMAXカメラを多用することになる。キャストの渾身の演技も、容赦ないストーリーも、そして重厚な映像も、あらゆる点でアクション映画の歴史を変えた『ダークナイト』は、後に続く多くの作品に影響を与えたのだ。
『ダークナイト ライジング』
製作年/2012年 製作・原案・監督・脚本/クリストファー・ノーラン 出演/クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アン・ハサウェイ、トム・ハーディ、マリオン・コティヤール、ジョセフ・ゴードン=レビット、モーガン・フリーマン、キリアン・マーフィ
世界興行収入/10億8115万3097ドル
※Box Office Mojo調べ
ヒーロー映画の常識を変え、世界中で熱狂的な支持を集めた『ダークナイト』から4年後の2012年。この作品で、“ダークナイト・トリロジー(3部作)”は、ついに完結を迎える。
前作でジョーカーやトゥーフェイスとの死闘を乗り越えたバットマンは、喪失感や無力感も抱えながら、8年もの間、人前から姿を隠していた。ゴッサムシティではゴードンが市警本部長となり、街の治安を守る日々が続く。バットマンの正体であるブルース・ウェインも、自社のウェイン財閥を管理しながら、引きこもった生活を送っていたが、怪盗キャットウーマンが彼の屋敷に侵入。その裏では、かつてブルースが壊滅させた“影の同盟”とも関係があり、彼を心から憎むベインが暗躍していた。
ゴッサムシティの危機を察して、ブルースは8年ぶりにバットマンとして活動することを決意。しかしベインの計画は、ウェイン財閥の所有するエネルギー原子炉をメルトダウンさせるという恐ろしいものだった。このあたりは公開当時、日本の観客にもリアルな衝撃とインパクトを与え、一部で物議を呼んだのも事実だ。
この『ダークナイト ライジング』で最も強烈な印象を残すのは、ベインのキャラクター。スキンヘッドの頭部が独特なマスクでカバーされ、覆われた口の部分の隙間から声を発するのだが、その音が異様に不気味。さらに肉体は超マッチョに鍛え上げられ、“怪物”という表現がふさわしい。そんなベインがブルースを地下の牢獄に閉じ込め、ゴッサムシティでは囚人を解放するなど、すさまじい猛攻をみせる。ベインを演じたのは、トム・ハーディ。本作の後、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(14)でも過激なヒーローを演じ、マーベル作品の『ヴェノム』2作(18〜21)で主役を務めた。じつはDCコミックの原作で、ベインは“ヴェノム”という筋肉増強剤を投与され、あの肉体が完成しており、トム・ハーディにとっては不思議な繋がりとなった。
ベインに協力しつつ、ブルースにとって重要な存在にもなるキャットウーマン役は、アン・ハサウェイ。本作と同じ年に公開された『レ・ミゼラブル』(12)でアカデミー賞助演女優賞を受賞しており、そのキャリアは最高潮。キャットウーマンとして、スリム&セクシーな魅力を存分にふりまいている。バットマンとして復活するために、ブルースが過酷なトレーニングを続けるシーンもあり、この『ダークナイト ライジング』は俳優たちの肉体で圧倒する一作でもある。
ブルースの新たな恋人、ミランダとの思わぬドラマ、さらにガジェットとしては、戦闘機“ザ・バット”の登場など、多くの見どころが詰め込まれ、トリロジーとして完結するクライマックスは衝撃の後に、未来への新たな光がもたらされる美しい幕切れ。全世界では前作『ダークナイト』を上回る興行収入を記録した。
クリスチャン・ベールがこうして3作で演じきったバットマン役は、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)、『スーサイド・スクワッド』(16)、『ジャスティス・リーグ』(17)でのベン・アフレック、そして2022年公開の『THE BATMAN –ザ・バットマン-』のロバート・パティンソンへと受け継がれていく。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』 3月11日(金)公開
監督・脚本/マット・リーヴス 脚本/マットソン・トムリン 出演/ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライト 配給/ワーナー・ブラザース映画
2022年/アメリカ/上映時間176分
スーパーヒーロー映画が乱立する、ここ数年。中でも何度も映画になってきた“メジャー系”のキャラクターは、その進化を楽しめるという特別感がある。バットマンは、まさに最高のサンプル。誰もが知るダークヒーロー、その新たな幕開けという点で必見の最新作が公開される。
今回、ブルース・ウェイン=バットマン役を任されたのが、ロバート・パティンソン。『トワイライト』シリーズなどで人気スターになった彼だが、このところ『ライトハウス』などでのアクの強い演技、『TENET テネット』の名サポート役などで、俳優としての円熟味が増してきた。今回のバットマンは、ゴッサムシティでの英雄というより、事件を解決する探偵という印象も強い。両親を殺されたブルースがバットマンのコスチュームを身につけ、ゴッサムシティで起こった殺人事件の捜査で、ゴードン刑事に協力。街の有力者が次々と犠牲になるなか、犯人の標的がバットマンであることも判明していく。そこに政府の腐敗やバットマンの過去が絡み、衝撃のストーリーが展開することに……。
『ダークナイト』3部作や『ジョーカー』を受け継ぎ、この新作も超ダークなムード。ゴッサムシティの風景は妖しい暗さで統一され、起こる殺人事件やバオイレンスも強烈なインパクト。犯人のリドラーが残す不気味な暗号も含め、『セブン』のようなサイコスリラーの味わいも濃厚だ。そのリドラーや、ペンギン(コリン・ファレルがまったく違う顔に変貌!)といった悪役も生々しく、映画全体が独特の“世界”を形成している印象。パティンソンのブルース=バットマンは悩めるロックスターのようだし、アクションでは意外な動きも見せたりする。さらに、キャットウーマンとの関係も想像力を刺激して、いろいろ予想を裏切る演出やシーンで176分を飽きさせない。またもやヒーロー映画を革新する重厚体験になるはずの本作。もちろんラストシーンの意味も、この上なく重要だ!
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